8

多発血管炎性肉芽腫症

たはつけっかんえんせいにくげしゅしょう

granulomatosis with polyangiitis; GPA

告示番 号5
疾病名多発血管炎性肉芽腫症
診断手引き、医療意見書等のダウンロードはこちら

概念・定義

 Wegener肉芽腫症は、病理組織学的に全身の壊死性・肉芽腫性変化を認め、発症機序に抗好中球細胞質抗体ANCAが関与する原発性血管炎症候群である。International Chapel Hill Consensus Conferenceの2012年改訂で、従来のWegener肉芽腫症という呼び名からgranulomatosis with polyangitis GPAに変更された。ANCAの関与するsmall vessel vasculitisの一疾患に区分され、上下気道の壊死性・肉芽腫性炎症および小から中血管を主に侵す壊死性血管炎を来たし、高頻度に壊死性糸球体腎炎を伴うものと再定義された。GPAは元来、生命予後の極めて悪い疾患であるが、発症早期に免疫抑制療法を開始すると、高率に寛解を導入できる疾患であることがわかってきた。しかし声門下狭窄に伴う呼吸不全など救急疾患としての性格や、臓器後遺症としての腎不全の存在は、単なる慢性炎症性疾患としてのみで捉えるべきではないことを意味している。血管病変を主体とした全身性疾患としての管理が不可欠である。

病因

 感染症、HLA、ANCAなどが病因論的に関与しているとされるが、真の原因は不明である。
上気道の細菌感染を契機に発症したり、再発が見られることが多いので、何かしらの病原体に関わる免疫反応である可能性が想定されている。特に黄色ブドウ球菌が検出される例が多く、鼻腔内感染はリスク因子(相対危険度9.0)とされるため、スーパー抗原の関与が推定されている。
 欧米では特定のHLA抗原をもつ人に発症しやすいとの成績もあるが、わが国では特定HLA抗原との相関は見出されていない。一方、HLA-DR13/DR6が欧米では少ないことが知られているが、家族内発症例は少なく遺伝的素因で説明することは難しい。季節発症や高緯度地域での好発など環境素因も考えられている。
 高頻度に検出されるANCA、特にプロテイネース3 PR-3に対する ANCAが自己抗体として発症に関わるとの説もある。実験的にはPR-3 ANCAが炎症性サイトカインの存在下に好中球を活性化し、活性酸素や蛋白分解酵素を放出、血管炎や肉芽腫性炎を起こすが知られている。しかし、リツキシマブの限定された有用性からは自己抗体としてのANCAの関与は病態の一部を説明するものに過ぎないと考えられる。

疫学

 欧米ではANCA関連血管炎の多くがPR-3を対応抗原とするGPAであるのに対し、わが国や中国ではMPOを自己抗原とする顕微鏡的多発血管炎MPAが多い。本邦ではANCA関連血管炎の9割がMPA、残りの一部がGPAである。また世界的にANCA関連血管炎が増加していることも知られており、本邦でも同様の傾向にある。平成20年度のGPAの医療受給者証交付件数は成人を含めて1151件であった。推定発症年齢は主に30-60歳代で、成人では男女差は無い。
 北欧等の疫学調査では10万人に0.2-1.2例の発症率とされているが、小児例の発症頻度はそれよりずっと少なく、GPA全体の3-7%、年あたり1000万人に1-5人程度の発症と思われる。成人期発症例がやや男性に多いのと異なり、小児期発症例は女児の方が2倍以上多い。また発症から診断までも数ヶ月以内と短い。これは成人期発症例と比べて症状が強く、急速に進行する例が多いためと考えられる。

臨床症状

 発熱、体重減少などの全身症状とともに、(1)上気道の症状:膿性鼻漏、鼻出血、鞍鼻、眼痛、視力低下、眼球突出、中耳炎、咽頭痛、咽喉頭潰瘍、嗄声、気道閉塞など、(2)肺症状:血痰、咳嗽、呼吸困難など、(3)腎症状(急速進行性糸球体腎炎):血尿、蛋白尿、急速に進行する腎不全、浮腫、高血圧、(4)その他の消化管出血(吐血、下血)、紫斑、多関節痛および多発神経炎、虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞)、胸膜炎、上強膜炎による症状などを呈する。上記の(1)(2)(3)全てを満たすものを全身型、2つ以下である場合を限局型という。
 小児では欧米において4つのコホートがあり、北米の患者登録ARChiVeとトロント小児病院の単施設のコホートの結果からは、発熱、易疲労、体重減少などの全身症状が9割以上の症例に認められる。臓器所見としては、肺や上気道および腎に由来するものが約8割に認められ、眼や皮膚、消化管の症状は3割前後である。ほとんどの小児例が発症時より多臓器病変に伴う症状を有する。一方、成人では、1/3の症例で肺や腎の病変は無症候であるが、病変が一臓器に限局していることは稀で組織学的検索により明らかとなることが多い。また成人との比較では声門下狭窄が多いこと、酸素が必要な症例が15%程度にのぼること、最終的に11-20%が透析になることが知られている。またトロント小児病院のコホートでは静脈血栓症が成人に比して多いことが挙げられている。耳鼻科領域では鞍鼻など軟骨の破壊性変化で気付かれることもある。
 検査所見ではほとんどの例で白血球増多を認め、中等度の好酸球増多や正球性正色素性貧血、血小板増多と著明な赤沈亢進およびCRPの上昇を認める。ただし早期例ではこれらの所見を認めない場合も多い。腎病変がある場合は蛋白尿、顕微鏡的血尿、赤血球円柱を認めるが肉眼的血尿は稀である。BUNやクレアチニンの上昇は腎障害の程度に並行する。リウマチ因子は成人同様約半数で陽性を示す。IgAが高い場合が多い。約2割の例で抗リン脂質抗体が陽性例であり、血栓症を来す。ANCAは、免疫蛍光抗体法では約9割陽性となるが、ELISAによるPR-3 ANCAの陽性率は7割程度である。MPO-ANCAも約1割程度陽性となる。
 GPAは、病理組織学的に上下気道の壊死性肉芽腫、小動脈および静脈を主とした壊死性あるいは肉芽腫性の血管炎、巣状分節性の壊死性糸球体腎炎によって特徴づけられる。しかし肺などの生検組織において肉芽腫が常に検出できるわけでは無く、非特異的炎症像しか捉えられない場合もある。小血管では白血球破砕型血管炎の形をとることもある。初期の腎組織の変化は糸球体血栓症であり、管外増殖と半月体形成が壊死性変化に先立つ。硬化性変化は病初期の腎機能低下の無い段階でも認められうる。腎に肉芽腫性変化を来すことは稀である。蛍光抗体法では免疫グロブリンや補体の沈着が乏しいことがポイントである。
 画像診断では肺の胸部レントゲン検査で異常を指摘可能であるのは半数に満たない。浸潤影よりも結節影を認めることが多く、空洞形成や胸水貯留、気胸などを認める場合もある。胸部CTでは小葉中心性や血管周囲性の陰影を認めることも多い。副鼻腔CTでは粘膜肥厚や前顎洞や上顎洞の不明瞭化、骨破壊像を認めることもある。粘膜病変の描出にはMRIが優れており、眼球突出や声門下狭窄の質的診断が可能である。
 生理検査では肺出血の最も早期のマーカーとして、拡散能DLcoの低下は有用である。

診断

治療

 GPA を含めANCA関連血管炎の治療は、ANCA関連血管炎の診療ガイドライン(厚生労働省難治性疾患克服研究事業、2011年)を参考に、発症後概ね6ヶ月以内の早期の寛解導入療法およびその後の維持療法の組み合わせで行われる。ただし、本邦のANCA関連血管炎の多くはMPAであり、JMAAVがMPO-ANCA陽性例を中心に行われた結果であることには留意すべきである。一方、ANCA関連血管炎の診療ガイドラインにグローバルな現状として紹介された治療法は、EULARによる原発性の小および中血管炎の治療recommendationを基にしたものである。GPAが多数を占める欧州の実情を反映したものであり、本邦例にも有用と考えられる。これらは主に成人を対象に策定されたものであるが小児においても適応可能とされている。
 EULARのrecommendationにあるように、EUVASによる重症度分類をもとに治療にあたる。活動性の評価には改訂Birmingham vasculitis activity score BVASを、臓器障害の評価にはvasculitis damage index VDIを用いる。
 寛解導入にはステロイド薬とシクロフォスファミドCYCの併用が標準治療である。これは元来、成人におけるステロイド剤+経口CYCでの寛解率9割の結果をもとにしたものである。CYCについては重症SLEに対するNIHプロトコールを参照し、静注パルスでの月1回6ヶ月間、続いて3ヶ月に1回投与の変法も行われ副作用の軽減が図られているが、再燃は静注投与に多いとの報告もあり結論をみていない。一方、腎障害をはじめすでに臓器障害を認める場合はCYCの減量等を考慮する。
 寛解後の維持療法については、低用量のステロイド薬と免疫抑制剤を引き続き併用するのが一般的である。免疫抑制剤としては従来よりCYCを引き続き用いてきたが、副作用軽減の観点からアザチオプリンかメトトレキサートに変更することが多い。最近はレフルノマイドやMMFも試みられているが、間質性肺炎等の副作用の観点および再燃しやすさから標準的治療では無い。合併症等で従来薬が使えない場合に試みるべきものと考えられる。
 再燃例では、ステロイド薬、免疫抑制薬で再寛解導入を目指し治療の強化をはかる。難治例ではリツキシマブなどの生物学的製剤や免疫グロブリンが使用される。2013年に公知申請で保険承認されたリツキシマブではあるが、寛解誘導は概ね得られるものの再発予防効果は少ない。また肉芽腫性病変には有効性は乏しいことも知られている。TNF阻害剤については議論の余地がある。またATGやアレムツズマブなども現在検討中である。
 GPAでは上気道、肺に主に黄色ブドウ球菌による二次感染症を起こしやすいので、細菌感染症対策を十分に行う。また上記の通り、再燃や難治性の観点から、上気道炎症状の強い例には、スルファメトキサゾール(ST)合剤をあらかじめ併用することもある。最近は支持療法として広く奨められている。

予後

 元来、無治療での1年以内の死亡率は約8割に昇るが、早期に診断を下して上述の免疫抑制療法を徹底して行うと、完全に寛解する例もある。成人での報告では5年生存率は9割以上で、死因の約3割が感染症、2割が心疾患と腎不全に因るものである。小児の生存率に関しても同様と考えられているが、1/4の症例で重症感染症の罹患が認められるため、感染症対策が重要である。
 5年以内の再燃は約半数にみられ、小児でも成人同様である。あまり早く治療を中止すると、再燃の頻度が高く、2年間以上の免疫抑制療法と長期間の経過観察が必要である。この際、疾患活動性の指標としてPR-3 ANCAの抗体価が有用という報告もあるが議論の余地がある。
 機能障害の点では声門下狭窄と鞍鼻などの変形、難聴が小児に多く、気管切開術を要する例も多い。また1/3の小児例が腎不全に至る。CYCなどによる治療関連性の障害では不妊が22%に認められるとの報告があるが、今後は治療方法の層別化などにより減ると考えられる。
:バージョン1.0
更新日
:2014年10月1日
文責
:日本小児リウマチ学会
「小児慢性特定疾病の対象疾患について」に戻る