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血栓性血小板減少性紫斑病

けっせんせいけっしょうばんげんしょうせいしはんびょう

thrombotic thrombocytopenic purpura

告示

番号:18

疾病名:血栓性血小板減少性紫斑病

疾患概念

血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura: TTP)は、血小板減少、細血管障害性溶血性貧血(microangiopathic hemolytic anemia: MAHA)、血小板減少、腎障害、発熱、動揺性精神神経症状の古典的5徴候(文献1)を特徴とする疾患で、全身の微小血管に血小板血栓が形成されることで発症する。5徴候がすべて揃うことはTTPの病期が進行していることが明らかとなり、最近では他に原因のない血小板減少とMAHAの存在で本疾患を疑うことが重要と考えられている(文献2,3)。TTPのほとんどが後天性であるが、先天性TTP(Upshaw-Schulman症候群:USS)では、MAHAが明らかではない症例が存在するので血小板減少が最も重要な指標となる。von Willebrand因子(VWF)切断酵素であるADAMTS13 (a disintegrin-like and metalloproteinase with thrombospondin type 1 motifs 13) 活性が10%未満に著減していれば診断を確定できる。(文献4,5)。

疫学

米国の死亡統計をもとにした推計では、毎年のTTP患者の発症頻度は100万人あたり3.7人との報告がある(文献6)が、疾患の認識の広がりととともに発症率が増加していると報告されている。また、ADAMTS13活性著減例の発生は、毎年100万人あたり1.74人と報告されている(文献7)。後天性TTPの発症は、30~50歳代の女性に多いとされているが、日本国内の検討では60歳前後に発症ピークがあり、高齢者になるほど男性の発症率が若干高くなる(文献8)。後天性であっても小児例も存在し、生後8か月で発症した症例が報告されており、USSとの鑑別が必要である。また、USSは先天性疾患でありながら小児期までに診断される疾患ばかりでなく、成人後60歳をすぎて発症している症例も存在する(文献9)。成人発症で最も多いのが妊娠時に診断される症例である。しかし、成人発症の症例でも、小児期に血小板減少の既往があることが多く、原因不明の血小板減少の症例では一度はADAMTS13活性を測定することが重要である。

病因

止血因子であるVWFは血管内皮細胞で超高分子量VWF多重体(unusually-large VWF multimers, UL-VWFM)として産生され、様々な刺激によって内皮細胞から血液中に放出される。この時、UL-VWFMはADAMTS13によってただちに切断され、止血に必要な低分子のVWFとなる。VWFはその分子量によって、血小板との反応性が異なり、UL-VWFMは最も活性が強く、血小板血栓を作りやすい。ADAMTS13活性が著減するとUL-VWFMが切断されず、末梢の細動脈等で生じる高ずり応力下で過剰な血小板血栓を生じることで、TTPが発症する。

臨床症状

古典的5徴候の典型的な基準を示す。(「診断の手引き」参照)
  1. 血小板減少
  2. 血小板数が10万/μL未満。1-3万/μLの症例が多い。
  3. 細血管障害性溶血性貧血(microangiopathic hemolytic anemia: MAHA)
  4. MAHAは、赤血球の機械的破壊による貧血で、ヘモグロビンが12 g/dL未満(8-10 g/dLの症例が多い)で溶血所見が明らかなこと、かつ直接クームス試験陰性で判断する。溶血所見とは、破砕赤血球の出現、間接ビリルビン、LDH、網状赤血球の上昇、ハプトグロビンの著減などを伴う。
  5. 腎機能障害
  6. 尿潜血や尿蛋白陽性のみの軽度のものから血清クレアチニンが上昇する症例もあり。ただし、血液透析を必要とする程度の急性腎不全の場合は溶血性尿毒症症候群(HUS)が疑われる。
  7. 発熱
  8. 37℃以上の微熱から39℃台の高熱まで認める。
  9. 動揺性精神神経症状
  10. 頭痛など軽度のものから、せん妄、錯乱など

診断

診断手引きはこちら

治療

先天性TTP(USS)
2週間ごとに新鮮凍結血漿(FFP)を定期的に輸注(5~10 mL/Kg)している症例がある一方で、平素は無治療で発作時にのみ新鮮凍結血漿(FFP)を輸注している症例もある。
後天性TTP
有効性に科学的根拠があるのは、血漿交換のみである(文献2)。循環血漿量の1~1.5倍量のFFP(体重1kgあたり50~75 ml)を用いて、血小板数が2日続けて正常化するまで連日血漿交換を行う。多くの症例では血漿交換にステロイドパルス療法または、高用量プレドニゾロンが併用されている。2020年2月、後天性TTPに対してCD20に対するモノクローナル抗体リツキシマブが適応拡大され、ガイドラインで再発・難治例に対して推奨されている(文献5)。急性期のTTPにも有効であることが、海外から報告されている(文献10)。

予後

USS患者の長期予後は不明であるが、慢性腎不全のため血液透析を受けている症例が報告されている。後天性TTPでは、血漿交換を実施しなければ致死率90%以上であったが(文献2)、最近では15~20%と報告されている(文献8)。また、ADAMTS13活性著減例では再発が多いことも特徴であり、1年間に1/3の症例が再発するとも報告されている

成人期以降の注意点

先天性TTP (Upshaw-Schulman症候群)であっても成人期になって診断されることがある。成人期の妊娠中にTTP発症して診断されることが多い。

参考文献

  1. Amorosi EL, et al. Thrombotic thrombocytopenic purpura:report of 16 cases and review of the literature. Medicine 1966; 45: 139-159.
  2. Rock GA, et al. Comparison of plasma exchange with plasma infusion in the treatment of thrombotic thrombocytopenic purpura. Canadian Apheresis Study Group. N Engl J Med 1991; 325: 393-397.
  3. Scully M, et al. Guidelines on the diagnosis and management of thrombotic thrombocytopenic purpura and other thrombotic microangiopathies. Br J Haematol 2012; 158: 323-335.
  4. Furlan M, et al. von Willebrand factor-cleaving protease in thrombotic thrombocytopenic purpura and the hemolytic-uremic syndrome. N Engl J Med. 1998; 339: 1578-84.
  5. 厚生労働科学研究費補助金「血液凝固異常症等に関する研究」班、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)診療のガイド2020
  6. Torok TJ, et al. Increasing mortality from thrombotic thrombocytopenic purpura in the United States-analysis of national mortality data, 1968-1991. Am J Hematol 1995;50:84-90
  7. Terrell DR,et al: The incidence of thrombotic thrombocytopenic purpura-hemolytic uremic syndrome: all patients, idiopathic patients, and patients with severe ADAMTS-13 deficiency. J Thromb Haemost. 2005;3:1432-1436
  8. Matsumoto M, et al. Acquired Idiopathic ADAMTS13 Activity Deficient Thrombotic Thrombocytopenic Purpura in a Population from Japan. PLoS One. 2012; 7: e33029.
  9. Fujimura Y, et al. Natural history of Upshaw-Schulman syndrome based onADAMTS13 gene analysis in Japan. J Thromb Haemost. 2011;9 Suppl 1:283-301.
  10. Scully M, et al. A phase 2 study of the safety and efficacy of rituximab with plasma exchange in acute acquired thrombotic thrombocytopenic purpura. Blood. 2011; 118: 1746-53.
:バージョン1.0
更新日
:2014年10月1日
文責
:日本小児血液・がん学会