概要
病因
ZAP70遺伝子(2番染色体q12)の変異により発症する常染色体劣性遺伝形式の疾患である.これまでに複数の変異が報告されており,その変異の多くは酵素活性に関わる部分に認められ,蛋白の不安定化や酵素活性の低下が生じる. ZAP-70はT細胞の抗原認識のシグナル伝達に必須の非受容体型蛋白リン酸化酵素であり,シグナル伝達の結果としてIL-2の産生やT細胞の芽球化増殖が起こる.また,ZAP-70は胸腺におけるCD8の分化においても重要な役割を果たしている事が示唆されている.ZAP-70欠損症では上記の経路が阻害される結果,T細胞活性化障害と末梢血でのCD8陽性T細胞の著明な減少を認める. さらにT細胞の活性化障害のためB細胞の抗体産生も通常は見られない(一部の症例では抗体産生が確認されており,その違いについては不明な点もある).これらの結果として複合免疫不全症を呈する.
疫学
非常に稀な疾患であり,本邦では数例の報告のみである.世界は数家系,十数人の患者が報告されている.
臨床症状
反復する上気道感染・中耳炎,真菌感染などT細胞機能不全に関連する症状がみられる. 頻度は低いがニューモシスチス肺炎やサイトメガロウイルス肺炎,慢性下痢やそれに伴う成長・栄養障害も報告されている.
治療
各種感染に対しては,抗菌薬・抗真菌薬・抗ウイルス薬による治療が必要となるが,複合免疫不全症であり根治治療として早期の造血幹細胞移植が必要となる. また,各病原体に対する予防治療も推奨される. 遺伝子治療はまだ施行されていないが,研究レベルでは検討・検証が進められている.
合併症
自己免疫性血球減少症や潰瘍性大腸炎など自己免疫性疾患の合併が報告されている.リンパ腫の合併も報告されている.
- 版
- :バージョン1.0
- 更新日
- :2014年10月1日
- 文責
- :日本免疫不全症研究会