疾患概念
2か月~12歳、ピークは4-5歳頃に発症するてんかん性脳症。焦点発作ならびに一見全般性の発作(片側あるいは両側性の間代発作、強直間代発作、欠神発作)を生じ、徐波睡眠時に広汎性棘徐波が持続性に出現し、知的・認知機能の退行の形をとる神経心理学的障害を伴うことが特徴である。関連症候群に、聴覚性言語障害を主徴とするランドウ・クレフナー症候群がある。
疫学
本邦の詳細な疫学情報はないが、まれであり、患者数は全国で約500人と推測される。
病因
本疾患の30~60%に様々な神経放射線学的異常がある。遺伝子については、GRIN2A、SRPX2、ELP4 などが関連するとの報告はある。神経放射線学的異常も遺伝子異常も認めない場合もある。
臨床症状
1. 臨床発作型
てんかん発作として、焦点発作、片側または両側性の間代発作、強直間代発作、欠神発作や脱力発作などがみられる。
2. 運動障害・高次脳機能障害
発症前の神経心理学的機能と運動機能は、基礎疾患のない患者では正常が多い。しかし、徐波睡眠時に広汎性棘徐波が持続性に出現後からは、IQの著しい低下、言語障害、時間・空間の見当識障害、行動変化(多動、攻撃性、衝動性)、注意力低下、意志疎通困難、学習障害、運動失調を含む運動障害、構音障害、嚥下障害などがみられる。広汎性棘徐波が優勢に出現する部位に対応して、聴覚失認に基づく聴覚性言語障害を主徴とするもの(ランドウ・クレフナー症候群)がある。
診断
A. 症状
- てんかん発作として、焦点発作、片側または両側性の間代発作、強直間代発作、欠神発作や脱力発作などがみられる。
- 種々の程度の言語機能の障害(言語性聴覚失認など)、認知機能障害(知的障害、時間・空間の見当識障害など)、行動障害(多動、注意障害、攻撃性、衝動性など)、運動障害(統合運動の障害、失調、ジストニアなど)等を認め、退行を示す。
B. 検査所見
脳波で、徐波睡眠(non-REM)期に持続性に出現する広汎性の棘徐波の割合(棘徐波の出現持続時間/non-REM 睡眠時間)が高い(50%以上。典型例では85%以上)。
診断のカテゴリー
- A. 1. のてんかん発作、B. の脳波検査所見に加えて A. 2. を満たす場合に definite
- A. 1. のてんかん発作、B. の脳波検査所見を満たす場合に probable
※ 脳波検査所見は自然経過あるいは治療により消長することがある。
診断の際の留意点/鑑別診断
診睡眠時に高振幅鋭徐波もしくは棘徐波を示すことのある中心・側頭部に棘波を示す小児てんかん、レノックス・ガストー症候群などがあげられる。鑑別には脳波所見、神経心理学的経過を含む臨床経過が必要。
治療
発作に対し、抗てんかん薬やステロイド治療(プレドニゾロン、メチルプレドニゾロンパルス、ACTH療法)が用いられる。脳梁離断や病変切除・離断術が有効である場合もある。
予後
てんかん発作の予後は良好とされているが、脳波改善後も、発作が稀発だが残存する場合がある。各種治療に関わらず、脳波の徐波睡眠時の広汎性棘徐波が持続することに伴って神経心理学的退行あるいは発達の停滞がみられる。また、発作消失と脳波の改善がみられた患者においても、運動・高次脳機能障害の予後が良くない場合がある。
成人期以降の注意点
行動障害や知的レベルの低下、言語聴覚障害、運動障害が残存することがある。残存した障害に応じた治療・ケアを行う必要がある。
参考文献
- 白石秀明、睡眠時持続性棘徐波(CSWS)を示すてんかん、編集:高橋幸利、新小児てんかん診療マニュアル、診断と治療社、pp325-332、2019
- Tassinari CA, et al., Encephalopathy related to status epilepticus during slow sleep (ESES), ED by: Bureau M., et al., Epileptic syndrome in infancy, childhood an adolescence 6th edition, pp261-283, John Libbey, 2019.
- 稀少てんかんの診療指標 日本てんかん学会編集 診断と治療社 初版 2017年04月17日発行
- 版
- :第1版
- 更新日
- :2021年11月1日
- 文責
- :日本小児神経学会