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左肺動脈右肺動脈起始症

ひだりはいどうみゃくみぎはいどうみゃくきししょう

Vascular sling

告示番 号17
疾病名左肺動脈右肺動脈起始症
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概念・定義

左肺動脈が右肺動脈から起始し、右気管支と気管分岐部直上を迂回し、気管の後方、および食道の前方を通り左肺に至る。この異常走行により右気管支と気管下部および食道が圧迫される。圧迫の程度により出生直後から重篤な呼吸器症状を惹起しうる疾患である。早期に外科治療が必要である。重篤な気管支狭窄合併の予後は悪い。

病因

左第6大動脈弓は正常に形成さるが、左原始肺動脈が閉塞し、左肺動脈と右原始肺動脈間に側副血行路を生じ、vascular slingが形成されるとされている。この左肺動脈により右気管支と気管下部が圧迫され、狭窄を起こす

疫学

稀な疾患である。約50%の患者に心房中隔欠損症、心室中隔欠損症、動脈管開存症、左上大静脈残遺、Fallot四徴症、完全大血管転移症などの先天性心疾患を合併する。さらに、約50%に右上葉気管支分枝異常、分葉異常、右肺低形成などの気管支・肺の異常を合併する

臨床症状

約90%の症例で出生直後から吸気性喘鳴、呼吸困難などの気管・気管支狭窄の症状が出現する。気管・気管支狭窄が重篤であれば窒息、呼吸促迫、チアノーゼなどの症状が出現し、意識消失や突然死の原因にもなる。呼吸困難は気道感染や体位の変換等により発作性に出現することもある。食道圧迫に伴う嚥下障害などの消化器症状も出現する場合があるが比較的軽微である

診断

心聴診所見では合併心奇形由来の心音の異常および心雑音を聴取、合併心奇形がない限り心音は正常で意義ある心雑音を聴取しない。胸部聴診にて吸気時にwheezesを聴取することがある。呼吸困難を伴う症例では呼気・吸気両相にwheezesを聴取する。
画像診断が有用である。MD-CT(multi detector-row CT)、MRI、肺動脈造影査にて左肺動脈の起始異常、走行異常の形態診断、ならびに気管・食道との解剖学的位置関係の評価や、気管・気管支に対する圧迫の診断が可能である。肺動脈造影の際には頭側に角度をつけた正面像にて右肺動脈から分岐する左肺動脈が描出される。心エコー・ドプラ検査では主肺動脈から右肺動脈につながり、正常の位置に左肺動脈が描出されず、右肺動脈をスキャンしていくと右肺動脈から左肺動脈が分岐する像が描出される。さらに、心内奇形を合併している場合にはその診断が可能である。
胸部エックス線正面像で気管下部は左側に偏位する。気管・気管支の狭窄像が認められる場合がある。右気管支を圧迫する症例が多く、check valveとなり右肺は肺気腫のため過膨張像を呈する。さらに病変が進行し閉塞すればstop valveとなり無気肺像を呈する。
他に心奇形を合併しなければ心電図にはほとんどの場合、異常所見を認めない。
呼吸器症状が重篤の場合には気管支鏡検査を行い、左肺動脈からの圧迫の部位および気管・気管支の狭窄の程度を評価する

治療

早期に外科治療が必要である。左肺動脈を右肺動脈からの起始部で切断し、気管・気管支の前面に移動させて、主肺動脈に吻合する手術を行う。なお、まれに気管・気管支への圧迫症状が軽度の場合には経過観察し、成長後に圧迫解除術を施行する場合もある。左肺動脈再建術後も呼吸器症状が改善しない場合には気管・気管支の再建術やステントを留置して狭窄部位の拡大術を行う場合もある。ただし、効果については意見の分かれるところである

予後

外科的治療により気管・気管支圧迫症状が消失するような症例の予後は良好である。外科的治療後も気管・気管支圧迫症状が持続することがある。重篤な心奇形および気管支・肺合併症の症例の予後は悪い。呼吸器症状が極めて重篤な場合には呼吸器感染などの合併により死に至る場合もある

:バージョン1.0
更新日
:2014年10月1日
文責
:日本小児循環器学会
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