1. 神経・筋疾患
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福山型先天性筋ジストロフィー

ふくやまがたせんてんせいきんじすとろふぃー

Fukuyama congenital muscular dystrophy; FCMD

告示

番号:15

疾病名:福山型先天性筋ジストロフィー

概念・定義

1960年に福山らに報告された常染色体劣性遺伝性疾患で日本人に最も頻度が高く,重度の筋ジストロフィー,神経細胞遊走障害による脳奇形と高頻度の眼合併症が特徴である.1990年代に9番染色体長腕上遺伝子座(9q31-33)の同定に引き続き,原因遺伝子fukutin(FKTN)が報告された.FKTN遺伝子産物はα-ジストログリカン(α-dystroglycan: α-DG)の糖鎖修飾に関与する酵素と考えられ,α-ジストログリカノパチー(α-dystroglycanopathy)と呼ばれる先天性筋ジストロフィーの一群に属する.

病因

創始者変異と言われるFKTNの3’非翻訳領域における3kbのレトロトランスポゾン挿入変異のホモ接合体または,創始者変異と点変異のヘテロ接合体により発症する.FKTN遺伝子産物はα-DGの糖鎖修飾に関与する酵素と考えられ,α-DGはその糖鎖を介してメロシン,アグリンなどの細胞外蛋白と結合し,細胞外器質と細胞骨格を結ぶ連結軸として.筋細胞膜の安定化に役立っている.FKTN遺伝子変異によりα-DGの糖鎖修飾が不十分となることから,細胞外蛋白との結合が崩れ,筋細胞膜と基底膜の構造が崩壊すると考えられている.

疫学

FCMDは最も良く見られる常染色体劣性遺伝疾患であり,また日本では二番目に多い筋ジストロフィーである.近年,韓国などからも報告があったが,発症はほぼ日本人に限られている.創始者変異はFCMD患者の90%にホモ接合体として認め,日本人88人に1人が保因者である.

臨床症状

新生児,乳児期早期より顔面筋を含む全身性筋力低下,筋緊張低下を認め,哺乳不良,体重増加不良,発達遅滞で気付かれる.CK値は通常数千単位(通常の10~30倍)である.中枢神経系の発達に伴って5~6歳頃がピークとなる運動発達を認めるが,以後は筋萎縮進行に伴い退行する.7割は3~4歳頃にいざりを最高到達機能とする典型型で,残りの1割が定頸獲得に至らない重症型,1.5割は歩行獲得する軽症例である.創始者変異のホモ接合体では典型例から軽症,創始者変異と点変異のヘテロ接合体により重症型,軽症など非典型例を生じる.偽性肥大を下腿,大腿四頭筋,舌に認め,6歳以後は筋萎縮が目立つようになる.腱反射は早期に消失する.高口蓋,開口位,流涎,ふっくらとした頬(頬部仮性肥大),長い睫毛,輝く大きな眼(閉眼不十分,眼病変)など特有の顔貌を示す.関節拘縮は早期より認められ,特に手首背屈時のPIP,DIPの伸展制限は乳児期早期より認める.進行に伴い,足関節底屈制限,股・膝・肘関節の伸展制限を認めるようになる. 眼病変を半数以上に認め,屈折異常(近視),異常眼球運動(斜視),眼振を伴い,異形成,剥離など網膜病変が主体である.頭部MRI画像は側頭から後頭にかけての丸石様皮質異形成,前頭葉優位に多小脳回の他,厚脳回,小脳嚢胞様所見,平坦な脳幹,透明中隔のう胞も特徴である.低年齢ではT2強調・FLAIR画像で白質に高信号を認めるが,発達に伴い特に4歳以降はこの変化は目立たなくなる. 中等度以上の知能障害が多く,言語は単語のみが多い.けいれんは50%以上に合併し,発熱に伴うけいれんを2~4歳頃に発症し,発作型では部分発作が多い.他の筋ジストロフィーと同様,呼吸筋力低下による呼吸不全,拡張型心筋症による心不全が予後を左右する.ウイルス感染による発熱後数日してから,横紋筋融解と考えられるCKの異常上昇,重度の筋力低下を来し,時に致死的である.

診断

治療

現時点では,対症療法に限られる.理学療法,嚥下障害に対する経管栄養または胃瘻造設を行う.進行性呼吸不全に対しては,理学療法と非侵襲的陽圧換気療法を必要に応じて導入する.定期的に心機能を評価し,心筋症に対して薬物療法を行う.

予後

呼吸筋力低下による呼吸不全,拡張型心筋症による心不全,嚥下障害による誤嚥や窒息が予後を左右する.平均寿命は10歳代後半から20歳代前半である.

文献

1) Fukuyama Y et al. Congenital progressive musculardystrophy of the Fukuyama type--clinical, genetic and pathological considerations. Brain Dev 3:1-30, 1981 2) Osawa M et al. Fukuyama type congenital muscular dystrophy. In: Fukuyama Y, Osawa M, Saito K (Eds). Congenital muscular dystrophies. Amsterdam: Elsevier, 31-68, 1997 3) Kobayashi K et al. An ancient retrotransposal insertion causes Fukuyama-type congenital muscular dystrophy. Nature 394:388-392,1998

:バージョン1.0
更新日
:2014年10月1日
文責
:日本小児神経学会