1. 悪性新生物
  2. 大分類: 白血病
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急性骨髄性白血病、最未分化

きゅうせいこつずいせいはっけつびょう、さいみぶんか

Acute myeloid leukaemia with minimal differentiation

告示

番号:71

疾病名:急性骨髄性白血病、最未分化

疾患概念

急性白血病は遺伝子変異により増殖能を獲得するとともに、分化能を失った幼若造血細胞(芽球)が自律的に増殖する造血器の悪性腫瘍疾患である。急性白血病のうち芽球の形質が骨髄系造血細胞への分化傾向を示すものを急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia: AML)というが、小児においては急性白血病の約25%がAMLである。AMLはWHO分類(改訂第4版)にしたがって、原則として芽球が末梢血あるいは骨髄における全有核細胞数の20%以上を占める場合に診断される1)。FAB分類では骨髄または末梢血標本の染色所見および表面抗原検査により細分類されるが、WHO分類(改訂第4版)ではこれらに加えてAMLに特異的な染色体異常・遺伝子変異の有無、抗がん剤・放射線治療歴の有無等に基づいて細分類され、芽球が末梢血あるいは骨髄における全有核細胞数の20%未満であっても、AMLに特異的な染色体・遺伝子変異を認める場合はAMLと診断しうる。

表1. 急性骨髄性白血病(AML)のFAB分類

表1. 急性骨髄性白血病(AML)のFAB分類

表2. 急性骨髄性白血病(AML)のWHO分類(改訂第4版)

表2. 急性骨髄性白血病(AML)のWHO分類(改訂第4版)

疫学

AMLは小児の急性白血病の約25%を占める。日本小児血液・がん学会の疾患登録事業における診断症例集計によれば、2015年~2019年の5年間で診断時20歳未満の小児におけるAMLは計770例登録されており、平均して年間154例の発症であった(2015年 181例、2016年 150例、2017年 155例、2018年 142例、2019年 142例)。

病因

原因は不明であるが、造血細胞に染色体異常・遺伝子変異を生じた結果、増殖能を獲得するとともに分化能を失った芽球が自律的に増殖してAMLを発症する2)。ダウン症などある種の先天性疾患においてAMLが発症する頻度が高いことが知られている。また、別の悪性腫瘍に対する化学療法や放射線治療後にAMLを発症することもある。

臨床症状

AMLの症状には、正常造血の抑制に基づくものと芽球の浸潤によるものとがある2)。正常造血の抑制では、貧血による全身倦怠感や動悸・息切れ、血小板減少による出血症状、正常白血球減少に伴う感染症状がある。急性前骨髄球性白血病(Acute promyelocytic leukemia: APL、FAB分類のM3)では高率に播種性血管内凝固症候群(DIC)を合併し、出血症状が生じやすい。AML芽球はリンパ節、中枢神経系、肝臓、脾臓などに浸潤することがあり、それぞれリンパ節腫脹、頭痛や嘔気・嘔吐、肝脾腫などを認めることがある。特に単球系の形質を持つAML(FAB分類のM4やM5)では、歯肉腫脹や皮膚浸潤をしばしば認める。また、腫瘤形成するAMLもあり、骨髄肉腫と呼ばれる。白血病においては特異的な症状で発見されることは少なく、不特定の症状が長引くことが疾患を疑う契機になる。

診断

治療

AMLの治療の主体は多剤併用化学療法であり、その中心を担う薬剤はシタラビン(Ara-C)とアントラサイクリン系抗がん剤である2)。これらの2剤を中心に用いた寛解導入療法と大量Ara-C療法を含む強化療法を計4~5コース程度行うのが標準的である。小児AMLで用いられているアントラサイクリンとしては、ダウノルビシン、イダルビシン、ミトキサントロンなどがあるが、その優劣については結論が出ていない。その他、Ara-Cとアントラサイクリン以外の第3の薬剤を併用することの意義も必ずしも明確ではないが、小児AMLにおいてはエトポシドなどが併用されることが多い。  AMLでは前記多剤併用化学療法に加えて、一部の症例においては同種造血幹細胞移植が行われる。造血幹細胞移植の適応は、予後因子に基づいたリスク層別化によって決定される。すなわち、モノソミー7や5q-、t(16;21)(p11;q22)/ FUS-ERG、t(9;22)(q34;q11.2)/ BCR-ABL1陽性、FMS-like tyrosine kinase 3(以下FLT3)のinternal tandem duplication(FLT3-ITD)が陽性等予後不良な染色体異常や遺伝子変異がある場合や、初回寛解導入療法に対する治療反応性が不良であった場合、再発した場合などは、同種造血幹細胞移植の適応となる。  APLでは、AMLに対する通常の多剤併用化学療法に加えて、全トランスレチノイン酸(ATRA)による分化誘導療法が併用される。近年、ATRAと同様に分化誘導効果のある三酸化ヒ酸(ATO)とATRAの併用療法が広く用いられつつある。  ダウン症に発症したAMLでは、治療合併症が多い一方で、Ara-Cなどの抗がん剤に対する治療反応性が良好であることが知られており、通常の小児AMLよりも治療強度を減じた多剤併用化学療法が行われる。

予後

APLおよびダウン症に発症したAMLを除いた小児AML新規診断例の治療成績は、現在無イベント生存率が約60%、全生存率が約70%である3),4)。しかし、再発・難治例の治療成績は依然不良であり、全生存率は40%に満たない5)。  小児のAPLおよびダウン症に発症したAMLの治療成績は非常に良好であり、それぞれ80%以上の無イベント生存率が得られている6),7)。しかし、ダウン症例においても再発・難治例の予後は非常に不良であり、その生存率は30%に満たない8)

成人期以降の注意点

①再発 ②二次がん ③心機能障害 ④骨粗鬆症・骨壊死 ⑤眼科的異常 ⑥低身長・肥満・耐糖能異常・高血圧 ⑦性腺機能障害 ⑧白質脳症 などが生じ得る。全脳・全脊髄放射線照射によって他に、⑨二次性脳腫瘍、脳血管障害 ⑩内分泌機能障害 などが生じ得る。 ※造血幹細胞移植後の成人期以降の注意点 ①内分泌機能障害 ②成長障害 ③メタボリック症候群 ④不妊症 ⑤心機能障害 ⑥呼吸機能障害 ⑦消化管障害 ⑧肝障害 ⑨腎障害 ⑩眼科的異常 ⑪歯牙異常 ⑫聴力障害 ⑬骨粗鬆症・骨壊死 ⑭慢性移植片対宿主病 ⑮免疫不全 ⑯二次性脳腫瘍、脳血管障害 ⑰二次がん などが生じ得る。

参考文献

  1. Swerdlow SH, et al. WHO Classification of Tumors of Haematopoietic and Lymphoid Tissues Revised 4th Edition. IARC: Lyon 2017
  2. Taga T, Tomizawa D, Takahashi H, at al. Acute myeloid leukemia in children: Current status and future directions. Pediatr Int 2016;58(2):71-80
  3. Tomizawa D, Tawa A, Watanabe T, et al. Excess treatment reduction including anthracyclines results in higher incidence of relapse in core binding factor acute myeloid leukemia in children. Leukemia 2013;27(12):2413-2416
  4. Hasegawa D, Tawa A, Tomizawa D, et al. Attempts to optimize postinduction treatment in childhood acute myeloid leukemia without core-binding factors: A report from the Japanese Pediatric Leukemia/Lymphoma Study Group (JPLSG). Pediatr Blood Cancer 2020;67(12):e28692
  5. Moritake H, Tanaka S, Miyamura T,et al. The outcomes of relapsed acute myeloid leukemia in children: Results from the Japanese Pediatric Leukemia/Lymphoma Study Group AML-05R study. Pediatr Blood Cancer 2021;68(1):e28736.
  6. Takahashi H, Watanabe T, Kinoshita A, et al. High event-free survival rate with minimum-dose-anthracycline treatment in childhood acute promyelocytic leukaemia: a nationwide prospective study by the Japanese Paediatric Leukaemia/Lymphoma Study Group. Br J Haematol 2016;174(3):437-443
  7. Taga T, Watanabe T, Tomizawa D, et al. Preserved High Probability of Overall Survival with Significant Reduction of Chemotherapy for Myeloid Leukemia in Down Syndrome: A Nationwide Prospective Study in Japan. Pediatr Blood Cancer 2016;63(2):248-254
  8. 8. Taga T, Saito AM, Kudo K, et al. Clinical characteristics and outcome of refractory/relapsed myeloid leukemia in children with Down syndrome. Blood2012;120(9):1810-1815
:バージョン1.1
更新日
:2015年6月23日
文責
:日本小児血液・がん学会