1. 糖尿病
  2. 大分類: 糖尿病
2

2型糖尿病

にがたとうにょうびょう

Diabetes mellitus type 2

告示

番号:6

疾病名:2型糖尿病

概念・定義

日本人小児2型糖尿病患者の約70~80%は、診断時に肥満を伴っていることが明らかになっている。一方、成人の糖尿病患者では、あまり肥満は顕著ではない。つまり、近年、小児で増加している2型糖尿病は、従来から日本人でみられる2型糖尿病と病因・病態が異なるものであることが示唆される。肥満を伴う小児2型では、内臓脂肪の蓄積があり、それに伴ってアディポサイトカインの分泌異常が起き、インスリン抵抗性が高まることが、主要な病因と考えられている。内臓脂肪の蓄積とそれに伴うインスリン抵抗性の増大を中心とした代謝異常は、メタボリックシンドロームとして現在、広く知られている。言い換えると、近年小児で増加している2型糖尿病は、メタボリックシンドロームを基礎にして進行した糖尿病と考えられる。 ただし、20~30%の患者では肥満を伴っておらず、インスリン抵抗性というより、インスリン分泌の低下を主体とする群もある。この群では、インスリン分泌を促す経口血糖降下薬が用いられる。

疫学

わが国の小児慢性特定疾患治療研究事業(小慢事業)に登録された小児糖尿病患者は約6,200人で1型糖尿病が約80%(5,000人)、2型糖尿病が20%弱(1,100人)、その他の糖尿病が約2%弱(120人)であった。ここ10年間に登録された2型糖尿病の患者数は、年間200~250例であり、特に増えていない。2000年以降、小児における肥満頻度の増加が頭打ち、あるいはやや減少傾向を示すといわれている。東京都では小児2型糖尿病の発症も2000年以降、増加していないと報告されている。2型糖尿病の男女比をみるとやや女子の方が多い。 わが国での小児2型糖尿病の発症率は、生理的インスリン抵抗性が加わる思春期に急増し、この年齢層では1型糖尿病の発症率を上回る。小慢事業に新規登録された2型糖尿病症例の発症(診断時)年齢の分布をみると、8~9歳から発症が増加し、13~14歳にピークがみられた。

病因

2型糖尿病は、インスリン抵抗性が主体で相対的インスリン欠乏を伴うものから、インスリン分泌不足が主体でインスリン抵抗性を伴うもの、あるいは伴わないものまで分布する。  日本人小児2型糖尿病患者の約70~80%は、診断時に肥満を伴っていることはすでに報告されている。2型糖尿病患者(6~17歳)では、肥満度20%以上が70.2%であった。特に肥満度50%以上の高度肥満が30.9%と高頻度であった。 多くの2型糖尿病は、小児においても遺伝因子と環境因子(食習慣・運動習慣)の関与のもとで肥満がおこり、内臓脂肪の蓄積に伴ってインスリン抵抗性が高まって、さらにインスリン分泌の低下が起こることが、主要な病因と考えられている。脂肪細胞から分泌される様々なアディポサイトカインが、インスリン抵抗性、高血圧、動脈硬化などを引き起こす。中でも内臓脂肪の増加に伴うTNF-αの増加やアディポネクチンの低下は、インスリン抵抗を誘導する主要な因子である。高血糖が持続すると、さらに膵β細胞からのインスリン分泌不全が進行する。 一方、わが国では肥満症もなく発症時非肥満であるものが20~30%を占めることも報告されている。この群は成人と同様にインスリン分泌不全が主体であると考えられている。

症状

2型糖尿病の多くは学校検診尿糖スクリーニングで発見されるが、診断確定時は無症状であることが多い。軽度の糖尿病症状を示すこともある。肥満を伴う2型において、糖尿病ケトアシドーシス(Diabetic Ketoacidosis:DKA)で発症することもある(清涼飲料水ケトーシス)。 高度の肥満児では、特に症状がなくともOGTTで4~7%に2型糖尿病が発見されるという報告がある。頸部などに黒色表皮腫があると、約7倍2型糖尿病の頻度が高くなる。

診断

糖尿病の自覚症状があり、随時血糖が200mg/dl以上のときには、診断のために経口糖負荷試験(OGTT)を行う意義はない。むしろ高血糖時にさらに糖負荷をするのは危険でありOGTTを行うべきでない。 OGTTの実施方法としては、早朝空腹時に小児では1.75g/kg標準体重(Max75g)のブドウ糖溶液を5分程度かけて服用させ、血糖値とIRIを負荷前、および負荷後30分、60分、120分と4回測定する。また、腎性糖尿の鑑別のためには負荷後1、2時間の尿中糖量を測定する。 血中GAD抗体、IA-2抗体などの膵島関連自己抗体は、陰性である。 日本人小児では、70~80%に肥満がみられる。2型糖尿病の家族歴が、50%以上の症例にみられる。 残存膵β細胞機能を、血中Cペプチド値、尿中Cペプチド値などによって評価する。 肥満があり、インスリン抵抗性が主体であれば、血中Cペプチド値、尿中Cペプチド値は基準値以上を示す。空腹時血中Cペプチド値の基準値は、1~3ng/mLであり、24時間尿中Cペプチド値の基準値は、40~100μg/日である。 肥満を伴いインスリン抵抗性の高い例では、皮膚所見として黒色表皮腫がみられる。 高血糖が確認されたら、尿ケトン体あるいは血中ケトン体高値(ケトーシス)の有無、さらに血液ガス分析を行って、DKAの有無を検査する。 わが国では1992年から全国規模で学校検尿の必須項目として尿糖検査が加えられた。早朝第一尿を用いて、腎疾患とともに糖尿病の検診が行われている。その結果、多数の2型糖尿病と少数ではあるが、緩徐進行1型糖尿病(SPIDDM)を主とした1型糖尿病が病初期の段階で発見されている。ただし、地域ごとに学校検尿で発見された児童への対応が異なっているのが現状である。尿糖陽性の児童にについて確定診断の結果や治療経過などのデータが残されている地域は限られている。また、学校検尿により腎性糖尿も多く発見されている。血糖上昇のない腎性糖尿の児童に余分な検査や心理的ストレスがかからないよう、しっかりした対応が必要である。 肥満がなく、インスリン分泌機能が比較的低く、膵島関連自己抗体が陰性で2型糖尿病と考えられる症例の中に、MODY(maturity-onset diabetes of the young)やミトコンドリア遺伝子異常症などの単一遺伝子異常によるものも紛れ込んでいる。このような症例では遺伝子検査も必要になる。

治療

2型糖尿病の治療の基本は、食事・運動療法である。肥満を伴う場合は、肥満の改善である。良好な血糖コントロールが得られない場合、インスリン抵抗性やインスリン分泌不全の病態に基づいて経口血糖降下薬の投与やインスリン治療を行う。 1)食事・運動療法、生活習慣の見直し バランスのよい食事をとり、砂糖を含む甘いもの(ジュース、チョコレートなど)を避けることを基本とする。総エネルギー量は、性、年齢、身長別標準エネルギー量を参考とし、肥満が高度の場合にはその80%程度とする。 学校での体育の授業のほか、部活動で運動を行うことを勧める。適当な運動部がない場合、速歩きの散歩を家族で行たり、日常生活のなかでの歩数を増やす工夫を行う。 2)薬物療法 インスリン抵抗性が主体の例で、高血糖のみでケトーシスを伴わない場合は、塩酸メトホルミンを第一選択とする。メトホルミンは、肝臓での糖新生の抑制、末梢組織でのインスリン感受性の改善作用により血糖降下作用を発揮する。 空腹時血糖値が正常で食後高血糖のみが問題の例では、α―グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)を用いる。 インスリン分泌不全が進行していると考えられる例では、スルホニル尿素(SU)薬を用いる。グリメピリドは、インスリン抵抗性改善作用を併せ持つSU薬である。 高血糖是正のためにインスリン治療を行う場合もある。DKAを伴いインスリン依存状態と考えられれば、速やかにインスリン治療を開始する。 単剤にて十分な血糖コントロールが得られない場合、作用機序の異なる経口血糖降下薬を追加するか、インスリンへの切り替え、あるいは併用を行う。持効型溶解インスリンの1回打ちから始めることが多い。超速効型と中間型の混合型インスリンも用いられる。 2003年に日本小児内分泌学会が行った調査によると、わが国では小児2型糖尿病患者の約70%で薬物療法が行われていた。中でもメトホルミンは、肥満を伴うインスリン抵抗性の強い症例で第一選択と考えられており、実際にわが国の小児にも多く使用されている。 また、この調査で明らかになったもう一つの重要なことは、一部の症例では、18歳未満の時期に既に多剤併用への移行がみられ、約30%の症例でインスリン治療が開始されていたことである。2型糖尿病は1型に比べ、比較的軽症と思われがちであるが、長期的にみると決してそうではない。小児2型糖尿病の一部は、「進行性の病気」であることを認識しておくべきである。 インクレチンの1つであるGLP-1(Glicagon-like peptide-1)の誘導体とGLP-1を分解するDPP-4(Dipeptidyl peptidase-4)の阻害薬が、新たな2型糖尿病治療薬として開発され、臨床試験が行われてきた。あまり肥満がなく、インスリン分泌障害を主体とする日本人成人の2型糖尿病では非常に有効であると報告されている。小児例での有効性も期待されるが、特にDPP-4阻害薬については長期の安全性が確立されておらず、小児への投与は慎重に考慮すべきである。

予後

糖尿病の慢性合併症には、細小血管症(網膜症、神経障害、腎症)と大血管症(心疾患、脳卒中、など)がある。特に肥満を伴う2型では、高血圧、脂質代謝異常(中性脂肪高値、HDLコレステロール低値、LDLコレステロール高値)にも注意が必要である。 小慢事業に登録された2型糖尿病患者のHbA1c値の分布をみると、HbA1c 7.0%未満は約40%である。しかし、HbA1c 9.0%以上のコントロール不良例が約35%みられている。腎症の発症は1型よりむしろ2型の方が多いという報告がある。 2型糖尿病は自覚症状が乏しいことが多く、また、食事・運動療法や経口血糖降下薬によって一時的に改善することが多いため、ドロップアウトする率が高い。ドロップアウト例では網膜症や腎症などの合併症の重症化が起こりやすいので、アドヒアランスの向上をはかり長期的にフォローアップすることが重要である。

文献

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:バージョン1.0
更新日
:2014年10月1日
文責
:日本小児内分泌学会