1. 慢性腎疾患
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ファンコーニ(Fanconi)症候群

ふぁんこーにしょうこうぐん

Fanconi syndrome

告示

番号:31

疾病名:ファンコーニ症候群

概念・定義

Fanconi症候群は,近位尿細管の全般性溶質輸送機能障害により,本来近位尿細管で再吸収される物質が尿中への過度の喪失をきたす疾患群である。
アミノ酸,ブドウ糖,重炭酸無機リンなどの溶質再吸収が障害されその結果として代謝性アシドーシス,電解質異常,脱水,発達障害,くる病などを呈する。

病因

原因は多岐にわたり, 発症年齢も乳児期から成人と多様である(表1, 2)。
先天性のものでは我が国ではDent病,ミトコンドリア脳筋症,原因不明の症例が多い。 後天性のものでは薬剤性が多く,Na+,K+-ATPase機能障害,ATP産生障害(アルキル化剤),酸化障害(バルプロ酸)など, それぞれの薬剤の尿細管障害機序が知られている。

表1. 先天性Fanconi症候群の原因

表1. 先天性Fanconi症候群の原因

表2. 後天性Fanconi症候群の原因

表2. 後天性Fanconi症候群の原因

診断

臨床徴候ならびに,近位尿細管障害を示唆する検査所見を合わせて診断する。

臨床所見

1. 成長障害:リンの再吸収障害,代謝性アシドーシス,低カリウム血症,近位尿細管での1.25(OH)2ビタミンDの1α水酸化障害,栄養障害などが複合的に影響する。
2. くる病・骨軟化症:リンの喪失,ビタミンDの活性化障害が原因となり骨の石灰化が障害される。
3. 多飲・多尿:尿中への溶質喪失による浸透圧利尿に加え,低カリウム血症による集合管での尿濃縮力障害が原因となる。
4. 脱水・反復熱:乳幼児では多尿に伴う高度脱水により反復する発熱を認める場合がある。

検査所見

1) 電解質異常:低ナトリウム血症,低カリウム血症を認める。
2) 汎アミノ酸尿:近位尿細管での再吸収障害による。尿中アミノ酸分析により全般性のアミノ酸排泄増加を確認する。
3) 腎性糖尿:近位尿細管でのブドウ糖の再吸収障害により尿中への糖排泄が増加する。
4) リン酸尿・低リン血症:尿細管におけるリンの再吸収障害により,尿細管リン再吸収率(%TRP)が低下する。
%TRP={1-(Up×Scr/Sp×Ucr)}×100 (%) (基準値60~90%)
Up; 尿中リン濃度,Scr; 血清クレアチニン値,Sp; 血清リン値,Ucr; 尿中クレアチニン濃度
5) 近位尿細管性アシドーシス:近位尿細管での重炭酸イオン(HCO3-)の再吸収障害により代謝性アシドーシスを呈する。血液ガス検査によりアシドーシスの存在を確認するとともに,尿中への重炭酸排泄率(FEHCO3-)の増加を確認する(正常5%以下)。
6) 尿酸尿・低尿酸血症:尿中への尿酸排泄率(FEUA)の増加を確認する。(基準値4~14%)
7) 低分子蛋白尿:尿中α1-ミクログロブリン,β2-ミクログロブリンの増加の確認。
※上記すべての所見を呈するものを完全型, 複数の症状・所見のみを呈するものを不完全型と診断する。

治療・予後

Fanconi症候群に対する治療は,原疾患の治療と対症療法であり,後者は,尿細管から喪失した分の補充が中心となる。代謝性アシドーシスに対しては通常大量のアルカリが必要である。サイアザイド系利尿薬の併用で,アルカリ投与量を減らすことも試みられる。
その他,カリウムやリンの補充,活性型ビタミンD製剤の投与などが行われる。
また多尿傾向となるため,十分な水分摂取を励行することが,腎機能維持の面からも重要である。
予後は原疾患によるが,薬剤性Fanconi症候群では薬剤中止により多くが軽快するため,早期発見が重要である。

参考文献

1) Monnens L, Levtchenko E. Evaluation of the proximal tubular function in hereditary renal Fanconi syndrome. Nephrol Dial Transplant 23:2719-2722, 2008 2) 根東義明:Fanconi症候群.下条文武(監),専門医のための腎臓病学 第2. 医学書院, 568-571, 2009
:バージョン1.0
更新日
:2014年10月1日
文責
:日本小児腎臓病学会