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ネイル・パテラ(Nail-Patella)症候群(爪膝蓋症候群)

ねいる・ぱてらしょうこうぐん (そうしつがいしょうこうぐん)

Nail-patella syndrome

告示番 号35
疾病名ネイル・パテラ症候群(爪膝蓋症候群)
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定義・概念

爪膝蓋骨症候群(nail-patella症候群,MIM161200)は,爪形成不全,膝蓋骨の低形成あるいは無形成,腸骨の角状突起(Iliac horn),肘関節の異形成を4主徴とする常染色体優性遺伝性疾患である。しばしば腎症を発症し,一部は末期腎不全に進行する。

疫学

常染色体優性遺伝形式をとる。散発例も存在する。ABO血液型と連鎖して遺伝することが,最も古くから判明していた疾患である。頻度は,5万人に1人程度といわれているが,はっきりしたものではなく,報告例からみると実際はより頻度が低いと思われる。種族差,性差はない。

病因

a.原因遺伝子LMX1B Lmx1b遺伝子ノックアウトマウスのホモ接合体欠失個体は,爪の低形成, 膝蓋骨の欠損,腎の異常など爪膝蓋骨症候群類似の症状を呈する1)。Lmx1bは,肢芽において背側に発現するが,Lmx1bが欠失すると,背側が腹側と同様の構造となるため,爪や膝蓋骨が欠損する。これと同時に,ヒトの爪膝蓋骨症候群の患者にLMX1B遺伝子のヘテロ接合体変異が報告され,LMX1Bが爪膝蓋骨症候群の原因遺伝子であると判明した2)。LMX1Bは染色体9q34に位置し,爪膝蓋骨症候群の連鎖解析による座位と一致する。ヒトLMXIBは372個のアミノ酸よりなり,そのmRNAは胎児, 成人とも腎臓に強く発現している2)。更に胎児期には,LMX1Bの発現は,膝蓋骨や手指の背側組織,特に母指側に強くみられ, 爪膝蓋骨症候群の表現型の部位と一致する3)。

b.LMX1Bの変異
LMX1Bには今までに約130種類以上の変異が同定されている。その部位はLIMドメインとホメオドメインに集中している。すべてヘテロ接合体変異であり, 親からの遺伝あるいはde novoである。 シークエンス解析では約20%の患者で変異が認められず,MLPA法などによりそのうち一部には遺伝子全体の欠失が報告されている4)。しかし,まだ変異が同定されない家系もあり,プロモーター領域の変異やLMX1Bに密接に関連する別の遺伝子に起因する可能性もある。
 遺伝子型と表現型の関連性は認められないとする報告が多い。 機能解析をした変異が少ないためまだ検討の余地があるにせよ,同一家系内で表現型に差異があること, LMX1B の変異だけでは説明できない因子が考えられる。

c.腎症発症の機序
 マウスにおいてLmx1bは,胎生期から腎糸球体に発現する。Lmx1b遺伝子ノックアウトマウスでは,腎糸球体基底膜を構成するIV型コラーゲンα3とα4の発現が低下していた5)。糸球体基底膜の正常な構造の維持には,IV型コラーゲンα1/α2からα3/α4/α5ネットワークへの切り替えが重要であるが,Lmx1bに異常があるとα3とα4の調節ができず,Alport症候群と類似した糸球体基底膜病変による腎症を起こすと考えられている。また更に,Lmx1bノックアウトマウスでは,podocyteの分化に関するpodocin(Nphs2)遺伝子の発現も低下することから,podocyteの分化異常も腎症に関与している可能性がある6)。

病態

非常に多彩な症状があるが主な症状と,その頻度を表に示す。 いかなる年齢でも発症する。 生下時より異常はあるが,骨の異常などは成長後に顕在化することもあり,小児期に診断できないこともある。表現型は家系問・家系内でも多様性があり,重症度も症例ごとに異なる。

表Nai1-patella症候群の臨床症状

症状頻度(%)
爪の異常
 爪の低形成,欠損
 三角状の爪半月
 縦走隆起,さじ状爪,変色,割裂
骨の異常
 膝蓋骨形成不全
 肘関節異常
 腸骨角状突起(iliac horn)
眼の異常
 虹彩の色素沈着(Lester’s sign)
 緑内障,眼高血圧
腎症
 タンパク尿のみ
 血尿のみ
 タンパク尿十血尿
 妊娠時のみの異常
 末期腎不全
神経学的異常
手指遠位端のしわの消失
手指のスワンネック様変形

その他の異常
 毛髪線の上昇,細い毛髪,背部痛,
 腰椎前轡,側轡,漏斗胸,過敏性大
 腸,便秘,てんかん,末梢循環不全,
 その他骨系統の様々な異常
98



93
93
68

54
17
38
13
1
10
13
3
25
58

A.爪の異常
爪の異形成はほぼ全例に認められる。足趾より手指に多く,特に母指側に強い。足趾にある場合は小指側が強い。程度は完全欠損から低形成まで様々である。三角状の爪半月が特徴的とされる7)。そのほか,縦走する隆起や,さじ状爪,変色,割裂などが認められることもある。爪の異常は生下時から認められることが多いが軽度であると気づかれにくい。

B.骨の異常
(1)膝蓋骨形成不全:膝蓋骨の完全欠損あるいは低形成が93%に認められるが,完全欠損は20%である。 理学的所見では膝関節屈曲時の陥凹が認められると機能的に問題となることは少ないが,膝蓋骨の亜脱臼や,骨関節炎による膝関節痛を起こすことがある。
(2)肘関節異常:肘関節の異常は93%に認められる7)。骨頭や上腕骨小頭の低形成,肘関節前面の翼状皮膚を認める。肘関節の伸展,回内,回外が制限され60%の症例で擁骨頭の脱臼・亜脱臼が認められる。
(3)腸骨の角状突起:腸骨のiliac hornは,腸骨からの後外側への三角状骨隆起である。 大きいと外表からも触知可能である。X線写真で確認する。爪膝蓋骨症候群に特徴的であり,70-80%に認められ診断の根拠となる。そのほか,側彎,肩甲骨低形成など様々な骨異形成を認めることがある。

C.眼の異常
虹彩の内側の色素沈着(Lester’s sign)が54%の患者に認められる。開放隅角緑内障や眼圧上昇は,平均48歳(23-78歳)で認められ,40歳以上の患者の29%に認められる。加齢とともに出現し,治療可能な症状であるので定期的検査が重要である。そのほか円錐角膜,小角膜,先天性白内障など種々の異常がある。

D.腎の異常
約半数(報告により25-62%)に腎症を合併する。同一家系内でも,腎症の発症や重症度が異なる。 通常は無症候性のタンパク尿であり,まれに血尿がみられる。 時に,高度のタンパク尿により, ネフローゼ症候群を呈することもある。2-15%の症例で,腎機能が進行性に悪化し末期腎不全となったと報告されている。小児期に腎不全となることもある。

組織所見上,光顕では腎不全の程度に応じた所見であり,巣状糸球体硬化症,増殖性糸球体腎炎,糸球体の硝子化など多様で特異的所見がない。電顕で特徴的所見が認められる。不規則に肥厚した糸球体基底膜,その緻密層内に認められる虫食い像(moth-eaten appearance),特殊染色により基底膜とメサンギウム基質中のコラーゲン線維束がみられる8)。これらの基底膜の変化は, 臨床的に腎症を示さない例にも認められ,変化の程度は,年齢・タンパク尿の程度・腎不全の程度とは関連しない。

E.神経系の異常
末梢神経の異常が25%に認められ手足のしびれ感・ヒリヒリ感などの知覚異常が多い。また,てんかんを合併する例もある。これは,LMX1Bが中枢神経系に発現しており,背側脊髄へのニューロンの分化,移動の異常によると考えられている9)。本症の成人では,注意欠陥ない。 多動性障害(ADHD)などのスコアが高いという報告もある10)。

診断と鑑別診断

診断は,爪,膝,肘の症状から本症を疑い,腸骨のX線所見でiliac hornを認めれば診断は間違いない。無症候性のタンパク尿や血尿の症例では,家族も含め上記の外表所見を確認することが,適確に診断するうえで重要である。疑わしい場合は,整形外科・眼科的診察を行う。
4主徴がそろわないときは,他の疾患を鑑別する。膝蓋骨の形成不全をきたす疾患(TBX4異常による小膝蓋骨症候群,Meier-Gorlin症候群など)や,爪の形成不全をきたす疾患(DOOR症候群, Coffin-Siris症候群など)は多数ある7)。特に,精神発達遅滞や顔貌異常のあるときは他の症候群を念頭に置いて鑑別する。 遺伝子診断は可能である。ただし,すべての患者にLMX1B遺伝子異常が認められているわけではないので,異常がない場合でも診断を除外することはできない。

治療と予後

予後は,腎症の発症により左右される。定期的な検尿を行い,腎症の発症に留意する。今のところ,腎不全発症の時期や可能性を予測する方法はない。 また,腎症に対する特異的な治療法はない。腎不全に至る場合は,腎移植を要することがある。 移植腎には,糸球体基底膜の病変の再発はみられていない。膝・肘関節の異常により,可動域制限や身体的特徴があることを, 周囲に理解してもらうことが,精神的サポートとなる。 機能に問題がある場合は,整形外科的に治療する。成人期になったら,緑内障の検査を定期的に行う。
常染色体優性遺伝なので,50%の確率で同胞や子に発症することを,遺伝カウンセリングで説明する必要がある。また同じ家系でも,腎症の発症や程度は様々であり,腎不全に至る可能性があることも説明する。

参考文献

1) Chen H,et al:Limb and kidney defects in Lmx1b mutant mice suggest an involvement of LMX1B in human nail patella syndrome. Nat Genet 19:51-55,1998.
2) Dreyer SD,et al: Mutations in LMX1B cause abnormal skeletal patterning and renal dysplasia in nail patella syndrome. Nat Genet19:47-50,1998.
3) Dreyer SD,et al: LMX1B trans activation and expression in nail-patella syndrome. Hum Mol Genet 9:1067-1074,2000.
4) Bongers EM,et al: Identification of entire LMX1B gene deletions in nail patella syndrome: evidence for haplo insufficiency as the main pathogenic mechanism underlying dominant inheritance in man. Eur J Hum Genet16 (10):1240-1244,2008.
5) Morello R,et al: Regulation of glomerular basement membrane collagen expression by LMX1B contributes to renal disease in nail patella syndrome. Nat Genet 27:205-208,2001.
6) Rohr C,et al: The LIM-homeodomain transcription factor Lmx1b plays a crucial role in podocytes. J CIin Invest109:1073-1082, 2002.
7) Sweeney E, et al: Nail patella syndrome: a review of the phenotype aided by developmental biology. J Med Genet40:153-162,2003.
8) Bongers EM,et al: Nail-patella syndrome. Overview on clinical and molecular findings. Pediatr Nephrol 27:703-712,2002.
9) Dunston JA, et al: A neurological phenotype in nail patella syndrome(NPS) patients illuminated by studies of murine Lmx1b expression. Eur J Hum Genet13(3):330-335,2005.
10) Lopez-Arvizu C,et al: Increased symptoms of attention deficit hyperactivity disorder and major depressive disorder symptoms in Nail-patella syndrome: potential association with LMX1B loss-of-function. Am J Med Genet B Neuropsychiatr Genet156B(1):59-66,2011.
:バージョン1.0
更新日
:2014年10月1日
文責
:日本小児腎臓病学会
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