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バセドウ(Basedow)病

ばせどうびょう

Basedow disease; Graves' disease

告示番 号24
疾病名バセドウ病
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概念・定義 Introduction

甲状腺での甲状腺ホルモンの合成と分泌が亢進した状態が甲状腺機能亢進症である。自己免疫機序により甲状腺がびまん性に腫大し甲状腺機能亢進症を呈する疾患をバセドウ病と称する。バセドウはこの病気を研究報告したドイツ人医師の名で、英語圏ではもう一人の研究者であるイギリス人医師の名からGraves’diseaseと称する。

病因 Pathogenesis

自己免疫機序により産生される甲状腺刺激ホルモン (TSH) の受容体に対する抗体 (TRAb) が原因となる。受容体は甲状腺細胞膜にあり、測定方法の違いにより TSH結合阻害型免疫グロブリン (TBII) と甲状腺刺激抗体 (TSAb) がある。抗体が受容体に結合すると甲状腺ホルモンが過剰に産生され、甲状腺機能亢進状態となる。本症の眼症状の一つである眼球突出症は、眼窩組織の線維芽細胞に正常では発現されないTSH受容体が発現することが一因と考えられている。

疫学 Epidemiology

20歳台の女性に多く小児期に発症する症例はバセドウ病全体の 5%以下に過ぎないが、小児における甲状腺機能亢進症の大部分を占める。発症年齢に関しては、4歳程度から発症が認められ中学生から頻度が増加する。女児が全体の 80%以上を占め男女比は成人と変わらない。

症状 Clinical manifestations

  • 家族歴 Family history
  • 家族歴に甲状腺疾患を有することが多く、約4割程度の症例に認められる。

  • 臨床症状 Physical findings
  • 甲状腺ホルモンの作用は全身の細胞での代謝の促進であり、結果として様々な症状が出現する。甲状腺ホルモンの過剰な状態が持続すると高身長でやせの傾向となり、頻脈や収縮期血圧の上昇が認められる。小児期発症例の症状としては、甲状腺腫、多汗、易疲労感、落ち着きがない、手のふるえ、眼球突出、食欲亢進、頻脈、動悸、学業成績の低下、運動能力の低下、暑がり、排便回数の増加、微熱などの頻度が高い。甲状腺腫の頻度が一番高いが、肥満例で甲状腺腫を見逃したり皮下脂肪を甲状腺腫と間違えたりすることがあるので注意する。患児の得意なもの、即ち勉学の得意な子は成績の低下を、運動の得意な子は運動がうまく出来ないことを最初に訴えることを時に経験する。

  • 検査 Laboratory findings
  • 血中遊離サイロキシンthyroxine(T4)、遊離トリヨードサイロニンtriiodothyronine(T3)、TSHの測定、TBIIやTSAbなどの甲状腺自己抗体の測定、一般血液検査、甲状腺超音波検査、甲状腺ヨード摂取率やシンチグラム検査などを行う。一般検査では低コレステロール血症が特徴で、甲状腺疾患を疑わずに実施した検査でのコレステロール低値により本疾患が疑われることもある。超音波検査は操作が比較的簡便で侵襲もなく、甲状腺のびまん性の腫大や結節性病変の有無を確認できるので有用である。カラードップラー法は甲状腺内の血流増加を確認できる。放射性物質を使用する検査は実施可能な施設が限られるが、微量ではあるが放射性物質を使用するため十分な説明と同意が必要となる。

診断 Diagnosis

治療 Treatment

バセドウ病の治療には、抗甲状腺薬による内服治療、甲状腺亜全摘による外科治療、放射線ヨード内服による放射線治療があるが、小児の場合薬物療法が第一選択となる。小児バセドウ病の治療ガイドラインに沿って治療を進める。

抗甲状腺薬にはチアマゾールとプロピルチオウラシルがあるが、チアマゾールが第一選択薬となる。理由は、服薬コンプライアンスがよい、初期治療における甲状腺機能正常化が速やかである、プロピルチオウラシルは重症肝障害や抗好中球細胞質抗体(ANCA) 関連腎炎および血管炎の報告が多い、などである。初期治療量は 0.5~1.0mg/kg/日 とされるが、最近は少なめの量で開始することが推奨されている。治療開始直後は2 週毎に副作用をチェックし、甲状腺機能が安定してきたら維持量にまで減量する。プロピルチオウラシルによる重症肝障害は小児で多いので出来るだけ使用は避けたいが、やむをえない場合は十分な説明と同意が必要である。軽度の副作用出現時は交差反応性があるのでしばらく治療を継続するが、軽快しない場合は薬剤を変更す
る。重篤な副作用出現時には直ちに治療を中止しヨード剤を使用するが、ヨード剤でエスケープした場合には手術や放射線治療を考慮する。

甲状腺機能は通常2~3ヶ月で安定し、維持量はチアマゾール隔日5mgから10mg/日程度となる。以後3~4ヶ月に一度の検査で機能正常を確認する。なお、経過中の甲状腺機能安定化を目的として甲状腺剤を併用することもある。維持療法中におこる副作用としては、特にプロピルチオウラシル使用時に多いANCA関連血管炎が重要であり、出現時には直ちに使用を中止する。抗甲状腺薬を最低でも1.5~2年継続し、維持量で甲状腺機能が正常であれば治療中止を考慮する。TRAbが陰性化した場合は寛解している可能性が高くなるが、正確な予後の予測はできない。また、抗甲状腺薬隔日1錠で6ヵ月以上TSH値を含めて甲状腺機能が正常に保たれていれば中止を検討してもよい。再発の危険性は、低年齢である、甲状腺腫が大きい、血清T3/T4値が高い、治療前の機能亢進が強い、抗TSH受容体抗体の治療による低下が少ない、などがあると高いと言われている。中学生や高校生で受験を控えている場合などは、甲状腺機能が安定していても学生生活を考慮して治療を継続しておくことがしばしば行われる。

予後 Prognosis

薬物治療に反応しない症例、副作用で薬物治療ができない症例、長期薬物治療で寛解に入らない症例、早期の寛解を望む症例などが外科治療や放射線治療の適応となるが、服薬コンプライアンスが悪いなど患者自体の問題によることが多い。手術による再発や合併症の頻度は成人より小児のほうが高いので、手術は熟練した甲状腺専門医によってなされるべきである。外科治療を拒否する場合は放射線治療を考慮せざるを得ないが、実施する場合は十分な説明と同意が必要となる。

抗甲状腺剤治療による寛解率は成人より低く、約2年間の治療での寛解率は30%以下の報告が多かった。しかし、最近10年程度の長期継続投与によりほぼ半数の症例が寛解に至ると報告されている。小児例は成人例に比して治療に抵抗することがしばしば経験されるため MMIを比較的長期に継続することが望ましい。寛解後時間が経過しても再発の可能性は常にあり、寛解中も定期的な管理が必要である。

参考文献 References

  1. 佐藤浩一、他: 小児期発症バセドウ病薬物治療のガイドライン2008.日本小児科学会雑誌 112:946-952,2008
  2. 佐藤浩一: 甲状腺中毒症.小児内分泌学.日本小児内分泌学会編、診断と治療社. pp.407-412,2009
  3. Bahn RS,et al.:Hyperthyroidism and other causes of thyrotoxicosis : Management guideline of the American Thyroid Association and American Association of Clinical Endocrinologists. Thyroid21 :593-646,2011
  4. Ohye H ,et al.: Antithyroid drug therapy for Graves’ disease in children: a long-term retrospective study at a single institution. Thyroid 2013, ahead of print.
:バージョン1.0
更新日
:2014年10月1日
文責
:日本小児内分泌学会
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