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線毛機能不全症候群(カルタゲナー(Kartagener)症候群を含む。)

せんもうきのうふぜんしょうこうぐん (かるたげなーしょうこうぐんをふくむ。)

primary ciliary dyskinesia (including Kartagener syndrome)

告示番 号10
疾病名線毛機能不全症候群(カルタゲナー症候群を含む。)
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概念・定義

気道上皮細胞の表面には多数の線毛が存在し、線毛が連動して口側に向かって鞭を打つように運動することで、粘液層の流れが生じ、微粒子状の異物、細菌、喀痰などを排除して気道内を清浄に保つようになっている。この線毛が正常な構造と機能を発揮するためには、多数の遺伝子が関与していることが判明している。先天的な異常によって線毛運動が障害され、中耳、耳管、鼻、副鼻腔、咽頭を含めた呼吸器系の易感染性を呈する疾患を線毛機能不全症候群という。慢性副鼻腔炎や気管支拡張症を高頻度に合併する。かつては線毛不動症候群と呼ばれたが、運動が弱いものや協調運動が不揃いなものなども一連の疾患と考えられ、現在の呼称に落ち着いた。なお、本症では胎児期に左右が適正に判別されず、約半数で完全内臓逆位を生じる。これをKartagener症候群と呼ぶが、内臓逆位の有無と重症度には関係がなく、本態は同じである。

疫学

発生頻度は出生1万人~4万人に1人と推定されているが、小児慢性特定疾患治療研究事業によると、近年の登録数は約25~33件である。小児期に呼吸不全に至る例は少なく、未診断、未登録の症例が非常に多いものと推測される。

病因

線毛の微細構造に何らかの異常を認めることが多い。中でも、ダイニン腕の異常が多く、外側ダイニン腕の遺伝子異常として、DNAH5、DNAI1、DNAH11、TXNDC3、DNAI2が同定されている。他にもKTU、RPGR、OFD1、RSPH9、RSPH4Aなどの遺伝子異常が報告されている。線毛を構成する蛋白は約250種類といわれ、そのいずれの異常でも機能異常を呈する可能性があるので、今後も続々と新たな遺伝子異常が明らかにされていくと予想される。遺伝形式は主に常染色体劣性遺伝である。線毛に形態的な異常が認められず、運動が障害されている例も報告されている。

症状

新生児期に数日から2~3週の酸素投与を要する一過性の呼吸窮迫を経験していることが多い。乳幼児期を通じて慢性的な鼻漏と湿性咳嗽を認める。咳嗽は湿性で運動や深呼吸で容易に誘発される。喀痰は粘稠で、肺炎、気管支炎の遷延、反復を認める。感染による増悪を繰り返すと気管支拡張症を合併し、喘鳴や呼吸困難を伴い、次第にばち状指が認められるようになる。肺聴診では、肺野全体に水泡音(coarse crackles)を認める。副鼻腔炎、中耳炎を合併する場合が多く、慢性的な鼻閉や膿性鼻汁、耳鳴り、難聴を伴うことがある。
 線毛は気道以外の臓器にも広く存在しており、気道以外の症状としては、前述の内臓逆位の他に、不妊症(男性では精子の鞭毛運動不全、女性では卵管の線毛運動不全)、水頭症(脳室の上衣細胞の線毛運動不全による髄液循環障害)、嗅覚障害(嗅細胞の線毛異常)、視覚障害(網膜色素変性症)などの合併が知られている。

診断

確定診断には先天的な線毛運動の異常を証明することが必要である。通常は、鼻粘膜(下鼻甲介のブラシ生検、擦過細胞診)または気管支から線毛上皮細胞を採取し、37℃の生理食塩水に入れて直ちに光顕下に線毛運動の有無を観察する。高速ビデオ撮影によって線毛運動の速度やパターンを評価する。線毛運動に異常があれば、電子顕微鏡による検査で線毛の短軸像を観察し、過半数の線毛に一定の微細構造異常が認められれば本症と診断できる。ウイルス感染や大気汚染物質による粘膜傷害にみられる二次性の線毛異常を除外しなければならないので、紛らわしい場合は検査を反復して再現性を確認する。ただし、電子顕微鏡による線毛構造の観察には、標本を1%グルタルアルデヒド固定液に1%タンニン酸を加えて処理するなど特殊な技法が必要であり、経験のない施設では難しい。なお、近年、採取した線毛上皮細胞を培養してから観察する方法で二次性の異常を除外できると報告されているが、わが国では行われていない。
胸部単純X線写真では無気肺と過膨張に気管支壁肥厚像が混在する。本症の約半数で認められる完全内蔵逆位は胸部単純X線写真で初めて気づかれることも多い。慢性副鼻腔炎の合併が多く、Waters撮影で上顎洞内の分泌物貯留や粘膜肥厚像を認める。CTでは、無気肺や気管支拡張症の部位と程度について、より詳細な評価が可能である。
 サッカリンテストは本症のスクリーニング検査として古典的な検査である。方法は、患者の下鼻甲介に少量のサッカリン塊を置き、被験者が甘味を感じるまでの時間を計測する。健常児では5~15分以内に甘さを感じるが、本症では30分を経過しても甘味を感じることができない。検査中に鼻をすすってはいけないので、12歳未満では難しい。
鼻腔内NOまたは呼気NOを測定すると、本症では極めて低い。低値の判定は各施設の基準値に従って行う。適用可能年齢は4~5歳以上である。
DNAH5やDNAI1など高頻度の遺伝子異常については遺伝子診断も考慮される。

治療

胸部理学療法は長期管理の中心であり、毎日行うよう習慣づける。基本的には、早朝空腹時、昼食30分前、就寝前にそれぞれ5分間を目安に、病変部を上にした体位で振動を与え、同時に咳嗽を誘導する。多少の嘔吐を伴う場合があるが、嘔吐によって排痰が促進されることが多いので、嘔吐を理由に以後の理学療法を中止しないよう気をつける。感染増悪時には回数を増やす。
 薬物療法の基本は去痰薬と気管支拡張薬であり、鎮咳薬は投与しない。マクロライド系抗菌薬の少量持続投与も行う。それでも感染の管理が困難な場合には、ST合剤に変更する。いずれも長期投与による副作用に注意する。急性増悪時には肺炎球菌やインフルエンザ菌を目標とした抗菌薬を投与する。耳鼻咽喉科、眼科など関連する診療科との連携も重要である。

予後

感染増悪には早期に対応し、気管支拡張症、ひいては呼吸不全への進展を遅らせることが重要であり、毎日の理学療法、薬物療法を継続できるかどうかが予後を左右する。

文献

1) 宮川知士:原発性線毛機能不全.『小児内科』『小児外科』編集委員会共編:小児疾患診療のための病態生理,第4版,東京医学社,2008,pp.102-105.
2) Leigh MW: Primary ciliary dyskinesia. In Wilmott RW et al. (Ed): Kendig and Chernick’s Disorders of the Respiratory Tract in Children, 8th Ed., Elsevier Saunders, 2012, pp. 995-1002.
3) Rutland J, Morgan L, and Robbert de longh: Respiratory ciliary dysfunction. In Taussig LM et al. (Ed): Pediatric Respiratory Medicine, 2nd Ed., Mosby Elsevier, 2008, pp.979-987.
4) Barbato A, et al. ERS Task Force: Primary ciliary dyskinesia: a consensus statement on diagnostic and treatment approaches in children. Eur Respir J 2009, 34: 1264-1278.
:バージョン1.0
更新日
:2014年10月1日
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