1. 慢性心疾患
  2. 大分類: 心室中隔欠損症
57

心室中隔欠損症

しんしつちゅうかくけっそんしょう

Ventricular septal defect

告示

番号:31

疾病名:心室中隔欠損症

概念・定義

左右の心室の間の壁である心室中隔に孔のあいている先天性心疾患。心室中隔は膜様部中隔と筋性部中隔に分けられ、筋性部中隔は更に流入路中隔、肉柱部中隔、および流出路(漏斗部)中隔に分けられる。これらの部位に欠損孔が認められる。欠損孔の大きさ、位置により臨床症状、治療方針が異なる。肺高血圧の合併がなく、左右短絡が少ない例では原則として外科治療の適応はなく、感染性心内膜炎に注意しながら経過観察する。大動脈弁の嵌入逸脱をともなう例では小短絡であっても外科治療が必要となることがある。肺体血流量比が2.0以上で多呼吸、哺乳障害、体重増加不良、気道感染の反復などの症状がある場合には内科治療と手術を行う。肺高血圧を合併した例では症状が軽微であっても6カ月以内に心内修復術を行う。肺高血圧がなくとも肺体血流量比が2.0以上で左室容量負荷所見を認める場合には就学前に心内修復術を行うことが多い。

病因

ダウン症候群や18トリソミーなどの染色体異常で頻度が高いことが知られているが、原因は不明で多因子遺伝によるものと想定されている

疫学

大動脈二尖弁を除くと先天性心疾患のなかで最も頻度が高く、出生1000に対して1.35-2.94で先天性心疾患の約20%を占めると言われている

臨床症状

小欠損の場合には心雑音が聴取されるだけで、自覚症状はまったくない。雑音は2/6~4/6度の汎収縮期性雑音で、最強点は第4肋間左縁である。II音は正常で拡張期雑音はない。大欠損の場合には、乳児期早期から心不全を生じることが多く、呼吸数増加、哺乳不良が必発である。体重増加不良、発汗、蒼白で冷たい皮膚を認め、呼吸器感染症を合併した場合は呼吸状態がしばしば悪化する。太い肺動脈が気管支を圧迫し気管支閉塞を合併すると喘鳴と呼吸困難の発作を生じる。大欠損の場合には小欠損に比べて収縮期雑音は小さいが、多量の左右短絡を反映して心尖部に拡張期雑音を聴取する。肺血管抵抗が高くなると収縮期雑音は逆流性から駆出性となり、雑音は小さく、かつ短くなる。肺野で小水泡音がきかれる。心不全のある場合には右肋骨弓下に肝臓縁を触れる。浮腫を生じることはまれである。多量の左右短絡によって重度の肺高血圧を呈し、生後6ヵ月ごろから肺血管閉塞性病変が進行する。 漏斗部や膜様部の大動脈弁に接する位置にある心室中隔欠損では、左右短絡量は少なくとも大動脈弁の嵌入逸脱による大動脈弁閉鎖不全が問題となることがある。 胸部エックス線では肺血流量増加の程度に応じて肺血管陰影が増強し、心陰影は拡大する。肺高血圧をともなう大欠損では右房・右室も拡大する。肺血流量増加が軽度の小欠損では異常所見を認めないこともある。 心電図では左右短絡により肺血流が増加している例では左室肥大となる。肺高血圧を伴う場合には右室肥大も生じ両室肥大となる。肺血管閉塞性病変が不可逆的なEisenmenger症候群では右室肥大だけが残る。 心エコーでは左右短絡量に応じて左房と左室が拡大する。肺高血圧を合併した場合には右心系の拡大を認め、肺動脈圧の程度に応じて心室中隔は収縮期に扁平化する。ドプラエコーにより短絡血流を描出することにより欠損孔の部位を診断できる。また、短絡血流の最高流速を測定することにより左右心室間の収縮期圧較差を推測したり、断層心エコー図との組み合わせでおおよその肺体血流量比を計算することができる。 大動脈弁の嵌入逸脱およびこれにともなう大動脈弁閉鎖不全の評価には心エコー検査が有用である。 心臓カテーテル検査では血液酸素飽和度が右室で上昇している。小欠損では左室造影で心室中隔を介するジェット状の短絡血流を認める。中等度の心室中隔欠損では肺動脈と右心室の収縮期圧が30~50mmHgと上昇し、肺体血流量比は1.5から3である。左室造影では大量の造影剤が心室中隔欠損を通り、右室と肺動脈へ流れる。大きい心室中隔欠損では右室と肺動脈の収縮期圧が左室・大動脈の圧にほぼ等しい。肺動脈拡張期圧は大動脈拡張期圧より低い。 小さい心室中隔欠損では心臓・大血管の内圧は正常で、肺体血流量比は1.5未満である

診断

重症度の診断と合併する他の先天性心疾患の診断が重要である。重症度は全体の病状、胸部エックス線所見、心電図、心エコー所見、その他を総合して診断する。大動脈縮窄、僧帽弁閉鎖不全、動脈管開存などの合併には注意が必要である。本疾患と同様にチアノーゼを伴わず胸骨左縁に収縮期雑音を呈する疾患は、大動脈狭窄、肺動脈狭窄、僧帽弁閉鎖不全、三尖弁閉鎖不全、左室右房交通症、総動脈幹などがある。心エコー図等を用いてこれらの鑑別を行う

治療

肺高血圧の合併がなく、左右短絡が少ない例では原則として外科治療の適応はなく、感染性心内膜炎に注意しながら経過観察する。大動脈弁の嵌入逸脱をともなう例では小短絡であっても外科治療が必要となることがある。肺体血流量比が2.0以上で多呼吸、哺乳障害、体重増加不良、気道感染の反復などの症状がある場合には内科治療を行う。第一選択薬はフロセミド等の利尿薬である。パリビズマブによるRSウィルス感染予防も重要である。 肺高血圧を合併した例では症状が軽微であっても6カ月以内に心内修復術を行う。肺高血圧がなくとも肺体血流量比が2.0以上で左室容量負荷所見を認める場合には就学前に心内修復術を行うことが多い。 肺血管抵抗が8単位・m2以上で肺血管閉塞性病変が疑われる場合には、100%酸素や一酸化窒素吸入により肺血管閉塞性病変の可逆性を評価した上で心内修復術の適応を検討する。一般にこれらにより肺血管抵抗が7単位・m2以下に低下するようであれば適応ありと判定されるが、肺生検による詳細な検討が必要なこともある

予後

全体の50-60%で自然閉鎖が見られる。自然閉鎖は1-2歳の間に高い率でおこり、その後、閉鎖の確率は低下するが成人に達した後に閉鎖することもある。大動脈弁の変形が無い小短絡例の予後は良好であるが、感染性心内膜炎は1.3-3.7/1000例に発生するので注意が必要である。 肺高血圧の合併が無い例での外科治療後の予後は良好であるが、遠隔期の不整脈には注意が必要である。 大動脈弁の嵌入逸脱を合併した場合、大動脈弁閉鎖不全が進行すると弁形成術または弁置換術が必要となるが、大動脈弁閉鎖不全が進行する前に欠損孔を閉鎖すれば一般に大動脈弁の予後は良好である。 不可逆性の肺血管閉塞性病変に進行したEisenmenger症候群では外科治療の適応はなく、自然歴は通常40歳代である

:バージョン1.0
更新日
:2014年10月1日
文責
:日本小児循環器学会