1. 慢性消化器疾患
  2. 大分類: ヒルシュスプルング(Hirschsprung)病及び類縁疾患
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腸管神経節細胞僅少症

ちょうかんしんけいせつさいぼうきんしょうしょう

Congenital Isolated Hypoganglionosis

告示

番号:35

疾病名:腸管神経節細胞僅少症

概念・定義

本症は、新生児期から消化管壁内神経節細胞の減少に起因する重篤な機能的腸閉塞症状を来す疾患であり、予後不良の先天性消化管疾患として知られている。多くは、生命維持のために、中心静脈栄養が長期にわたり必要であり、小腸移植の適応にもなり得る。

疫学

腸管神経節細胞僅少症の発症例は、本邦の2001-2010年の全国調査では、確定診断例が90例であり、その全例が新生児期に発症していた。

病因

消化管壁内神経節細胞の減少に起因する消化管蠕動不全がその病因であり、病変部位は小腸から肛門までの広範囲にわたって認められる症例が多い。合併奇形はほとんど認めず、家族歴にも特筆すべきものはなく、現時点では遺伝的背景も乏しいと考えられる。

症状

新生児期から発症し、腹部膨満、嘔吐、胎便排泄遅延が主な症状である。 腸管神経節細胞の減少は広範囲に及び、また、減少の程度も症例ごとに異なることから、適切な腸瘻造設部位の推定が困難である。従って、造設部位を誤ると、腸瘻造設後にうっ滞性腸炎が改善しないことになる。さらに、中心静脈栄養も長期になるため、カテーテル感染症や静脈栄養関連肝障害などの合併症も起こしやすい。

診断

ヒルシュスプルング病との鑑別がとりわけ重要である。しかしながら、注腸、直腸肛門内圧検査での鑑別は困難である。直腸粘膜生検は、検査症例の75.6%で、ヒルシュスプルング病と異なりAchE陽性線維の所見が正常と判断され、ほかの所見と合わせて、この疾患とヒルシュスプルング病との鑑別診断に有用な検査法と考えられる。また、ヒルシュスプルング病で最も有用な神経節の迅速病理による診断は、この疾患では十分に機能しないことが多い。その理由として、迅速病理に提供される組織の大きさによる問題と、対象が大腸と比較して、筋層間神経層が粗な小腸であることで、HE染色による迅速病理にて異常なし、または無神経節と判断される可能性が極めて高くなる。今回の2001-2010年の全国調査の回答から、術中生検施行例55例中で、迅速生検で腸管神経節細胞僅少症と診断されたのは29例(52.72%)と、この方法で診断を確定することの難しさが示されている。最終診断には、永久標本病理診断が必要と考えられる。しかし、永久法本標本で腸管神経節細胞僅少症の診断が付いた症例が、病理診断の記載のある88例中81例の88.63%で、ヒルシュスプルング病と初期に診断され、後日に本症と診断されたものが88例中5例5.67%あり、さらに腸管神経節細胞僅少症の診断法の確立が検討される必要がある。

治療

診療方針については、中心静脈栄養、経腸栄養による栄養管理をおこないながら、うっ滞性腸炎に対する減圧手術を付加することが必要となる。減圧のためには腸瘻の造設が必須となる。この際に造設部位が問題となり、初期のストーマ腸瘻造設部位が本症の治療成績を決定する鍵となっている。2001-2010年の全国調査では、初回に空腸瘻造設例が、回腸瘻造設例に比較して、良好な予後を認める結果となっていた。一方で、腸瘻肛門側の機能障害腸管切除の是非については、その効果は不明であり、現在のところ一定の見解を得ていない。従って、機能障害腸管の大量切除または温存を判断する必要があるが、現時点での方向性は決まっていない。さらに、重症例は、臓器移植により救命できる可能性があり、小腸移植や多臓器移植の対象疾患としての検討が今後の課題となる。

予後

この疾患の多くが、重症の経過をたどり、死亡率も高い。2001-2010年の全国調査では死亡率は22.22%となっており、前回の全国調査の岡本らの集計した神経細胞減少例44例中の死亡例10例の死亡率22.73%と比較して、改善を認めていない。主な死亡原因は、静脈栄養とうっ滞性腸炎に起因する重症肝障害と敗血症であり、静脈栄養への依存度の低下と、普通食への移行の成否、有効な消化管減圧によるうっ滞性腸炎回避の成否が、予後を左右すると考えられる。
:バージョン1.0
更新日
:2014年10月1日
文責
:日本小児外科学会