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発作性夜間ヘモグロビン尿症

ほっさせいやかんへもぐろびんにょうしょう

paroxysmal nocturnal haemoglobinuria; PNH

告示番 号50
疾病名発作性夜間ヘモグロビン尿症
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概念・定義

発作性夜間ヘモグロビン尿症(paroxysmal nocturnal hemoglobinuria,PNH)は、PIG-A遺伝子に後天的変異を持った造血幹細胞がクローン性に拡大した結果、補体による血管内溶血(クームス陰性)を主徴とする造血幹細胞疾患である。再生不良性貧血(aplastic anemia,AA)を代表とする後天性骨髄不全疾患としばしば合併・相互移行する。血栓症は本邦例では稀ではあるが、PNHに特徴的な合併症である。また稀ではあるが、急性白血病への移行もある1)

疫学

厚労省の平成10年度疫学調査班(大野班)の層化無作為抽出法によるアンケート調査によると、わが国におけるPNHの推定有病者数は430人であった2)。発症頻度に関しては、中国で17,600,344人の住人に対して1975年から1984年の10年間にわたり追跡された調査によると、この間に22名がPNHを発症し、100万人あたりの発症頻度は1.2人(range: 0-2.8)、罹患率は6.93人と推定された3)

病因

PNH赤血球では、GPIを介して膜上に結合する数種の蛋白が欠損している。特にCD55、CD59といった補体制御因子がPNH赤血球で欠如しており、感染などにより補体が活性化されると、補体の攻撃を受けて溶血がおこる。この異常は、GPIの生合成を支配する遺伝子であるPIG-A遺伝子の変異の結果もたらされることが明らかにされた。すなわち、PNHは造血幹細胞の遣伝子に後天性に生じた変異に起因するクローン性疾患である1)

症状

古典的な記載では、早朝の赤褐色尿(ヘモグロビン尿)が特徴とされる。溶血が軽度の場合は尿の着色のみで無症状のこともあるが、大量の溶血では急性腎不全を起こし透析が必要となる場合もある。日米比較によると、診断時にヘモグロビン尿を呈する例は米国例では50%であるのに対し本邦例では34%と低率であった4)。PNHは汎血球減少を呈することが多く、骨髄も低形成を示すことが多い。また再生不良性貧血がその経過中にPNHへの移行することがある。血栓症は他の溶血性貧血にはないPNHに特異的な合併症で、その多くは深部静脈血栓症の形をとる。頻度が高く重篤な血栓部位としては、腹腔内(Budd-Chiari症候群、腸間膜静脈)や頭蓋内(脳静脈)であるが、特殊な部位(皮膚静脈、副睾丸静脈)にも起こる。日米比較によると、米国例では初発症状の19%が血栓症であるのに対して、本邦例では6%に過ぎなかった4)

治療

エクリズマブは、補体C5に対するヒト化単クローン抗体であり、終末補体活性化経路を完全に阻止することで溶血を効果的に防ぐことができる。エクリズマブ治療は、溶血のため赤血球輸血が必要と考えられ、今後も輸血の継続が見込まれる患者が対象となる。しかし、骨髄不全に対する改善効果は認めず、本質的なPNH治療とはならない。患者は、定期的なエクリズマブの静脈投与を長期間にわたり受ける必要があることから、精神的負担や高額な医療費負担への配慮が必要となる。
造血幹細胞移植はエクリズマブの使用が可能となった現時点においてもPNHに対する唯一の根治療法である。しかし、PNHは一部の症例を除き、一般的に長期予後良好な疾患であり、その経過中に自然寛解することも報告されているので、移植の適応は慎重に検討されなければならない。現時点では、血球減少症の進行(+それに伴う合併症の出現=感染、出血など)、溶血による頻回の輸血、そして一部の症例では繰り返す血栓・塞栓症などがPNHに於いて移植を適応とする主な理由である。現実的には、このような長期予後不良と考えられる病態の早期に移植を位置付けることが望ましい

予後

PNHは極めて緩徐に進行し、溶血発作を反復したり、溶血が持続したりする。骨髄低形成の進行による汎血球減少と関連した出血と感染が主な死因となる。静脈血栓症もみられるが、欧米に比し我が国では頻度が低い。稀に白血病への進展も知られる。発症/診断からの長期予後は、平均生存期間が32.1年、50%生存が25年であった1)。PNHでは自然寛解が起こり得るというのも特徴の一つであるが、その頻度は、日米比較調査によると5%であった4)。エクリズマブの登場により、今後は予後が改善することが期待される。

参考文献

1) 発作性夜間ヘモグロビン尿症診療の参照ガイド. 厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業、特発性造血障害に関する調査研究. 2011.
2) 大野良之:「特定疾患治療研究事業未対象疾患の疫学像を把握するための調査研究班」平成11年度研究業績集-最終報告書-. 2000.
3) Le X,Yang T,Yang X,Wang X.Characteristics of paroxysmal nocturnal hemoglobinuria in China.Chinese Med J 103:885-889,1990
4) Nishimura J,Kanakura Y,Ware RE,Shichishima T,Nakakuma H,Ninomiya H,Decastro CM,Hall S,Kanamaru, A,Sullivan KM,Mizoguchi H,Omine M,Kinoshita T,Rosse WF.Clinical course and flow cytometric analysis of paroxysmal nocturnal hemoglobinuria in the United States and Japan.Medicine 83:193-207,2004

:バージョン1.0
更新日
:2014年10月1日
文責
:日本小児血液・がん学会
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