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ウィリアムズ(Williams)症候群

うぃりあむずしょうこうぐん

Williams syndrome

告示番 号58
疾病名ウィリアムズ症候群
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概念・定義

 特徴的な妖精様顔貌、精神発達遅滞、特異な性格、大動脈弁上狭窄および末梢性肺動脈狭窄を主徴とする心血管病変、乳児期の高カルシウム血症などを有する隣接遺伝子症候群。症状の進行を認める疾患であり,加齢によりとくに精神神経面の問題,高血圧が顕著になる.これらの症状に対し,生涯的に医療的,社会的介入が必要。

病因

 染色体7q11.23微細欠失が病因。エラスチン(ELN)など以下に挙げる遺伝子を含めて、7q11.23領域(20余の遺伝子が座位する)の複数の遺伝子の欠失(ヘテロ接合)により発症する隣接遺伝子症候群と考えられる。微細欠失は、FISH法によりELN遺伝子を含むプローブで検出できる。
ⅰ)ELN 遺伝子
 半接合体欠失のため ELN 蛋白発現量の低下があると思われる.ELN 機能欠損マウスでは,全身の動脈中膜平滑筋層の肥厚による内腔狭窄が認められる.家族性大動脈弁上部狭窄症(SVAS)家系において,ELN 遺伝子の変異が検出されている.以上より,ELN 遺伝子は,本症候群における SVAS,末梢性肺動脈狭窄症(PPS)の疾患遺伝子と考えられる.
ⅱ)LIMK1 遺伝子
 脳に発現が認められ,アクチンフィラメントの重合,脱重合に不可欠なコフィリンをリン酸化し,アクチンフィラメントの動的変化は軸索誘導に関与する可能性があることより,LIMK1 遺伝子の欠失が本症候群の視空間認知障害と関連していると考えられる.
ⅲ)HPC-1/Syntaxin1A 遺伝子(STX1A)
 神経細胞において神経発芽と伝達物質の開口放出に関わる神経可塑性制御因子と考えられ,神経や内分泌細胞において,ホルモンなどの伝達物質の分泌を促進する作用があると推測される.また,神経終末のシナプス小胞の前シナプス膜への融合を誘導する複合体をほかの数種類の蛋白とともに構成する形質膜結合蛋白質であり,特異的空間認知障害の疾患候補遺伝子と考えられる.最近,カルシウムチャネル,クロライドチャネルとの関わりも報告されており,本症候群の患者の特徴的な症状である特異的空間認知障害,優れた記憶力,豊かな音楽感性や高血圧の発生機序にイオンチャネルが関わっている可能性も高い.

疫学

 発生頻度は20000 人に 1 人.男女差なし.孤発例が多い.どちらかの親に染色体微細欠失がある場合,再発率は 50 %(常染色体優性遺伝)であるが、妊孕性が通常より低いと考えられる。母親由来の遺伝子欠失の場合に強い成長障害,小頭症を認める報告があり,成長を規定する因子にゲノム刷り込み現象の関与が考えられる.

臨床症状

 子宮内発育遅延を伴う成長障害、精神発達遅滞(認知能より表出能に長け、特に視覚性認知障害あり、多動・行動異常あり)、妖精様顔貌:elfin face(太い内側眉毛、眼間狭小、内眼角贅皮、腫れぼったい眼瞼、星状虹彩、鞍鼻、上向き鼻孔、長い人中、下口唇が垂れ下がった厚い口唇、開いた口など)、特異な性格(社交的でおしゃべり、お人好し、出しゃばり)、外反母趾、爪低形成、歯牙低形成・欠損、低い声を認める。先天性心疾患(大動脈弁上狭窄、末梢性肺動脈狭窄など)、乳児期高カルシウム血症、腎動脈狭窄、冠動脈狭窄、泌尿器疾患(石灰化腎、尿路結石、低形成腎、膀胱憩室、膀胱尿管逆流など)を合併する。成人期は、社会的自立が困難で、高血圧、関節可動制限、尿路感染症、消化器疾患(肥満、便秘、憩室症、胆石など)が問題となる。突然死や麻酔関連死が報告されている

診断

 特徴的な妖精様顔貌と上記臨床所見のいくつかを組み合わせて有する、またはFISH法で7q11.23微細欠失が証明されれば、確定診断である。
 下記のような検査所見が認められる。
【胸部エックス線】左4弓の突出
【心電図】左室肥大
【心エコー図】大動脈弁上に狭窄所見を認める。
【心臓カテーテル・造影所見】大動脈弁上に造影上狭窄所見を認め、圧差を認める。合併心血管疾患による所見を認める

治療・管理

 乳児期には,嘔吐,便秘,哺乳不良,コリックによる体重増加不良を認め,筋緊張低下,物音に過敏で育てにくい場合が多い.高カルシウム血症を認めることがあり,通常は幼児期までに改善するが,Vit.D 代謝異常が残ることが多い.中耳炎を繰り返す.約 50 % に鼠径ヘルニアを認め,手術を必要とする.
 幼児期には,厚い唇,長い人中,大きな口,鼻根部平坦,腫れぼったい上まぶた,頬が丸い特徴的「妖精様」顔貌,過剰に陽気で多弁な「カクテルパーティー様」性格,嗄声に加え精神発達遅滞が顕著となる.1 人歩きは平均で 21 ヵ月,発語が 21.6 ヵ月と遅れを認める.SVAS(64 %),PPS(24 %),VSD(12 %)などの心疾患の評価はほとんど幼児期におこなわれ,18 % で手術が必要.SVAS は進行性であるが,PPS は改善することが多い.
 学童期には,ほとんどの患児が学業において問題を抱え,IQ は平均 56 である.視空間認知障害,特異的認識パターンを認める.注意欠陥障害を 84 % で認める.一方,言語発達,記憶力は良好.豊かな音楽感性をもつ.微細運動を必要とする活動が苦手.共動性斜視や遠視等視覚障害および音への過敏性なども目立つ.不正咬合,エナメル形成不全等がみられる.夜尿,便秘が多い.頻尿もすべての年齢層で認められる.関節可動制限が進行し,つま先歩行,脊椎前彎がみられる.
 成人期には,顔貌は幼児期の丸い顔から細長い輪郭,長い頸へと変化.平均 IQ58.5 で,重症から境界例までの精神発達遅滞を認める.大部分は精神発達の問題により社会適応できない.先天性心疾患に加え高血圧(22 歳以上の 60 %)が認められる.脳血管障害発作にも注意が必要.慢性便秘,胆石,結腸憩室などの消化器症状や肥満がみられ,尿路感染症を繰り返す.進行性関節可動制限(90 %),脊椎前彎,側彎が認められる.身長は,乳児から幼児期は低いがキャッチアップし,平均の最終身長は-2SD 程度となる.骨年齢は標準的.
 全年齢を通じてビタミン D を含む総合ビタミン剤の投与には注意が必要である.また,麻酔中の突然死の報告があり,心臓カテーテル検査や外科手術に際しては、注意を要する.乳児期から聴覚,視覚の試験を随時行い,言語療法等のサポートを行う.不明熱の際には尿路感染症の可能性が常にある.

予後

本症候群は年齢を通じて症状の進行を認める疾患であり,加齢によりとくに精神神経面の問題,高血圧が顕著になる.これらの症状に対し,生涯にわたって医療的,社会的介入が必要

:バージョン1.0
更新日
:2014年10月1日
文責
:日本小児循環器学会
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