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萎縮性甲状腺炎

いしゅくせいこうじょうせんえん

Atrophic thyroiditis; primary myxedema

告示番 号25
疾病名萎縮性甲状腺炎
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概念・定義

萎縮性甲状腺炎は甲状腺腫大がなく甲状腺機能低下に陥った自己免疫性甲状腺炎であり、その病態を指す「特発性粘液水腫」と同義語として用いられることも多い。粘液水腫は皮下や間質にグリコサミノグリカンが沈着して圧痕を残さない浮腫(nonpitting edema)が生じる病態である。

疫学

萎縮性甲状腺炎は頻度が低いうえに、橋本病の亜型と解釈されることも多いため、発症率に関するデータは検索しえない

病因

病理所見ではリンパ球浸潤、リンパ濾胞の形成がみられ、甲状腺上皮細胞はほとんど崩壊し、線維化がみられる。浸潤リンパ球による甲状腺上皮細胞障害のほかに、10%の患者で作用阻害型TSH 受容体抗体の産生が確認され、TSH作用不全により甲状腺が萎縮すると考えられているが、小児では陽性例は少ない。阻害型TSH受容体抗体はTSH受容体に結合してcAMP産生増加を起こさず、TSHによるcAMPの増加反応を抑制し、甲状腺刺激作用を抑制して甲状腺のヨード摂取を抑制し、甲状腺濾胞上皮の増殖を抑制する。
萎縮性甲状腺炎の病因として①橋本病の経過中に甲状腺組織破壊が進行し、その終末像が萎縮性甲状腺炎であるとする考え方と1)、②それを否定する考え方2, 3)、③TSH受容体抗体産生、Th2 優位性、MHCクラス2 拘束性(HLADPw2の減少、w4およびw5の増加)から、刺激型TSH受容体抗体を産生するBasedow病と一連の自己免疫性TSH受容体疾患として把握する考え方4)がある。阻害型TSH受容体抗体陽性の萎縮性甲状腺炎はバセドウ病よりも受容体抗体産生機構が活性化している。

臨床症状と検査所見

基礎代謝低下、易疲労感、無気力、徐脈、心機能障害、便秘、嗄声、筋仮性肥大、学業成績の低下に加え、急激な著しい甲状腺機能低下による、粘液水腫、脱毛、成長の停止(growth arrest)、症候性肥満が特徴的であり、成長曲線から発症時期が推定できる。2~3 年の経過を経て、学校検診などで成長率低下、肥満、脂質代謝異常症を指摘され、医療機関を受診することが多い。甲状腺腫は認めない。
長期間の甲状腺機能低下により、下垂体TSH分泌細胞が肥大化し、下垂体腫大をきたし、下垂体腺腫との鑑別が必要なこともある。腫大下垂体は補充療法により一旦empty sellaとなるが、後に回復する。
二次性徴は通常遅延するが、二次的にLH、FSH、PRL が増加し、卵巣嚢種、思春期早発症を呈することもある。GH分泌は低下している。
学童期~思春期女子に発症することが多いが、幼児期に発症した場合は精神運動発達障害をきたすこともある。
阻害型TSH受容体抗体を有する母体より出生した新生児では、一過性甲状腺機能低下症をきたし、重度な新生児仮死となり、精神運動発達遅滞を残すことがある5)
甲状腺腫を伴わない甲状腺機能低下症状、成長曲線による成長率低下、肥満、粘液水腫を呈する場合本症を疑う。二次性徴、心機能の評価も必須である。
甲状腺関連検査ではTSH著明高値(TSH>100μIU/mL)、FT3、FT4 著明低値、抗サイログロブリン抗体陽性、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体陽性、抗TSH受容体抗体(作用阻害型)を確認する。血液生化学検査ではコレステロール著明高値(LDL コレステロール)、AST、ALT、LDH、CK 高値を認める。甲状腺超音波検査では内部エコーが低下した萎縮甲状腺を認め、他に骨年齢の著明な遅延、頭部骨レ線上トルコ鞍拡大、頭部MRI 画像上下垂体腫大を確認する。他の下垂体ホルモン(LH、FSH、PRL、GH、ACTH)、IGFI、E2、テストステロンの評価も行う。

診断

治療

l-thyroxine;LT4(チラーヂンS®)を分1で食前投与する。成人では長期間甲状腺機能低下状態に対し急速な甲状腺ホルモンの補充療法により心機能低下(狭心症、心筋梗塞)を誘発する恐れがあるため、投与量は少量(12.5~25μg/日)から開始し、漸増し(2週間ごとに12.5~25μg/日ずつ増量)、維持量(100~150μg/日)までもっていくことが推奨されている。小児でのLT4の1日あたりの維持量は生後6ヶ月までは5~8μg/kg、6~12 ヶ月では6~8μg/kg、1~5歳では5~6μg/kg、6~12 歳では4~5μg/kg、12 歳以上では2~3μg/kg が適量である。治療開始後1~2 週間で血中FT4 は正常範囲となり、TSH が正常化するには1ヶ月は要する。

予後

補充療法が開始され甲状腺機能が正常化すると諸症状、各検査所見は改善する。治療開始直後は代謝状態が劇的に変化するので、1~2回/月の定期検査(血液生化学、甲状腺機能、心機能)、成長の評価(成長曲線、骨年齢、思春期の進行)が必要である。
思春期年齢で発症した場合は、治療開始後思春期が急速に回復、進行し、骨成熟も急速に回復、進行する。身長増加不良期間が長いと骨成熟の進行に比しcatch up growthは70%程度しか得られず、成人身長は充分には改善されない。そのような場合、LT4補充後比較的早期にLH-RH
アナログ、成長ホルモンの併用も検討する6)
本症では永続する甲状腺機能低下となり、機能の回復は期待できず、生涯にわたるLT4補充療法を必要とすることが多い。投薬が不要となるケースでも妊娠、出産を機に再燃することがある。
同じ患者で阻害型と刺激型のTSH受容体抗体が共存することがあり、阻害型優位から刺激型優位に変換し、Basedow 病を呈する症例もある7)
合併症として1型糖尿病、多腺性自己免疫症候群、Sjogren症候群などの自己免疫疾患、甲状腺癌(乳頭癌、濾胞腺癌、髄様癌、未分化癌、悪性リンパ腫)が挙げられる。

参考文献

1) Amino N,et al.: Chronic (Hashimoto’s) Thyroiditis. In:DeGroot LJ,Jameson JL (eds),Endocrinology, 5th ed, WB Saunders, Philadelphia,
2055-2067,2005
2) Wiersinga WM: Hypothyroidism and myxedema coma. In:DeGroot LJ,Jameson JL (eds),Endocrinology, 5th ed, WB Saunders, Philadelphia,2081-2099,2005
3) Matsuura Net al.: Comparison of atrophic and goitrous autoimmune thyroiditis in children: clinical, laboratory and TSHreceptor antibodies.Eur J Pediatr 149:529-533,1990
4) Mori T,et al.: Recent progress in TSH receptor studies with a new concept of “autoimmune TSH receptor disease”. Endocr J 41:1-11,1994
5) Yasuda T,et al.: Outcome of a baby born from a mother with acquired juvenile hypothyroidism having undetectable thyroid hormone concentrations.J Clin Endocrinol Metab, 84:2630-2632,1999
6) Minamitani K,et al.: Attainment of normal height in severe juvenile hypothyroidism.Arch Dis Child: 70:429-30,1994
7)南谷幹史, 他:5 年後に甲状腺機能亢進症を進展した、成長障害、粘液水腫を伴った橋本病の一女児例.ホルモンと臨床 56 臨時増刊:88-93,2008
:バージョン1.0
更新日
:2014年10月1日
文責
:日本小児内分泌学会
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