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ベーチェット(Behçet)病

べーちぇっとびょう

Behçet’s disease

告示番 号11
疾病名ベーチェット病
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概念・定義

 ベーチェット病は、皮膚粘膜症状(反復する口内炎、皮膚症状、外陰部潰瘍)および眼症状(ぶどう膜炎)を特徴とし、炎症の増悪と寛解を反復する慢性疾患である。小児ベーチェット病は成人例と比較して、消化器症状の出現頻度が高い(約50%)一方で、皮膚症状(約60%)・外陰部潰瘍(約50%)・眼症状(約20%)の出現頻度が少ないという特徴がある。世界中の専門家の意見が一致した疾患の定義は存在せず、国際基準(Criteria of the International Study Group for diagnosis BD)をはじめとする成人のベーチェット病を対象に作成された複数の診断基準が小児ベーチェット病でも使用される。本邦では、厚生労働省 特定疾患ベーチェット病 診断基準が用いられることが多い。

疫学

 ベーチェット病は、日本を含む中近東から東アジアにかけてのシルクロードに沿った地域で罹患頻度が高い。好発年齢は20~40歳で思春期前の発症は少ないとされる。日本小児リウマチ学会による調査でも、成人例の報告と同様に男女差は認められなかった。

病因

 ベーチェット病の病因は不明である。遺伝的素因、誘因としての感染症、免疫系および炎症反応制御の異常などの複数の要因が関与していると考えられる。
特定のHLA (human leukocyte antigen) は、小児ベーチェット病の直接的な原因ではないものの、日本人の一般人口の保有率と比較して高頻度であり、遺伝的素因のひとつと考えられる。日本小児リウマチ学会の調査では、HLA-B51は約40%(一般 9%)、HLA-A26 は約20%(一般 12%)であった。
 単純ヘルペスウイルス感染症などの感染症、扁桃炎、歯科治療、手術などが誘因として挙げられる。
好中球機能の異常亢進、炎症性サイトカインの産生能亢進、病理組織での血管周囲へのリンパ球浸潤などが報告されているが、抗核抗体をはじめとする自己抗体は認められない。

臨床症状

小児ベーチェット病で認められる臨床症状の多くは非特異的で、他の原因でも出現しうるものである。診断の数年前より口腔潰瘍を認め、その後他の症状が出現して診断に至る症例が多い。

1皮膚粘膜症状
1)口腔粘膜の再発性アフタ症状
 境界鮮明な浅い有痛性潰瘍で、口唇・頬粘膜・舌・口蓋・咽頭・歯肉などの粘膜に出現する。数日間~3週間で瘢痕を残さず治癒することが多い。

2)皮膚症状
 ・結節性紅斑:下肢伸側に好発する。まれに前腕・顔面・臀部にも認められる。
 ・皮下の血栓性静脈炎:下腿に好発する潮紅・圧痛を伴う皮下結節。
 ・毛嚢炎様皮疹,痤瘡様皮疹:毛嚢に一致する小嚢胞・紅色丘疹で、発赤・腫脹を伴う。

3)外陰部潰瘍
 活動性の高い時期に出現する。男児では陰嚢・陰茎・亀頭に、女児では前庭部・大小陰唇に好発し、肛門周囲にも認められる。

2眼症状
1)虹彩毛様体炎
 羞明感、視力低下で気付かれる。前房蓄膿を認めることがある。
2)網膜ぶどう膜炎(網脈絡膜炎)
 眼発作を繰り返すと視力が低下する。若年男性は最も予後不良。

3関節炎
 少~多関節炎(反復性・移動性・非対称性)は、膝・足・手・肘・肩などの比較的大きな関節に認めやすい。1~2週間で軽快し、骨びらんや関節破壊は通常認めない。
4中枢神経症状

1)髄膜脳炎
頭痛、項部硬直、局所的神経症状、脳脊髄液の細胞増多。

2)脳脊髄炎
錘体路症状、錐体外路症状、小脳症状、脊髄症状、けいれん。

3)良性脳圧亢進症
偽脳腫瘍、乳頭浮腫、矢状静脈洞血栓症。

4)器質性精神障害
精神病・うつ症状・痴呆・記憶障害など。


5消化器症状
1)軽度の症状(下痢・嘔吐・腹痛)
ほとんどは一過性で自然寛解する。

2)消化管潰瘍
潰瘍は回腸末端部・盲腸に最も多く、上行結腸部・横行結腸にも認められる。腹痛・腸管出血・穿孔を生じうる。

6血管症状
1)動脈血栓症
肺動脈血栓症は稀であるが、予後不良因子であり注意が必要である。

2)深部静脈血栓症
血栓症は下肢の静脈と大静脈に多い。肝静脈血栓症により Budd-Chiari 症候群が生じる。

3)動脈瘤
腹部大動脈・大腿動脈・肺動脈に好発する。肺動脈瘤は稀な合併症だが予後不良因子であり注意が必要である。

7その他
1)発熱
2)精巣上体炎(副睾丸炎)
 陰嚢の疼痛・腫脹がみられ 1~2週で軽快するが再発しやすい。
3)心合併症
 心外膜炎、心内膜炎、心筋梗塞、不整脈など。小児ではまれ。
4)腎合併症
 腎アミロイドーシス、糸球体腎炎、腎動脈瘤、腎動脈狭窄など。

診断

治療

 病変部位を清潔に保つこと、口腔ケア、将来的な禁煙の必要性などの生活指導は、基本的かつ重要である。薬物治療は認められる症状およびその重症度により選択される。
 以下に治療薬の使用例を挙げる。小児ベーチェット病の初期治療や難治例の加療にあたっては、小児リウマチ専門医と連携のうえで行うことをお勧めする。

1皮膚粘膜症状

1)口腔粘膜の再発性アフタ症状
 局所ステロイド、プレドニゾロン内服(短期間の使用にとどめる)、コルヒチン、セファランチン、エイコサペンタエン酸 など

2)皮膚症状
 コルヒチン(結節性紅斑に)

3)外陰部潰瘍
 局所ステロイド、コルヒチン


2眼症状

1)虹彩毛様体炎
 ステロイド点眼、散瞳薬

2)網膜ぶどう膜炎(網脈絡膜炎)
 ステロイドの全身投与・テノン嚢下注射、コルヒチン、シクロスポリン
 インフリキシマブ(腫瘍壊死因子阻害薬)
 3関節炎
 コルヒチン、プレドニゾロン内服(少量かつ短期間の使用にとどめる)、消炎鎮痛薬


4中枢神経症状
 ステロイドの全身投与(ステロイド パルス療法を含む大量療法)
 免疫抑制薬(アザチオプリン,メトトレキサート,シクロホスファミド)
 シクロスポリンは禁忌である


5消化器症状

1)消化管潰瘍・穿孔
 ステロイドの全身投与
 サラゾスルファピリジン,メサラジン,アザチオプリン
 アダリムマブ(腫瘍壊死因子阻害薬)
 外科手術(消化管出血,穿孔時)


6血管症状
 ステロイドの全身投与
 免疫抑制薬(アザチオプリン、シクロホスファミド、シクロスポリン)
 抗凝固療法

予後

 小児ベーチェット病の治療は長期間に及び、増悪と改善を繰り返しながら徐々に疾患活動性が低下する症例が多い。長期の生命予後は比較的良好である一方で、すべての臨床症状が消失する例が多数を占めるわけではない。重要臓器の血管障害を認める例、腸管穿孔を認める例、ぶどう膜炎の再燃を繰り返す例は予後不良であり、治療に苦慮することも多い。
:バージョン1.0
更新日
:2014年10月1日
文責
:日本小児リウマチ学会
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