1. 慢性呼吸器疾患
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特発性肺ヘモジデローシス

とくはつせいはいへもじでろーしす

idiopathic pulmonary hemosiderosis

告示

番号:11

疾病名:特発性肺ヘモジデローシス

概念・定義

肺末梢性の微小出血が反復し、ヘモグロビンの代謝産物であるヘモジデリンが肺組織に沈着してくる疾患を総称して肺ヘモジデローシスという。様々な疾患に合併するが、原因が特定できないものを特発性肺ヘモジデローシスとする。

疫学

小児慢性特定疾患治療研究事業によると、登録患者数は、平成17年 49人、平成18年 47人、平成19年 38人で、このうち,2年連続の登録者は21人、3年連続は15人であった。 発症年齢は5歳以下が多数を占め,それぞれの年次において2歳がもっとも多かった

病因

病因は不明である。ステロイド薬を主体とした免疫抑制治療が有効な症例があることから、その発症には免疫学的機序が関与していると推測されている

症状

1)主要臨床症状 ・喀血・血痰 ・肺での出血以外の原因では説明できない貧血 2)参考症状 ・呼吸器症状 咳嗽、喘鳴、呼吸困難 ・呼吸器症状以外 易疲労感、体重増加不良

診断

症状・画像所見から肺胞出血を疑い、肺ヘモジデリン貪食細胞が証明できれば肺ヘモジデローシスと診断する。肺ヘモジデローシスを呈する他の疾患群が除外できた場合(原因が不明の場合)に特発性肺ヘモジデローシスと診断する。 1) 胸部画像検査(単純X線・CT) 肺ヘモジデローシスに特異的な所見はないが、肺区域の分布に一致しない不規則な形の陰影(境界不明瞭、容量非減少性で、均質な部分と不均質な部分が混在)を認めることが多い。 2) ヘモジデリン貪食肺胞マクロファージの証明 喀痰(肺胞洗浄液)または胃液でヘモジデリン貪食肺胞マクロファージを証明する。 3) 除外診断 胸部造影CT、心臓超音波検査、血液・尿検査、各種培養検査などで肺出血の原因が特定される疾患群(表)を除外する

治療

定まった治療法は、本邦・海外とも現時点で存在しない。以下に、国内で一般的に行われていると考えられる治療法について述べる。 1) 薬物治療 ・ステロイド薬 プレドニゾロン 2mg/kg/day(最大60mg/day)で、多くの場合数日以内に症状の改善を認める。改善傾向がなければメチルプレドニゾロン 30mg/kg/day(最大1000mg/day)点滴静注3日間のステロイドパルス療法を行う。 文献では、初期投与量としてプレドニゾロン 1.5~2mg/kg/dayを、2から4週間使用(少なくとも症状改善し胸部X線で陰影がほぼ消失するまで)、以降漸減とする報告が多い。継続期間については、6か月以上の長期、3か月程度の中期継続投与などがある。ただし、中・長期投与による再発予防効果については確認されておらず、減量中の再発もある。 ・その他の免疫抑制薬 ステロイド抵抗性の場合や減量困難な場合には、他の免疫抑制薬を使用する。アザチオプリン(1.5~4mg/kg/day)や日本では未承認であるがハイドロキシクロロキン(hydroxychloroquine、日本未承認、10mg/kg/day) が使用される。 2) 呼吸管理 生命予後を改善するためには積極的な呼吸管理が必要である。呼吸状態が悪い場合には、酸素投与さらには人工呼吸管理を行う。 3) 輸血 生命に危険が及ぶような出血、貧血を認めた場合、輸血を行う

予後

以前は予後不良とされていたが、現在はステロイド薬治療による反応が良好の症例が多いと考えられている。ただし、再発が多いため、治療に難渋する症例も多い。再発による肺線維症への進行、肺高血圧・右心不全の合併に注意が必要である。 また、特発性の場合も、経過観察中に肺以外の自己免疫疾患を発症したとする報告があり、注意して経過観察を行う

特発性肺ヘモジデローシスとの鑑別が必要な疾患群

・膠原病 全身性エリテマトーテス(SLE)若年性関節リウマチなど ・抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連疾患 PR3-ANCA Wegener肉芽腫症 MPO-ANCA 顕微鏡的多発血管炎 ・抗糸球体基底膜抗体症(Goodpasture症候群) ・Heiner症候群(牛乳過敏性に伴う肺出血) ・Celiac病(小麦・大麦・オート麦・ライ麦などに含まれるグルテンのアルコール可溶成分であるグリアジンに対するアレルギー) ・薬剤性(ペニシラミン・コカインなど) ・感染症 (結核・気管支拡張症の感染に伴う急性増悪) ・外傷・異物・窒息 ・心血管系疾患 (肺静脈圧亢進・肺動静脈瘻(PAVM)・肺血栓塞栓症) ・出血傾向 ・腫瘍性病変

:バージョン1.0
更新日
:2014年10月1日