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自己免疫介在性脳炎・脳症

じこめんえきかいざいせいのうえん・のうしょう

Autoimmune encephalitis / encephalopathy

告示

番号:19

疾病名:自己免疫介在性脳炎・脳症

概念・定義

急性か亜急性発症(通常3か月以内)の記銘力障害、精神症状、傾眠、人格変化、てんかん発作、意識障害等を呈し、症状は変動する。昏睡に至ることもある。炎症が遷延し、慢性にてんかん発作、認知機能障害、精神症状を呈する場合もある。経過中発熱等の感染徴候を伴わない場合、自己免疫性脳炎・脳症を疑う必要がある。自律神経症状(循環器症状、呼吸器症状、腹部症状、立毛、感覚症状等)、ジストニア、小脳症状、ミオトニアを伴うこともある。
急性期治療が奏功し予後良好な群もあるが、急性期からの回復後も認知機能、運動機能の障害を残し、てんかんを発症すると薬剤抵抗性にあるいは長期に経過することがある。

病因

急性脳炎・脳症による脳組織の障害に加えて、複数の脳組織抗原に対する自己免疫異常も関与すると考えられている。現在までに,抗NMDAR( N-methyl-D-aspartate receptor)抗体,抗LGI1(leucine-rich glioma-inactivated 1)抗体、抗VGKC(voltage-gated potassium channel)複合体抗体などの神経細胞表面構造物に対する自己抗体および抗GAD(Glutamic Acid Decarboxylase)抗体が病因に関与していると考えられている。加えて、その他及び未知の抗神経抗体の関与や傍腫瘍性の原因が指摘されている.

疫学

正確な頻度は不明であるが、患者数は約1,000名と推定される。

臨床症状

 抗VGKC複合体抗体陽性脳炎では、記銘力低下、てんかん発作、性格変化が亜急性に進行し、数ヶ月から年余にわたり経過する。本脳炎の主要な病因である抗LGI1抗体が陽性の症例では、同側の顔面と上肢に非常に短く常同的なジストニー発作(faciobrachial dystonic seizure : FBDS)が 頻回(1日 50回に及ぶ)に出現する場合がある。
 抗NMDA受容体脳炎では、感冒様の前駆症状に引き続き、抑うつや興奮等の感情障害、日常的な作業の遂行が障害される認知行動障害や幻覚・妄想など、急性発症の統合失調症に類似した精神症状が出現する。引き続き、カタレプシー等の緊張病類似の症状、意識障害、頻回のけいれん発作、呼吸不全、顔面・四肢のアテトーゼ・ジスキネジア様不随意運動、著明な自律神経症状(発汗異常・腸管麻痺・血圧変動・唾液分泌亢進・体温調節異常など)が出現する。
その他、関与する抗体の種類により症状に多少の差異はあるが、多くは急性期に意識障害、認知機能障害、てんかん発作(時に重積状態)などを呈し、昏睡、死亡に至る場合もある。
 急性期からの回復後も脳の障害部位により、認知機能障害、高次脳機能障害、運動機能障害などを様々な程度で合併する。てんかんを発症すると薬剤抵抗性にあるいは長期に経過することがある。てんかん発作は、焦点性発作とその二次性全般化発作、あるいは全般性発作である。

検査所見

髄液検査では細胞数増多(5 cells/mm3以上)、IgG indexの上昇、オリゴクローナルバンド陽性等の所見を認める。頭部MRIでは両側側頭葉あるいは多発性にT2WIで高信号病変が見られるが、MRI異常が陰性でも本脳炎を否定できない。FDG-PETで急性期に局所脳代謝亢進が見られることがある。脳波検査では、全般性徐波化を示し、両側の側頭部のてんかん性放電が比較的特異度が高い。抗NMDAR脳炎の約1/3の症例では急性症状が高度でかつ遷延する症例においてextreme delta brushまたはburst and slow complexを示す。傍腫瘍性神経症候群の場合も多く、画像検査や腫瘍マーカーによる腫瘍スクリーニングが必要である。確実な診断方法は抗NMDA受容体抗体、抗VGKC複合体抗体等の抗神経抗体を証明することである。さらにほかの自己免疫疾患に関連する抗体を検索する。

診断の際の留意点

自己免疫機序の関与を証明することが重要であるが、抗神経抗体は日本国内では測定施設が限られ、また自己免疫性脳炎を引き起こす未知の抗神経抗体が存在することも想定されることから、抗神経抗体の証明は診断に必須ではない。また急性ヘルペス脳炎等の一次性脳炎、多発性硬化症等のほかの自己免疫疾患等を除外する必要がある。

治療

急性期の治療として、ステロイドパルス療法、免疫グロブリン大量静注療法(IVIg)、血漿交換療法などによる免疫修飾療法が第一選択として推奨されている。治療抵抗性の場合はリツキシマブ、シクロホスファミド静注療法などが提唱されているが、本邦での報告は少ない。てんかん発作を伴う場合には抗てんかん薬も使用するが、治療抵抗性であることが多く、この治療抵抗性が自己免疫介在性脳炎・脳症を疑う契機にもなる。傍腫瘍性の場合は腫瘍に対する外科手術や化学療法が選択されるが、それだけでは神経症状に対して十分な効果は得られないことも多い。
急性期治療後の維持療法を行うかどうかは、一致した見解とエビデンスはない。抗てんかん薬、免疫修飾療法(ステロイド,免疫抑制剤)、てんかん外科治療(脳葉切除、半球離断術など)、リハビリテーションなどが集学的に行われる。

合併症

傍腫瘍性神経症候群では卵巣奇形腫、肺小細胞癌、縦隔腫瘍、胚細胞腫などの腫瘍を合併する。また神経系以外の自己免疫疾患を合併することも少なくない。

予後

細胞表面抗原を標的とする抗体(VGKC複合体抗体, LGI1抗体,NMDA受容体抗体等)が関与する脳炎・脳症は、免疫療法に比較的反応しやすい。一方、傍腫瘍性神経症候群としての脳炎、あるいは抗GAD抗体のように細胞内の抗原を標的とする抗体の関与が疑われる脳炎・脳症では免疫療法が奏功しにくく、難治性に経過することが多い。抗てんかん薬では十分な効果の得られないことが多く、その他の治療についてもまとまった治療成績は得られていないのが現状である。

成人期以降の注意点

抗NMDA受容体脳炎はしばしば再発し長期にわたる経過観察が必要となる。またほかの自己免疫疾患を合併することも少なくなく、成人期以降も発症に注意が必要である。傍腫瘍性神経症候群の場合は臨床症状が改善したのちに腫瘍が発見される例も報告されており、腫瘍に対する長期的なフォローアップが必要となることもある。

参考文献


  • 1) 坂本光弘、松本理器、池田昭夫.自己免疫介在性脳炎・脳症.「稀少てんかんの診療指標」日本てんかん学会編.2017
  • 2) 佐久間啓. 小児の自己免疫性神経疾患 脳炎を中心に 日本小児科学会雑誌. 2010: 114; 1665-72.
:バージョン1.0
承認日
文責
:日本小児神経学会