55

ミトコンドリアDNA枯渇症候群

みとこんどりあでぃえぬえーこかつしょうこうぐん

Mitochondrial DNA depletion syndrome

告示番 号94
疾病名ミトコンドリアDNA枯渇症候群
診断手引き、医療意見書等のダウンロードはこちら

概要・定義

ミトコンドリアDNA(mtDNA)量が何かの原因で減少し、ミトコンドリアのエネルギー代謝が阻害され機能障害の起こる疾患群を総称してmtDNA枯渇症候群:mitochondrial DNA depletion syndrome (MTDPS)と称する。一次的病因は核にコードされる遺伝子の異常であり、その結果として二次的にmtDNA量の枯渇を中心に、時に多重欠失や点変異の様な異常をも来たす疾患群で、核DNAとmtDNAのゲノム間コミュニケーションの障害(defects in intergenomic communication)と言う概念でとらえることができる。

疫学

ミトコンドリア呼吸鎖複合体欠損症(MRCD)全体の頻度が出生5,000人に1人1)であり、その中でMTDPSの占める割合は、複合型呼吸鎖異常症(MRCD中の)中の18-50%、呼吸鎖複合体I異常症中の7%との報告2)がある。

病因

原因は大きく先天性と後天性に分けられる。後天性としてはHIV治療薬であるzidovudine (AZT) や抗ウィルス薬として用いられる各種核酸類似体で生ずることが知られているが、本稿では先天性の原因について論じる。表に現在OMIMに載っているMTDPSの病型を示す。大きく(脳)筋型と脳肝型に分けられる。mitochondrial neurogastrointestinal encephalopathy (MNGIE) や、心筋症を発症するSengers症候群やMTDPS12は特殊型として分類するものもあるが、ここでは(脳)筋型の1型として表記した。合計15病型になる。しかし、日本でも欧米でも診断されたMTDPSの半数近くの病因はなお不明3-5)であり、まだまだこの分類は完全なものではない。遺伝形式はすべて常染色体劣性である。


表. mtDNA枯渇症候群(MTDPS)の分類
MTDPS
番号
OMIM
病型番号
病名、症候名 病因遺伝子 局 在 OMIM
病因遺伝子番号
(脳)筋型:呼吸不全、ミオパチー、運動発達の遅れ、高乳酸血症
1603041TYMP関連MNGIE1), POLIP2)TYMP22q13.33131222
2609560mtDNA枯渇筋症TK216q21188250
4B613662POLG関連MNGIEPOLG3)15q26.1174763
5612073メチルマロン酸尿を伴う脳筋型MTDPSSUCLA213q14.2603921
8A612075腎尿細管障害を伴う脳筋型MTDPSRRM2B3)8q22.3604712
8B612075RRM2B関連MNGIERRM2B)38q22.3604712
9245400メチルマロン酸尿を伴う脳筋型MTDPS
(旧乳児致死型高乳酸血症)
SUCLG12p11.2611224
10212350Sengers症候群:白内障を伴う心筋症AGK7q34610345
11615084PEO4), 筋緊張低下と筋萎縮,運動不耐症, 呼吸不全MGME120p11.23615076
12615418肥大型心筋症、運動不耐症SLC25A44q35.1103220
13615471乳児期発症脳症、筋緊張低下、発達遅滞FBXL46q16.1605654
脳肝型(Alpers含む):肝障害、成長障害、低血糖、精神発達遅滞、眼振、高乳酸血症
3251880DGUOK関連脳肝型MTDPSDGUOK2p13.1601465
4A203700Alpers症候群
肝硬変を伴う脳灰白質広汎変性症
POLG3)15q26.1174763
6256810Navajo神経肝症MPV172p23.3137960
7271245乳児期発症脊髄小脳変性症
OHAHA5)
C10orf210q24.31606075
1) MNGIE: mitochondrial neurogastrointestinal encephalopathy
2) POLIP: polyneuropathy, ophthalmoplegia, leukoencephalopathy, and intestinal pseudoobstruction
3) RRM2B and POLG are responsible genes for two different types of MTDPS.
4) PEO: progressive external ophthalmoplegia
5) OHAHA: ophthalmoplegia, hypotonia, ataxia, hypacusis, and, athetosis
遺伝子名はHGNC採用の略号のみ記載した(詳細は本文中を参照)

症状

表を参照されたい。詳細は別の教科書6,7)を参照されたい。

診断

治療

ミトコンドリアカクテル等で治療に当たる。まだモデル動物がちらほらと出現してきた段階で、脳肝型MTDPSにおける臓器移植についても評価が一定しない。今後の検討と進歩が待たれる。

成人期以降

MNGIEなど特殊型を除いて成人期に達することはない重篤な疾患群である。

参考文献

1) Skladal D, et al. Minimum birth prevalence of mitochondrial respiratory chain disorders in children. Brain 2003; 126: 1905-1912
2) 大竹 明.ミトコンドリア病,高乳酸血症.日本先天代謝異常学会編 引いて調べる先天代謝異常症,診断と治療社, 2014; 38-43
3) Sarzi E, et al. Mitochondrial DNA depletion is a prevalent cause of multiple respiratory chain deficiency in childhood. J Pediatr2007; 150: 531-534, 534.e1-6
4) Spinazzola A, et al. Clinical and molecular features of mitochondrial DNA depletion syndromes. J Inherit Metab Dis 2009; 32: 143-158
5) 藤浪綾子他.ミトコンドリア呼吸鎖複合体異常症における肝疾患の現状.日本小児栄養消化器肝臓学会雑誌2011; 25: 69-74
6) 梶 俊策.ミトコンドリアDNA枯渇症候群.in 別冊日本臨床 新領域別症候群シリーズ No.20 先天代謝異常症候群(第2版)下-病因・病態研究、診断・治療の進歩- 日本臨床社 大阪 2012; 670-676
7) 大竹 明.mtDNA枯渇症候群(MTDPS).Clinical Neuroscience 2012; 1038-1042
:バージョン2.0
更新日
:2015年5月25日
文責
:日本先天代謝異常学会
「小児慢性特定疾病の対象疾患について」に戻る