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甲状腺刺激ホルモン(TSH)分泌低下症(先天性に限る。)

こうじょうせんしげきほるもんぶんぴつていかしょう(せんてんせいにかぎる。)

Thyroid-stimulating hormone (TSH) deficiency

告示番 号29
疾病名甲状腺刺激ホルモン(TSH)分泌低下症(先天性に限る。)
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概念・定義

先天性甲状腺機能低下症(congenital hypothyroidism:以下、CH)は、胎児期または周産期に生じた何らかの病因により、甲状腺ホルモン産生不足または作用不全をきたす疾患の総称である。甲状腺機能低下症の持続期間により永続性先天性甲状腺機能低下症と一過性先天性甲状腺機能低下症に大別され、さらに障害部位が甲状腺自体である原発性(あるいは甲状腺性)甲状腺機能低下症、下垂体や視床下部が障害される中枢性甲状腺機能低下症、甲状腺ホルモン作用不全による末梢性甲状腺機能低下症に区分される。
中性甲状腺機能低下症は、甲状腺刺激ホルモン(TSH)による刺激が低下するため、甲状腺自体は正常であっても、甲状腺ホルモン分泌が低下した状態と定義される。下垂体や視床下部、あるいは両者の解剖学的、機能的障害により生じることから、従来、下垂体に障害があってTSH分泌が低下するために生じる下垂体性甲状腺機能低下症、視床下部障害による甲状腺刺激ホルモン遊離ホルモン(TRH)低下が間接的にTSH分泌低下を来す視床下部性甲状腺機能低下症に区分されていた。しかし、前者ではTRH試験によるTSH分泌が低下し、後者では過大反応を示すという、これまでの考え方では鑑別が困難であり、両者のTSH分泌反応に重なりがあること、またTSHの量的低下だけでなく生物学的活性低下によっても甲状腺ホルモン分泌が低下することなどから、両者を区分せずに中枢性甲状腺機能低下症と呼ばれることが多い。
甲状腺刺激ホルモン(TSH)分泌低下症は中枢性甲状腺機能低下症と同義である。

病因

中枢性甲状腺機能低下症の病因として過半数を占めるのは下垂体腺腫とされており、永続性中枢性先天性甲状腺機能低下症 (permanent central congenital hypothyroidism) の病因としても頭蓋内占拠物 (space-occupying lesions) や血管障害 (Sheehan syndrome, etc.) も示されているが、新生児マススクリーニングで発見された症例の多くは、中枢神経系の奇形や下垂体などの発生に関わる転写因子遺伝子変異による場合と合併症を伴わない特発性とされる症例が大部分を占めている。
また未治療または治療が不十分なバセドウ病母体から生まれた児に、一過性中枢性先天性甲状腺機能低下症が見られることもある。その頻度は不明である。

疫学

中枢性CHの発見頻度については、スクリーニング方法およびカットオフ値により大きく異なっている。FT4測定が主体となった時期以降では、札幌市では 1: 24,385、神奈川県では1: 87,632 と報告されている。中枢性CHの札幌市での頻度はオランダの頻度に近く、神奈川県の頻度は米国での頻度に近い。

臨床症状

重度の甲状腺機能低下症の場合は、原発性甲状腺機能低下症と臨床症状が異なることはないが、一般に甲状腺機能低下症の程度は原発性甲状腺機能低下症より軽度とされている。甲状腺機能低下症単独ではなく、他の下垂体ホルモン障害を伴う場合、障害されるホルモンにより臨床症状は異なるが、とくに成長ホルモン分泌不全and/or副腎不全による低血糖が重要である。 
非特異的症状:黄疸が長引いた(3週以上)、便秘(2日以上でない)、臍ヘルニア、体重増加不良、皮膚乾燥、不活発・傾眠、巨舌、嗄声、手足冷感、浮腫、小泉門開大。
新生児マススクリーニングで発見されずにCHが無治療で経過した場合、乳幼児期にみられる重要な症状は、成長障害及び不可逆性の神経発達障害である。
これら以外の原発性甲状腺機能低下症の主な臨床症状は、成人例と同様以下のものが上げられる:耐寒能の低下、不活発、皮膚乾燥、徐脈、脱毛、発育障害

診断

厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業「間脳下垂体機能障害に関する調査研究班」平成21年度 総括・分担研究報告書(2010年3月)に掲載されている「TSH分泌低下症の診断と治療の手引き(平成21年度改訂)」を参考として診断する。


TSH分泌低下症の診断の手引き

  1. 主症候
    1. 耐寒能の低下
    2. 不活発
    3. 皮膚乾燥
    4. 徐 脈
    5. 脱 毛
    6. 発育障害

  2. 検査所見
    1. 血中TSHは高値ではない(注意1)。
    2. TSH分泌刺激試験(TRH負荷など)に対して、血中TSHは低反応ないし無反応。但し、視床下部性の場合は、TRHの1回または連続投与で正常反応を示すことがある(注意1、2)。
    3. 血中甲状腺ホルモン(free T4、free T3など)の低値(注意3)。
  3. 除外規定
    TSH分泌を低下させる薬剤投与を除く。
  4. 注意点
    1. 中枢性甲状腺機能低下症の約半数では、血中TSHは正常ないし軽度高値を示す。生物活性の乏しいTSHが分泌されている可能性がある。TRH負荷前後の血中freeT3増加率は、原発性甲状腺機能低下症を除外できれば、生物活性の乏しいTSHが分泌されている可能性の鑑別に参考になる。
    2. TRH受容体異常によって、血中TSHの低値と分泌刺激試験での血中TSHの低反応が認められることがある。
    3. 血中free T3が低値、free T4が正常の場合には、low T3 syndromeが疑われる。


    [診断の基準]

    確実例 Iの1項目以上とIIの3項目を満たす。


    1979年以降、日本で生まれた全ての新生児は、日齢4~6に採取された乾燥ろ紙血液(以下、ろ紙血)中のTSHを測定し、後述する基準値に従って、直ちに精密検査を要するか、2回目の採血(再採血)を要するかを判定されている(これが新生児マススクリーニングである)。ここで発見されるのは、原発性CHであり、甲状腺刺激ホルモン(TSH)分泌低下症は対象となっていないが、札幌市や神奈川県といった一部自治体では、ろ紙血中のFT4も同時測定し、その低値を指標として、甲状腺刺激ホルモン(TSH)分泌低下症の早期発見を行っている。
    低T4血症にも関わらず正TSH血症が持続する場合、TBG欠損症を除外後、中枢性甲状腺機能低下症が疑われる。
    オランダの研究グループは、TRH試験(10 ug/kg静注法)により部位診断ではなく、TSH単独欠損か複数のホルモンの欠損であるかの鑑別を提唱している。すなわち低T4―正TSH血症の新生児について、ただちにTRH―CRH試験を行い、甲状腺機能低下症に対し甲状腺ホルモン剤補充療法を行う。生後3か月時にアルギニンーGnRH試験と、TRH試験異常反応者には脳MRIを施行する。TRH試験でTSH無反応(または低反応=15 mIU/L未満)の場合はTSH単独欠損症、過剰遷延反応の場合は複合ホルモン分泌不全が疑われる。

治療

複合ホルモン分泌不全とくにACTH分泌不全による副腎不全がある場合は、少なくとも1週間以上糖質ステロイド補充行った後で、甲状腺ホルモン剤補充療法を開始する。
従来は原発性甲状腺機能低下症より低用量で十分と考えられてきたが、原発性甲状腺機能低下症と同様に治療の指標として、FT4を基準範囲の上半分に保つように補充量を決めることが推奨される。個々の症例で投与量は調整されるが、小児の場合4.0μg/kg/日程度を目安に投与する。
CHの治療はレボチロキシンナトリウム(L-T4、商品名:チラーヂンS錠、レボチロキシンNa錠、チラーヂンS散)の内服により行われる。半減期の短いリオチロニンナトリウム(T3)やT3とT4を含み力価の一定しない乾燥甲状腺(商品名がチラーヂン末であり紛らわしい)は用いない。未だ乾燥甲状腺が使われている事例も報告されており、注意が必要である。 L-T4は投与量の約 70%が主に空腸で吸収され、血中の半減期は約1週間とされており、1日1回朝食30分前服用が成人での標準的用法である。小児でもこれに準じて1日1回服用させる。

予後

複合ホルモン欠損症、とくにGH欠損症を合併する場合、T4からT3への変換が障害されることがあり、FT4レベルを高めに保つことが推奨されている。
原発性甲状腺機能低下症と異なり、TSH値の低いレベルでネガティブフィードバックが働くため、TSH値が正常範囲を下回っても甲状腺ホルモン剤の過剰投与の指標とはならない。末梢での代謝の指標としては、血清コレステロール、CPK、可溶性Il-2受容体、性ホルモン結合グロブリン、アンジオテンシン変換酵素、cross-linked carboxyterminal telopeptide of type I collagen、オステオカルシンなどが参考となるが、小児においては成長、精神運動発達が年齢相当であることを第一の目標とする。

参考文献

  1. 原田正平:II.各論、第1章 新生児内分泌学、D.新生児マススクリーニング、2.先天性甲状腺機能低下症.小児内分泌学(診断と治療社、東京)p.160-163、2009
  2. 原田正平:II.各論、第8章 C.先天性甲状腺機能低下症.小児内分泌学(診断と治療社、東京)p.394-400、2009
:バージョン1.0
更新日
:2014年10月1日
文責
:日本小児内分泌学会
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