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高安動脈炎(大動脈炎症候群)

たかやすどうみゃくえん (だいどうみゃくえんしょうこうぐん)

Takayasu arteritis

告示番 号4
疾病名高安動脈炎
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概念・定義

 大動脈とその主要分枝及び肺動脈、冠動脈に狭窄、閉塞又は拡張病変をきたす原因不明の非特異性炎症性疾患である。血管炎による全身症状、狭窄ないし閉塞をきたした動脈の血流障害による各種臓器障害、あるいは拡張による動脈瘤などが臨床病態の中心をなす。病変の部位や広がりによって症状が異なるため、臨床症状が多彩である。本邦では大動脈炎症候群と呼ばれることが多いが、欧米では高安動脈炎と呼ばれている。上肢血管の脈拍欠損を伴うことから、脈なし病と呼ばれたこともある。発症頻度には人種差や地域差があるが、本邦では若い女性に好発する。厚生労働省の特定疾患治療研究事業の対象疾患の一つに指定されている。

病因

 病理学的には動脈外膜側から内膜側に進展する血管炎である。発症機序はいまだ不明であるが、ウイルス感染などを契機として、自己免疫的な機序で血管炎が進展することが発症につながると考えられている。何らかの抗原刺激に反応した、T細胞を主体とした炎症性細胞が動脈壁内に浸潤していることが、血管障害の主体となっていると推測されている。

疫学

 高安動脈炎で特定疾患医療受給者証を所持している患者は全国で5829例(2011年度)である。全体からみた数は少ないものの、10歳未満で発症する症例も認められる。小児期発症の血管炎としては川崎病やIgA血管炎の頻度が高いが、その2疾患以外の血管炎では高安動脈炎が最多で、2008年度の全国調査では罹患数が31例(小児人口10万人対0.18人)であった。症状が多彩で非特異的な所見が多い疾患であることから未診断例が多く、実際の症例数はさらに多いと思われる。男女比は1:9で女性に発症することが多い疾患である。女性では15歳から35歳に発症年齢のピークがあるが、男性では発症年齢のピークが認められず、この疾患の発症に女性ホルモンが関与していることが示唆される。高安動脈炎の患者の約98%は家族歴を有さないが、一卵性双生児例の報告はあり、何らかの遺伝素因も発症に関わっていると考えられる。炎症制御に関わる遺伝素因の関与が示唆されており、本邦においてはHLA-B52、HLA-B39、HLA-B遺伝子の近傍にあるMICA-1.2遺伝子などとの関連が報告されている。特にHLA-B52陽性患者ではB52陰性例と比較して有意に強い血管炎を生じる傾向があり、大動脈弁閉鎖不全症を合併する割合も高いことが明らかになっている。

臨床症状

 高安動脈炎は不明熱の鑑別疾患として重要な疾患である。初期症状として認められるのは、発熱、全身倦怠感、易疲労感、頸部リンパ節腫脹などの非特異的な症状であり、疼痛(頸部痛、背部痛、腰痛)を伴うこともある。その後、血管病変による症状が見られるようになるが、大血管に病変を生じる疾患であるため、狭窄症状が出現するまでに時間がかかるという特徴がある。血管病変は多発する傾向があるが、無症状で経過する症例から発症早期に多彩な症状を呈する症例まで、その程度は様々である。本邦の症例では大動脈弓周囲に血管病変を生じることが多く、最も高頻度に認められる症状は上肢の乏血症状であり(特に左鎖骨下動脈に血管病変を認める頻度が高い)、次に多いのが頭部乏血症状である。本邦では腹部大動脈や総腸骨動脈の病変はあまり認められず、下肢乏血症状を生じることは少ない。頭部乏血症状(めまい、頭痛、失神発作、片麻痺など)は腕頭動脈、総頸動脈、椎骨動脈などの狭窄や頚動脈洞反射亢進により起こり、眼症状(一過性又は持続性の視力障害、失明)を伴うこともある。また、上肢の乏血症状(脈拍欠損、上肢易疲労感、指のしびれ感、冷感、上肢痛)、下肢の乏血症状(間欠跛行、脱力、下肢易疲労感)、肺動脈狭窄や肺梗塞に伴う呼吸器症状(呼吸困難、血痰)、異型大動脈縮窄や大動脈壁の硬化、腎動脈狭窄などによる高血圧、冠動脈狭窄による心症状(息切れ、動悸、胸部圧迫感、狭心症状、不整脈)、結節性紅斑や非特異的な炎症性腸炎などを認めることもある。拡張病変による症状としては大動脈瘤や大動脈解離、大動脈弁輪拡大に続発する大動脈弁閉鎖不全に基づく心不全が主である。大動脈弁閉鎖不全症は本症の約30%に認められ、予後に影響を与える。

診断

治療

 発症早期から適切な内科的治療を行うことで、重大な臓器障害を予防し、より良い状態での疾患コントロールを目指すことが可能となる。活動性の血管炎の存在を示唆する症状およびCRP上昇、血沈亢進などの炎症反応を認めた場合は、炎症の抑制を目的として副腎皮質ステロイドの投与を開始する。一般的に高安動脈炎はステロイドへの反応性が良好である。小児の初期治療量としてはプレドニゾロン1-2mg/kg/dayが一般的だが、ステロイドの長期大量投与による成長障害などの副作用を最小限に抑えるため、なるべく早くステロイドの減量を進める目的で、最初にメチルプレドニゾロンパルス療法を行ってから、後療法としてプレドニゾロン1mg/kg/day未満で開始することもある。ただし、高血圧合併例ではパルス療法は避けるべきである。ステロイドの投与量は年齢・体重・症状・重症度などにより適宜増減する。HLA-B52陽性患者ではステロイド抵抗性を示すことが多く、より多くのステロイド初期投与量が必要というデータがあるため注意が必要である。症状や検査所見が改善していればステロイドを漸減し、減量により症状の増悪を示す場合には適宜増量しながら、必要量を継続投与する。維持量として少量のステロイドの継続が必要であることが多いが、中にはステロイドを中止できる症例もある。
 ステロイド抵抗性の難治例や、副作用のためにステロイドの継続が困難な症例では免疫抑制薬の併用を検討する。小児の血管炎症候群に保険適応があるのは、シクロホスファミドとアザチオプリンである。シクロホスファミドは1日1回500mg/㎡を4週間隔で投与し、その後はアザチオプリンや他の免疫抑制剤などを併用しながら、病勢のコントロールを図る。その他の免疫抑制薬としてはメトトレキサート、シクロスポリン、タクロリムス、ミコフェノール酸モフェチルなどが選択肢となるが、いずれも保険適応外使用となるため、治療の必要性をよく検討し、患者家族に十分なインフォームド・コンセントを行った上で使用する。治療中は有害事象の有無についても慎重に観察する。
 TNF阻害剤、抗IL-6受容体抗体、抗CD20モノクローナル抗体、末梢血幹細胞移植などの有効性を示す報告もあるが、いずれも効果や安全性についての情報がまだ不十分であり、現時点では一般的な治療法にはなっていない。
 その他の内科的治療としては、血栓を予防して重大な合併症である臓器梗塞を起こさないようにするために少量アスピリン投与を行う。また、抗血小板剤として、塩酸チクロピジン、シロスタゾールなど、抗凝固剤としてワーファリンを投与する。いずれの薬剤も出血性病変が存在する場合は禁忌であり、出血性梗塞の有無には注意が必要である。
 外科的治療は全体の約20%で施行されており、特定の血管病変に起因することが明らかな症状で、内科的治療が困難と考えられる症例が適応となる。大動脈弁閉鎖不全症は、発症初期は無症状だが、数年の経過でうっ血性心不全を呈することがあるため、注意が必要である。大動脈弁閉鎖不全に対する大動脈弁置換術(Bentall手術を含む)は一般の大動脈弁閉鎖不全症の適応に準じて行う。冠動脈狭窄では狭心痛を伴うか狭窄の程度が有意であれば血行再建術を行う。肺動脈狭窄が生じて肺高血圧を呈すれば手術適応となり、心膜を用いたパッチ拡大術か人工血管置換を行う。大動脈弓部分枝病変では脳虚血が症候性である場合(頻回の失神発作、めまい)や虚血による視力障害が出現した場合、眼底血圧が低下している場合、または無症候性であっても3分枝全てに有意狭窄が認められる場合などに、上行大動脈からのバイパス術を施行する。異型大動脈縮窄症は高血圧合併により自然予後が不良であるため、血行再建術の適応である。腎動脈病変では狭窄が著明で内科的治療が無効な場合には血管拡張療法やバイパス術を検討する。腸間膜病変は症候性(腹痛、体重減少など)のものは血行再建術の適応となる。胸部大動脈瘤、大動脈基部拡大、上行弓部大動脈瘤、胸腹部大動脈瘤、末梢動脈の拡張病変に対しても人工血管置換術を行う。いずれも緊急の場合を除いて、充分に炎症が消失してから外科手術を行うことが望ましい。

予後

 近年、画像検査の進歩により本症の早期診断が可能となった。そのため、発症初期から適切な治療を行うことができるようになり、重大な臓器障害を生じることなく疾患をコントロールすることが可能となったため、疾患予後が大きく改善している。しかし、腎動脈狭窄や大動脈縮窄症による高血圧、大動脈弁閉鎖不全によるうっ血性心不全、虚血性心疾患、心筋梗塞、解離性動脈瘤、動脈瘤破裂などを認める重症例では治療に難渋し、ときに死に至ることもある。また、高安動脈炎は再燃しやすい疾患であり、約7割に再燃が認められるため、定期的なフォローが必要である。妊娠出産に関しては、炎症所見が落ち着いていて、重篤な臓器障害を認めない症例では基本的に問題がない。しかし、一部の症例では出産を契機として炎症所見が再燃する場合もあるので注意する。
:バージョン1.0
更新日
:2014年10月1日
文責
:日本小児リウマチ学会
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