疾患概念
骨軟骨腫(osteochondroma)とは長管骨の成長軟骨周囲に発生する軟骨性の良性骨腫瘍であり,骨の外側に向かって隆起性に発育することから外骨腫(exostosis)とも呼ばれる.異所性に成長軟骨様軟骨細胞集団が発生し,成長に伴って成長軟骨と同様に軟骨増殖と軟骨内骨化が起きるため,その先端に軟骨帽とよばれる軟骨組織を有する骨性隆起性病変が生じる.典型的な単純X線像は長管骨骨端周囲の骨との連続性を有する有茎性または広基性の骨性隆起性病変である.軟骨帽は単純X線では同定できないが,石灰化により確認できることもある.
骨軟骨腫は単発性,多発性がある.単発性は通常孤発性であり,多発性は90%が常染色体優性遺伝である.家族性に発生する多発性骨軟骨腫を先天性多発性外骨腫(hereditary multiple exostosis: HME)と呼ぶ.
疫学
骨軟骨腫は比較的発生頻度が高く,平成29年度の全国骨腫瘍登録一覧表では登録数は475例であり,良性骨腫瘍の29%と最多である[1].しかし,実際には医療機関を受診していないために診断に至っていない症例も多いと考えられ,より頻度は高いと推定される.
単発性,多発性とも10歳代に多く,若年者に好発する.性差はやや男性に多い.
発生部位は単発性では大腿骨遠位,脛骨近位,上腕骨近位に好発するが,骨盤や肋骨など扁平骨に発生することもある.多発性ではどこにでも発生しうる.
病因
単発性骨軟骨腫の一部とHMEにおいては,近年EXT1,EXT2遺伝子の点突然変異が原因であることが明らかになっている.
臨床症状
関節付近の骨性隆起が主な症状である.関節運動時の刺激により疼痛が生じることもある.また,無症状で単純X線で偶然発見されることもある.
多発性骨軟骨腫では関節変形を来すことが少なくない.特に,尺骨遠位に生じた骨軟骨腫では尺骨の短縮による手関節尺屈変形の原因となることが多く,矯正骨切り手術を要することがある.
血液検査では特に異常は認めない.
診断
画像検査および病理組織検査にて診断する。
単純X線では骨表面から突出する骨性隆起であり、その形態は様々で広基性のものから有茎性のものまである。軟骨帽はX線上は認識できないが、軟骨帽のある部位には石灰化、不規則な骨硬化、骨表面の凹凸を認める。
MRIでは骨性隆起と母床の皮質と骨髄が連続していることが特徴であり、腫瘤の先端にはT1強調像で低信号、T2強調像で高信号を示す軟骨帽を認めるが、成人例では欠如していることが多い。
悪性化を示唆する所見として、①痛み、腫瘍の増大、②軟部組織内の不整あるいは不明瞭な石灰化、③厚い軟骨帽(>2-3cm)などがある。
治療
治療の原則は外科的切除である.手術適応は①日常生活の障害となる痛みがある場合,②整容上の理由で患者が希望する場合,③関節変形の原因となる場合,である.
切除の際は隆起部を軟骨帽を残さないように完全に切除する必要がある.
予後
軟骨帽を残さないように切除を行えば,再発はまれである.
骨軟骨腫では軟骨肉腫への悪性化が起こることがある.腫瘍の急速な増大や痛みの悪化がある場合に悪性化を疑う.
単発性骨軟骨腫でも大きいものではまれに悪性化することが知られているが,悪性化の正確な頻度は不明である.7.6%という報告もあるが,手術例が母集団であり,実際の頻度はさらに低いと推定される.多発性骨軟骨腫では単発性骨軟骨腫よりも悪性化の頻度は高く,前述の報告では36%とされているが,同様に手術例が母集団であるため,実際の頻度はさらに低いと推定される.手術例以外も含めた母集団で多発性骨軟骨腫の経過を調査した報告では悪性化の頻度は1%以下であったという報告もあり,正確な頻度は不明である.
悪性化した場合でも,通常のde novoの軟骨肉腫よりも予後は良好とされている.
成人期以降の注意点
切除部位に応じた運動機能障害
参考文献
- 日本整形外科学会 骨・軟部腫瘍委員会/国立がん研究センター(編). 全国骨腫瘍登録一覧表, 2017
- 版
- :バージョン1.0
- 更新日
- :2014年10月1日
- 文責
- :日本小児血液・がん学会