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肥大型心筋症

ひだいがたしんきんしょう

Hypertrophic cardiomyopathy

告示番 号87
疾病名肥大型心筋症
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概念・定義

 明らかな心肥大をきたす原因無く心室壁の肥厚を来す疾患。心室中隔の非対称性肥厚を示す。左室の拡張はなく、左室収縮は正常か亢進している。組織上は心筋細胞の錯綜配列をともなう肥大を示す。左室流出路の筋肉が肥厚すれば、肥大型閉塞性心筋症の型となる。しばしば家族性を呈し、筋原線維や細胞骨格蛋白の遺伝子異常を認めることがある。突然死、左室拡張障害による心不全症状、不整脈、拡張型心筋症への移行によるうっ血性心不全症状などを呈する。治療困難で予後不良の疾患である。

病因

 しばしば家族性を呈する。本症の約半数に家族内発症を認める。 このような家系の遺伝形式は常染色体優性遺伝である。本症の大部分は筋原線維や細胞骨格蛋白の遺伝子異常に起因すると推測されるが、遺伝子異常が証明されるものは約50%である。ミオシン重鎖、ミオシン軽鎖、トロポミオシン、トロポニン、ミオシン結合蛋白C、アクチンなどサルコメアを形成するタンパクの遺伝子異常を認めることがある。
遺伝子異常が判明しない場合には、原因は不明といわざるをえない。サルコメアタンパクの異常により、細胞内Caへの感受性が増加し、収縮能の亢進と拡張障害をきたす。心筋錯綜配列の機序は未だ不明である

疫学

 有病率は、人口10万人あたり17人から1100人までのばらつきがある。人口10万人あたり200人、500人に1人の有病率が妥当な数字であろう。年齢は多岐にわたるが、小児で発見される割合は比較的少ない

臨床症状

 自覚症状は . 胸痛、労作時息切れ、易疲労、呼吸困難などの心不全症状、失神など多彩である。一法、無症状の患者も多く、検診などで発見されることが多い。 突然死や心停止ニアミスが初発症状のこともある

診断

[理学的所見]
IV音、収縮期駆出性雑音を聴取することがある。僧帽弁閉鎖不全があれば、汎収縮期雑音を聴取する。
[胸部エックス線所見]
胸部エックス線で軽度心拡大を認める。本症に特徴的な所見は無い。
[心電図所見]
しばしば診断のきっかけになる。高度の左室肥大を認めることがある。異常Q波、陰性T波を認める。心尖部肥大型心筋症では左側胸部誘導巨大陰性T波を認めることがある。
[心エコー所見]
心室壁の肥厚、特に心室中隔の肥厚が著明である。心室中隔の厚さ/後壁厚の比が1.3以上を非対称性肥大と呼び、本症の典型的な所見のひとつである。左室の拡張障害の所見を認める。左室流出路狭窄があれば、流速の亢進を認める。僧帽弁閉鎖不全を認めることがある。年少児では右室流出路狭窄を認めることもある。
[MRI所見]
心室壁の肥厚、特に心室中隔の肥厚が著明である。
[心臓カテーテル、心筋生検]
左室、心室中隔の肥厚を認め、左室の拡大はなく、心室収縮能は正常ないし亢進している。左室拡張末期圧の上昇を認める。左室内に狭窄があれば、引き抜き圧で、左室内に圧差を認める。心筋生検では、心筋の錯綜配列、心筋細胞肥大を認める。
心エコー、心臓カテーテル、心筋生検で確定診断する

治療

1. 日常生活の管理
無症状ならDの管理区分。有症状ならCの管理区分。原則として強い運動は禁止、学校の運動部は禁止。
2. 薬物治療
無症状の者への薬物治療の適応は、明らかでない。有症状例にはβ遮断薬かCa拮抗薬(ベラパミル、ジルチアゼム)を投与する。閉塞型にはジソピラミド、ジベンゾリンを投与する。
 心室性頻拍症に対しては、アミオダロン内服や植え込み型除細動器(ICD)が適応となる。心停止蘇生例に対しては、ICD植え込みが適応となる。
3. 手術
肥大型閉塞型で、左室内圧差が50mmHg以上ある場合には、心筋切除術の適応となる。手術は、施設の経験や施設の治療方針によって決定する。
4. 経皮的中隔心筋焼却術
NYHA III度以上の有症状、薬物抵抗性、肥大型閉塞型で左室内圧差が30mmHg以上の例には適応がある。小児18歳未満では適応はない。
5. デバイス治療
1) ペースメーカ:肥大型閉塞型で他のペースメーカ適応の理由がある場合には適応となる。他のペースメーカ適応の理由がなくても、肥大型閉塞型で、他の治療が有効でないときは、ペースメーカを考慮する。
2) ICD:過去に持続性心室頻拍、心室細動、心停止の既往を有する場合に適応となる。非持続性心室頻拍、突然死の家族歴、失神、左室壁厚30mm以上などハイリスク患者では適応を考慮する

予後

 難治性の予後不良の疾患である。特に乳児期発症例は予後は不良である。10年生存率は小児の方が成人よりやや悪い。10年生存率は小児で80%、成人で50%、の報告もある。死因は突然死が多い。小児では心不全死も多い

:バージョン1.0
更新日
:2014年10月1日
文責
:日本小児循環器学会
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