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橋本病

はしもとびょう

Hashimoto disease

告示番 号26
疾病名橋本病
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概念・定義

慢性甲状腺炎は、自己免疫性甲状腺炎(autoimmune thyroiditis)ともいわれる。1912 年に橋本策博士が 4 名の中年女性のびまん性甲状腺腫の病理所見をリンパ腫性甲状腺腫 (struma lymphomatosa) として発表したのが最初であり、その病理学的特徴は、甲状腺実質へのリンパ球浸潤とリンパ濾胞の形成、濾胞上皮の萎縮と好酸性変性、間質の線維化であった。その後、患者血中に抗甲状腺自己抗体が証明され、本疾患は自己免疫反応による甲状腺の慢性炎症であることが明らかにされた。

慢性甲状腺炎と橋本病は同義語として使用されているが、国際疾病分類 ICD10 では橋本甲状腺炎 (Hashimoto’s thyroiditis) と表記され、これが学術用語として広く用いられている。

疫 学

中年以降に多い疾患であるが、6 歳以上の小児の甲状腺腫および後天性甲状腺機能低下症の最も多い原因とされ、思春期年齢から増加する。男女比は成人 ( 1 : 10 ) とは異なり、小児では 1 :5 程度である。
甲状腺機能の経過はさまざまであり、すべての症例が甲状腺機能低下症に至るわけではない2, 3

病 因

慢性甲状腺炎は、遺伝的素因を基盤として、ウイルス感染、ヨード摂取量などの環境因子が作用することにより免疫学的寛容が破綻し、細胞性免疫および液性免疫が関与して発症するとされる。家族内発症も 30 ~ 40 % にみられる。過剰なヨード摂取により甲状腺の自己免疫機序が誘発されやすくなる。

甲状腺実質内に浸潤・集積したリンパ球である甲状腺特異抗原反応性ヘルパーT細胞および細胞傷害性T 細胞による自己免疫反応により、抗甲状腺自己抗体が産生され、さらに甲状腺濾胞のアポトーシス、甲状腺内の線維化などの細胞傷害が進行して甲状腺機能が低下する1, 4

血中に検出される抗甲状腺自己抗体のおもな標的抗原はサイログロブリン (Tg) と甲状腺ペルオキシダーゼ (TPO) であるが、Tg 以外のコロイド成分、Na+/I シンポーター蛋白、甲状腺細胞核およびTSH受容体なども標的抗原となる。
抗 TPO 抗体および抗 Tg 抗体には組織傷害性はなく、健常人にも出現する場合がある。
慢性甲状腺炎は多腺性自己免疫症候群の初発症状となることがある。また、1 型糖尿病、Down 症候群、Turner 症候群、Klinefelter 症候群、Noonan 症候群、Celiac病では慢性甲状腺炎を合併することが多い2, 3

臨床症状と検査所見

びまん性甲状腺腫がおもな臨床所見であり、小児では80 ~ 90 % に認められる。
典型的には甲状腺は弾性硬で、その表面は小葉構造に沿って隆起状に触れる2
甲状腺機能低下症を伴っていなければ甲状腺腫以外の症状はない。
甲状腺腫はリンパ球の浸潤あるいは代償的に増加したTSHの作用による。
頸部の違和感あるいは嚥下困難を訴えることがある。

甲状腺腫以外に受診のきっかけとなる症状は、全身倦怠感、体重増加、寒がり、便秘、月経不順、頭痛などであり、
甲状腺疾患の家族歴や高コレステロール血症が診断のきっかけとなる場合もある5
萎縮性甲状腺炎を呈した場合には著明な甲状腺機能低下症をきたすので、身長増加が停止して粘液水腫様症状が出現する。

小児では 90 ~ 95 % に抗 Tg 抗体、抗 TPO 抗体が陽性となる。
TPO はマイクロゾーム(MC) 酵素であるので抗 MC 抗体とは高い相関がある。
また、抗 TPO 抗体にはペルオキシダーゼ活性を阻害する作用があるが、
抗 TPO 抗体価と甲状腺機能の低下の程度は必ずしも相関しない。

甲状腺超音波検査では、病初期には粗雑なエコー像、進行すると内部エコー低下、不均一を認める。
超音波検査は甲状腺腫大を認めるが、自己抗体が陰性の場合に、甲状腺形成異常を否定する際に有用である。
CT、甲状腺シンチグラフィは、主用途の鑑別を除き不要である5
甲状腺穿刺吸引細胞診は、自己抗体が陰性の慢性甲状腺炎診断する必要がある場合に、成人で行われる。

一部の症例において TSH 受容体に対する自己抗体が認められるが、
それが刺激型抗体の場合には甲状腺機能亢進症状を呈し、
慢性甲状腺炎とBasedow 病が混在するような病態 (hashitoxicosis) を呈する3
一方、TSH 受容体に対する阻害型抗体が存在する場合には、著しい甲状腺機能低下症(萎縮性甲状腺炎)をきたす。
妊娠母体が本抗体をもっていると、胎盤を移行して新生児に一過性甲状腺機能低下症をきたす。
小児では成人とは異なり本抗体の陽性率は低い6

慢性甲状腺炎の病初期に一過性の甲状腺機能亢進症状を呈することがあるが、
これは傷害された甲状腺濾胞からの甲状腺ホルモンの漏出 (血中 FT4 増加、TSH 低下)によるものであり、
慢性甲状腺炎の経過中に産生された TSH 受容体抗体の刺激によって起こる、hashitoxicosis とは区別される3。

鑑別すべき疾患として、単純性甲状腺腫、無痛性甲状腺炎が挙げられる。

鑑別疾患

a.単純性甲状腺腫

ヨード摂取が不足していない地域の思春期年齢の約 5 % に甲状腺腫を認め、大部分は慢性甲状腺炎によるとされている。
わが国の高校生女子の 3.11 % に甲状腺腫を認め、0.47 % に抗甲状腺自己抗体が陽性であったと報告されている7
家族性でリンパ球浸潤を伴わないコロイド甲状腺腫の形態を呈するものもある2


b.無痛性甲状腺炎

病因は不明であるが、一過性に甲状腺中毒症状( FT4、FT3 高値、TSH 抑制)が出現する。
亜急性甲状腺炎のように先行するウイルス感染はないが、Basedow 病の寛解中や出産後に起こることもある。
抗 Tg 抗体、抗 TPO 抗体が陽性(TRAb は多くの場合陰性)となる頻度が高いことから、
自己免疫性甲状腺疾患の一病態として捉えられる。

診 断

治 療

慢性甲状腺炎に伴う潜在性甲状腺機能低下症 〔FT4 正常でTSHが正常上限の 2 倍( 10 μU/mL)未満〕 の場合に、甲状腺ホルモンをすぐに投与することに慎重な意見がある。

その理由は、①甲状腺機能低下が一過性で正常化する可能性のあること、 ②潜在性甲状腺機能低下症は身長増加率低下を引きおこさないので、むしろ甲状腺ホルモンの補充が過剰になることで、多動や集中力低下などの行動異常や学習上の問題を引き起こす可能性が懸念されるからである。
一方、補充すべきという意見は、投与することにより、①顕性甲状腺機能低下症への進展を阻止できること、②甲状腺腫縮小につながること、③血清脂質を改善すること、などをあげている5, 9

FT4 が正常な場合にはTSH の上昇をどのレベルまで許容できるかは成人でも議論されている。
小児の潜在性甲状腺機能低下症に甲状腺ホルモンを投与する際には、過剰投与にならないように注意深く血中ホルモン値をモニターしながら投与する必要がある。

予 後

慢性甲状腺炎の自然経過は、病初期の一過性の機能亢進は別として、機能正常が続く場合と機能低下症に至るものがある。
図に TSH の自然経過を示したが、初回検査で TSH が正常の場合には、5 年経過しても半数以上の症例でTSH は正常である。
また、初回に TSH が正常域を超えていても、経過中に TSH が正常化する例が約30%に存在する。
機能低下症に進展するものは、初診時の甲状腺腫が大きく、抗 Tg 抗体が高値で、経過中に抗 TPO 抗体が増加する傾向にあるとされる8



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group 2: TSH は正常上限の 2 倍に増加
group 1: TSH は増加するが、正常上限の 2 倍未満
group 0: TSH は正常範囲内

図. 慢性甲状腺炎における TSH の自然経過

慢性甲状腺炎 160名(男児 43名、女児 117名、初診時年齢 9.10 ± 3.6 歳)には、Turner 症候群、Down 症候群、1型糖尿病が含まれる。
初診時 group 0(105名)のうち 5年後に 27名で TSH が増加して group 2 に移行(うち 9名が臨床的甲状腺機能低下症と診断)、68名は(64.7%)は変化なしである。
group1(55名)のうち 5年後にさらに TSH の増加が認められたのは 23名(41.8%)であり、32名(58.2%)では変化がないか、正常化していた。(文献8)

参考文献

  1. Pearce EN, et al.: Thyroiditis. N Eng J Med 348: 26462655, 2003.
  2. Fisher DA, et al: Thyroid disorders in childhood and adolescence. In:Sperling MA (ed), Pediatric Endocrinology. 3rd ed, Saunders Elsevier,
    Philadelphia, 227253, 2008
  3. Brown RS, et al: The thyroid and its disorders. In: Brook C, et al: (eds), Clinical Pediatric Endocrinology. 5th ed, Blackwell, Massachusetts, 218253, 2005
  4. 岡本泰之:慢性甲状腺炎(橋本病).別冊日本臨床 新領域別症候群シリーズ No. 1 内分泌症候群(第2 版)Ⅰ、日本臨床社、434437, 2006
  5. de Vries L, et al: Chronic autoimmune thyroiditis in children and adolescents; at presentation and longterm followup. Arch Dis Child 94: 3337, 2009
  6. Matsuura N, et al: Comparison of atrophic and goitrous autoimmune thyroiditis in children: clinical, laboratory and TSH antibody studies. Eur J Pediatr 149: 529533, 1990
  7. 新美仁男、他:高校生における慢性甲状腺炎の疫学的研究.ホルモンと臨床 23: 923925, 1975
  8. Radetti G, et al: The natural history of euthyroid Hashimoto’s thyroiditis in children. J Pediatr 149: 827832, 2006
  9. Moore DC: Natural course of ‘subclinical’ hypothyroidism in childhood and adolescence. Arch Pediatr Adolesc Med 150: 293297, 1996
:バージョン1.0
更新日
:2014年10月1日
文責
:日本小児内分泌学会
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