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インスリン受容体異常症

いんすりんじゅようたいいじょうしょう

insulin receptor abnormality

告示番 号2
疾病名インスリン受容体異常症
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概念・定義

インスリン受容体機能に異常があり、インスリンのシグナル伝達が正常に行われない病態をさす。

病因

 インスリン受容体遺伝子の先天性異常症によるもの(A型インスリン抵抗症、Donohue症候群、Rabson-Mendenhall症候群)と自己免疫疾患にともなってインスリン受容体に対する自己抗体が受容体機能を障害する病態(B型インスリン抵抗症)に大別される。
 Donohue症候群(leprechaunism)、Rabson-Mendenhall症候群はインスリン受容体遺伝子の両アリル異常により発症し、Donohue症候群が最重症型、Rabson-Mendenhall症候群がそれに次いで重症である。A型インスリン抵抗症では10-20%にインスリン受容体の片アリル異常が認められる。

疫学

 インスリン受容体遺伝子両アリル異常によるものは極めてまれである。その他のインスリン受容体異常症もまれであるが、なかではB型インスリン抵抗症が多い。

臨床症状

 A型インスリン抵抗症では、多毛、黒色表皮腫、アンドロゲン過剰症状(外陰部の肥大、多嚢胞性卵巣など)等の徴候を示し、高度の高インスリン血症を示す。高血糖、ときに空腹時低血糖を伴うことがある。hyperandrogenism, insulin resistance 、acanthosis nigricansを合わせてHAIR-ANと呼ばれることがある。
 さらにインスリン受容体機能の障害の著しいDonohue症候群、Rabson-Mendenhall症候群では、子宮内発育遅延・低出生体重・成長遅延、骨格系の異常(特徴的な顔貌や歯牙の異常など)を認める。Donohue症候群は新生児期より発症し、Rabson-Mendenhall症候群はやや遅れて発症する。高度の高インスリン血症を呈し、初期には食後高血糖と空腹時低血糖を呈するが、徐々に高血糖が主体となる。Donohue症候群では、皮下脂肪減少、耳介低位、上向きの鼻孔、厚い口唇、女児乳房腫大、男児陰茎肥大、心肥大、腎石灰化、などを伴い、Rabson-Mendenhall症候群では多毛、軟部組織の肥大、歯牙早発、男児陰茎肥大、女児外陰部肥大、松果体腫大などを伴うほか腎石灰化を伴うこともある。
 B型インスリン抵抗症では、高度のインスリン抵抗性に伴う高血糖のほか、低血糖を認めることもある。また、原疾患となる自己免疫疾患の症状をともなう。

診断

 Donohue症候群、Rabson-Mendenhall症候群の診断はインスリン受容体遺伝子の両アリル異常を証明することによる。
 A型インスリン抵抗症では、10-20%にインスリン受容体の片アリル異常が認められる。遺伝子異常を認めない症例では、他の原因による高度のインスリン抵抗性症例との鑑別が困難であるが、脂肪肝、脂質異常が起こりにくい特徴がある。血液細胞、脂肪細胞、培養線維芽細胞において、インスリン結合能の低下が認められる場合がある。
 B型インスリン抵抗症の診断は、インスリン受容体抗体の証明によるほか、基礎疾患の存在が診断の助けになる。

治療

 Donohue症候群では、輸液、鼻注栄養などで血糖の変動を少なくするほか、IGF1の皮下注療法が行われる。Rabson-Mendenhall症候群では高用量インスリン治療が行われるが、治療抵抗性である。IGF1、レプチンなどの使用も報告されているほか、初期にはメトホルミンが有効なことがある。A型インスリン抵抗症では、食事運動療法のほか、初期にはメトホルミンが有効なことがある。明らかな糖尿病を呈した症例では高用量のインスリン治療が行われる。B型インスリン抵抗症では高用量インスリン治療の他、IGF1の使用も報告されている。原疾患となる自己免疫疾患の治療のためのステロイド、免疫抑制剤、H.Pylori 感染者のITPに対するH.Pyloriの除菌療法などが行われるほか、リツキシマブの使用も報告されている。

予後

 Donohue症候群では上記治療にある程度の有効性があるが、疾患は重篤で多くは乳幼児期に死亡する。Rabson-Mendenhall症候群も治療にも関わらず、小児期に死亡することが多い。A型インスリン抵抗症もインスリン抵抗性糖尿病をきたし、予後良好とはいえない。B型インスリン抵抗症の予後はインスリン抵抗性糖尿病のほか、原疾患の重症度にも規定される。

成人期以降の注意点

大血管合併症、細小血管合併症とも加齢とともに増悪の傾向があり、合併症の定期的観察の重要度が高くなる。

参考文献

厚生省特定疾患ホルモン受容機構異常調査研究班 平成7年度総括研究事業報告書
:バージョン1.1
更新日
:2015年6月1日
文責
:日本小児内分泌学会
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