概念・定義
ネフロン癆(nephronophthisis: NPH)は,腎髄質に嚢胞形成を認める疾患の代表であり,組織学的には,進行性の硬化,硝子化糸球体を伴う尿細管間質性腎炎像を呈する。 遺伝形式は,主として常染色体劣性遺伝を示すが,孤発例もある (1)。末期腎不全(ESRD)に至る時期により,3つのサブタイプに分類される。それらは,3-5歳頃までにESRDとなる乳児ネフロン癆(NPH2),幼少期から学童期まで比較的若年期に発症し,平均13-14歳でESRDに移行する若年性ネフロン癆(NPH1), 平均年齢19歳頃にESRDに至る思春期ネフロン癆(NPH3)であり,なかでも最も頻度が高いものが若年性ネフロン癆である。現在,ネフロン癆には,NPHP1~NPHP16までの責任遺伝子が同定されているが,これらのいずれの遺伝子にも異常を見いだせないものも少なからず存在する。本症に対する特殊な治療法はなく,ESRDは避けられない状況にある。
病因・病態
NPHP1は若年性ネフロン癆の責任遺伝子であり,染色体2q12-13上に存在し,nephrocystin-1分子をコードする(1)。nephrocystin-1は分子量8.3万の蛋白で,腎では尿細管上皮細胞の一次繊毛に存発現する。尿細管上皮細胞はインテグリン分子を架橋として基底膜と連結しており,細胞外から細胞内へ伝達されるシグナルは,これを介して核内に伝達される。nephrocystinは,結合蛋白として,細胞対細胞,細胞対細胞外マトリックスのシグナル伝達や細胞接着に重要な役割を果たしている(2)。したがって,nephrocystin分子に異常を生じると,細胞と細胞外マトリックスとのシグナル伝達,細胞間接着,細胞骨格細胞極性や繊毛機能,細胞内情報の核内への移行に障害が生じ,腎尿細管上皮の構造的・機能的障害を引き起こすことが推察される。
NPHP1 mRNAは非常に広範囲な組織での発現が観察されるが,腎以外では,脳下垂体,脊椎,精巣,リンパ節や甲状腺などでの発現量が高い。脳・神経系でのNPHP1 mRNAの発現量は高く,その部位と一致した腎外合併症として小脳失調症がある一方で,肝線維症のように,mRNA発現レベルが必ずしも高くない臓器にも症状が出現することがあるため,腎外徴候の発現におけるnephrocystinの役割については,いまだ解明されていない部分が多い。
乳児ネフロン癆の責任遺伝子(NPHP2)は,9q22-31上に存在する。NPHP2はinversinとよばれる分子をコードする遺伝子を含み,この分子の異常は,ネフロン癆に類似した嚢胞形成を伴う腫大した腎とともに,内臓逆転位,膵臓におけるilet cellの異形成心血管の欠損や形態異常,肝・胆管系障害など,様々な異常をきたし,乳児期に末期腎不全に至る(3)。
思春期ネフロン癆(NPH3)の責任遺伝子(NPHP3)は,3q21-22上に位置する(4)。この遺伝子がコードする蛋白の機能についてはまだ十分には解明されていないが,尿細管上皮細胞上におけるシグナル伝達に関与する分子をコードすることが推察されており,その異常は,ほかのタイプと同様に尿細管の機能的・構造的崩壊をきたす(5)。
ネフロン癆の尿細管基底膜における病理学的特徴は,特に皮髄境界部に主として遠位尿細管を起源とする直径数mmから十数mm程度の小嚢胞が多数認められ,進行すると尿細管の萎縮,尿細管基底膜の肥厚や萎縮などがみられる。さらに末期に至ると,腎間質や糸球体周囲の線維化,硬化糸球体が出現し,腎萎縮の状態に至る。また,本症では尿細管基底膜の不均一化もみられる。
臨床症状
本症の初期症状としては,多飲,多尿,尿最大濃縮能の低下,また2次性の遺尿や成長発育障害などがある。これらの症状は,4-6歳頃より出現する。主要な病態は,尿細管や集合管からのNaの喪失である。そのため,低Na血症,高K血症が認められるが,著明な浮腫や血尿,タンパク尿などの腎症状は通常初期には認められず,血圧も正常である。 尿細管機能異常による低比重尿の出現頻度は高く、注目すべき所見である。また、半数以上の症例で、β2-ミクログロブリン (MG) などの低分子蛋白尿の出現をみる。尿細管機能異常を原因とする尿糖から発見される症例もある。腎機能障害が進行した段階で,初めて尿量の減少とともに,Naの貯留や高血圧,貧血を呈する。したがって,低身長などの身体発育障害にて受診する小児については,本症をも念頭に置いた検査やフォローが必要である。また, 原因不明の貧血を診た場合にも,本症も念頭に置き精査する。
本症には,腎外症状を有する例もある。 特に,網膜色素変性症(Senior-Loken症候群) 眼球運動の失調(Cogan症候群),小脳失調症,肝線維症,骨格や顔貌の異常なども発見のためのポイントとなる(6)。最近では、Jeune 症候群,Joubert 症候群、有馬症候群患者の一部に,NPHP の異常を伴うネフロン癆と類似した腎組織が認められることが知られている (6)。
診断
多飲,多尿,尿濃縮能低下,腎機能障害などの臨床症状により疑い,腎生検組織所見および遺伝子検査により総合的に診断する必要がある。尿細管機能異常による低比重尿の出現頻度は高く,注目すべき所見である。また,半数以上の症例で,β2-ミクログロブリン (MG) などの低分子蛋白尿の出現をみる。尿細管機能異常を原因とする尿糖から発見される症例もある。
欧米では,本症が疑われる場合には,まず遺伝子診断が実施されるケースが多い(6)。末期腎不全に至った年齢により,NPHP1もしくはNPHP2の診断から開始される。更に,NPHP1に異常が認められない場合には,腎外徴候である網膜色素変性症や小脳失調症などの所見を基に,他のNPHPの診断が進められる。 しかし我が国では,ネフロン癆に対する遺伝子診断は欧米のように浸透しておらず, 統計学的データの大部分は臨床組織学的診断によりなされたものであると思われ,ネフロン癆の疑いの域を出ない症例が大部分を占める。
治療・予後
現時点では特別有効な治療法はなく,腎尿細管機能障害に伴う低Na血症や高K血症あるいは代謝性アシドーシスに対する食事療法,イオン吸着樹脂,重炭酸塩の投与を行う。腎機能の低下が進行する場合には,末期腎不全に準じた治療が行われる。本症を原因とした腎不全による低身長(標準身長の-2.5SD 以下)は,成長ホルモン療法の適応となる。また,本症の出生前診断は現在のところ不可能であり,家族に対する遺伝相談も重要である。
本症の最大の問題点は,初期には尿所見は認められず,学校検尿をはじめとするマススクリーニング検査でも見逃される例が多いことである。蛋白尿の主体は,β2-ミクログロブリン(MG)やα1-MGなどの低分子蛋白尿であるため,アルブミンを中心に検出する通常の試験紙法では検出されにくい。蛋白尿を検出したときには,すでに末期腎不全状態ということも珍しくない。すなわち,早期発見のための明らかな手がかりが少ないのが現状である。
参考文献
- Hildebrandt F, Otto E. Molecular genetics of nephronophthisis and medullary cystic kidney disease. J Am Soc Nephrol 11:1753-1761, 2000
- Donaldson JC, Dise RS, Ritchie MD, Hanks SK. Nephrocystin-conserved domains involved in targeting to epithelial cell-cell junctions, interaction with filamins, and establishing cell polarity. J Biol Chem 277:29028-29035, 2002
- Otto EA, Schermer B, Obara T, et al. Mutations in INVS encoding inversin cause nephronophthisis type 2, linking renal cystic disease to the function of primary cilia and left-right axis determination. Nat Genet 34:413-420, 2003
- Omran H, Fernandez C, Jung M, et al. Identification of a new gene locus for adolescent nephronophthisis, on chromosome 3q22 in a large Venezuelan pedigree. Am J Hum Genet 66:118-127, 2000
- Olbrich H, Fliegauf M, Hoefele J, et al. Mutations in a novel gene, NPHP3, cause adolescent nephronophthisis, tapeto-retinal degeneration and hepatic fibrosis. Nat Genet 34:455-459, 2003
- Salomon R, Saunier S, Niaudet P. Nephronophthisis. Pediatr Nephrol 24:2333-2344, 2009
- 版
- :バージョン1.0
- 更新日
- :2014年10月1日
- 文責
- :日本小児腎臓病学会
