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完全大血管転位症

かんぜんだいけっかんてんいしょう

Complete transposition of the great arteries; complete tga

告示番 号8
疾病名完全大血管転位症
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概要

右心房と右室、左心房と左室が正常につながり、右室から大動脈が、左室から肺動脈が起始している先天性心疾患。心室中隔欠損のないI型、心室中隔欠損を合併するII型、心室中隔欠損+肺動脈狭窄合併のIII型、心室中隔欠損のない肺動脈弁ないし弁下狭窄合併のIV型に分類する。体血流は酸素飽和度が低く心室中隔欠損がない型では特にチアノーゼが目立つ。心房間交通や動脈管開存が生存に必要である。冠状動脈の走行にも多くの型があり、手術時には重要な所見となる。治療介入なしでは1ヶ月で50%が、6ヶ月で85%が死亡する。自然歴ではI型が最も予後不良で1ヶ月で低酸素のため80%が死亡する。II型では1ヶ月で10%死亡し、III型の自然歴が最もよい。I型、II型で大血管スイッチ術の遠隔期の予後は比較的よいが、肺動脈狭窄、大動脈弁閉鎖不全、冠動脈狭窄などを合併することがある。

疫学

本邦の先天性心疾患の剖検例の8%を占める。新生児期早期のチアノーゼ疾患の中では最も多い。本症の割合はI型:43%、II型:41%、III型:15%である

発生と病理

●発生
正常では螺旋状に発生する円錐動脈幹中隔が直線的に発生したと考えられる。両大血管下円錐の発達吸収異常,円錐動脈幹内隆起の発生位置の異常,円錐部隆起の低形成による回転異常などの説がある。
●分類
心室中隔欠損のない I 型,心室中隔欠損合併の II型,心室中隔欠損十肺動脈狭窄 合併のIII型,肺動脈弁ないし弁下狭窄合併の IV型がある。動脈管はどの型にも 合併 しう る。 I 型,IV型では心房間交通が生命維持に必須である 。
●形態
大動脈が右室,肺動脈が左室から起始する。内臓正位では,大動脈は右前方に位置し,弁下は漏斗部心筋があり 大動脈弁と 三尖弁を分ける 。肺動脈は左後方で弁下 に心筋はなく ,肺動脈弁と 僧帽弁は線維性につながる 。Van Praaghの記述法(区分 分析法,segmental approach)に習えば 内臓正位では,心房位はS(situs solitus) , 心室関係はD(d-loop),大血管関係はD(d-ma!pnsition ) で,SDD となる。d-TGA と呼ばれる由縁である 。
心室中隔欠損は通常の膜性部欠損型と,円錐部中関偏位による洞部中隔とのずれの間隙が欠損孔となる ( malalignment) 型がある 。後者で,前方に偏位すると大動脈 弁下狭窄ないし 狭小化を起こし,大動脈紛窄または離断を合併する 。後方偏位によ る弁下狭窄がある と III型と なる。 I 型では左右心室圧関係で中隔が左室側に偏位して肺動脈弁下に突出し ,機能的狭窄(dynanic stenosis) となる例がある。
冠動脈走行には多くの型があり,Shaherの分類が用いられている

病態生理

体静脈帰来血が右室・ 大動脈へと駆出され,肺循環還流血( 酸素化血) は左房左室 から肺循環へ戻る 。生存には心内での左右方向短絡が必須である 。
I型は,心房間で両方向性短絡で,右房左房方向が有効肺血流,逆が有効体血流 となる。短絡量は,交通孔が解剖学的に大きいほど,肺血流が多いほど,多い。
生後,肺動脈圧低下につれて左室圧も 低下し,生後2週以降左室心筋重量も 正常以下 になる。このことは 1期的 Jatene 手術の適応を決める際に重要な因 子と なる。
II型では,心室中隔欠損を通 して右左短絡があり ,肺血流量が増加し,その増加 量につれて左房還流増加から心房位左右短絡が増え,I型より 動脈血酸素飽和度は 高く なる。肺高血圧があり ,左室圧は右室・大動脈圧と同 じである。I型で太い動 脈管がある と,そこ での左右短絡から 肺血流量が増え同様の病態と なる。
III型では,肺動脈狭窄のため左室からの血流は一部が直接大動脈へ駆出され,その分肺血流量は減る 。狭窄が軽いと 肺血流量が増加し,II型と の中間型と なるIV型は,心内血流は I 型と同じで左室肺動脈問に圧較差があり,左室圧が上昇する

臨床所見

●症状と兆候
この疾患は約 2: 1で男性に多い。I 型,IV型は生直後からチアノ ゼが強い。 II型はチアノーゼは軽いが,多呼吸,晴乳困難,乏尿などの心不全症状が強い。III 型は肺動脈狭窄が適度であれば一番安定である 。
聴診上,II音の単一亢進,心不全例ではgallop調と なる。I 型は原則と して無雑音, II型はgallopで比較的弱い収縮期雑音,III型,IV型でははっ き り した駆出性収縮期 雑音がある。
●胸部エックス線所見
心陰影は,両大血管が前後である こと と胸線が縮小していることから,心基部は 細く ,右房右室および左室が拡大して,いわゆる卵型を呈する 。肺血管陰影は肺静 脈うっ血を伴って増加する 。 II型では心拡大と 肺血管除影増強がいっそう 強い。新 生児期遷延性肺高血圧合併例では肺野は明るい。III型は非特異的で肺血管陰 影は減少する 。
●心電図所見
右軸偏位,右室肥大となる。 出生直後は正常所見のことが多い。 II型では左室肥大が加わる。左軸順位があれば流入部に伸展した大きな心室中隔欠損の存在 が疑わしい。
●心エコー所見
心エコーにより診断する。大血管短軸断面で,大血管は右前左後関係で,後方の血管が左右に分校し 肺動脈 であることを示す。長軸断面で,並行する大血管のうち前方が大動脈弓へつながる。
I 型では心室中隔欠損がなく ,生後数 日で心室中隔が左室側に凸になる 。 II型で は心室中隔欠損を認め,肺動脈は太い 。 円錐部中隔前方偏位があれば大動脈縮窄や離断との合併を疑う。III型では円錐中隔が後方偏位して弁下狭窄をつくる例も 多く、 肺動脈は細い 。
●心臓カテーテル検査
右室圧が体血圧と等しく、大動脈酸素飽和度は低く、その程度は心房間交通量に依存する。
I型では 左室圧は生後数 日間は大動脈と 同じで以後低下する,dynamic stenosis のため,左室流出路で圧較差を認 める こ とがある。II型では,肺血流は増加 し,左室圧・肺動脈圧が右室圧・ 体血圧と 等し い。Ill型では ,右室圧・左室圧が体 血圧と 等しく肺動脈弁ないし弁下で圧較差がある。酸素飽和度は大動脈で低いが,その程度は肺血流量,言い換えれば肺動脈狭窄の程度による。心血管造影は各病型に応じた形態を示す

治療

【内科的治療】
I型、II型では手術までの間の状態を安定化させるため、プロスタグランジンE1により動脈管を開存させる。プロスタグランジンE1により肺血流を増やし、心房間交通を増すとともに、左室圧が下がらないようにする。心不全には利尿薬やPDEIII阻害薬などを使用する。また、心房中隔裂開術BAS(baloon atrioseptostomy)は卵円孔が狭く、低酸素血症が著しい場合に実施する。
【外科治療】
術式は I型、II型では冠動脈の移植を含む大血管スイッチ術(Jatene手術)を実施する。III型では幼児期にRastelli手術が選択される

予後

治療介入なしでは1ヶ月で50%が、6ヶ月で85%が死亡する。自然歴ではI型が最も予後不良で1ヶ月で低酸素のため80%が死亡する。II型では1ヶ月で10%死亡し、III型の自然歴が最もよい。予後決定因子は低酸素 血症と心不全で,それは肺血流量と心房間交通による 。III型で肺動脈狭窄が適度な 例では成人に達することがある。 I型、II型で大血管スイッチ術の遠隔期の予後は比較的よいが、肺動脈狭窄、大動脈弁閉鎖不全、冠動脈狭窄などを合併することがある。
■外科治療
I型,II 型で肺動脈弁に問題 がなければ,原則的に新生児期に Jatene手術を行う。II型の肺高血圧は進行が早いので早期の手術とする 。 左室圧が下降し たI型では,肺動脈バンデング術と 大動脈肺動脈短絡手術を行い ,左室のトレーニングができたとこ ろでJatene手術とする。II型で大動脈縮窄 ・離断の合併,房室弁異常の合併では,ひとまず肺動脈絞拒術を行い, 成長後再評価し て心内修復術の方法を決める。III型は幼児ないし小児期に Rastelli
手術とするが,それ以前にチアノーゼが強いか肺動脈が細ければ,まず大動脈肺動脈短絡手術を行 う。 肺動脈弁や僧帽弁の奇形のため左室が高圧の体循環側に使えない場合には,心房内血流転換術( Senning手術,Mustard手術)を行う。
■術後の問題点と対応
心房内血流転換術後は,体循環側が右室であることから,心房性不整脈、三尖弁閉鎖不全,右室機能不全などが問題となる。Jatene手術後は心機能は良好で不整脈も少ないが、肺動脈狭窄,大動脈弁逆流,冠動脈閉塞など が起こることがある。有意な大動脈弁逆流は3%に起こる。左室容量負荷があれば血管拡張薬投与、進行すれば人口弁置換手術となる。心筋梗塞で死亡する例はき わめて ま れであるが,左冠動脈は術後も細いままで,長期的には問題になる可能性がある。
Rastelli手術後は, 導管の狭窄 ,それに関連し て心機能低下, 不整脈などが問 題となることがある。導管狭窄を解除する再手術が必要となることがある

:バージョン1.0
更新日
:2014年10月1日
文責
:日本小児循環器学会
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