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非典型溶血性尿毒症症候群

ひてんけいようけつせいにょうどくしょうしょうこうぐん

Atypical haemolytic uraemic syndrome; aHUS

告示番 号36
疾病名非典型溶血性尿毒症症候群
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概念・定義

非定型溶血性尿毒症症候群 (atypical hemolytic uremic syndrome, aHUS)は,志賀毒素によるHUSとADAMTS13(adisintegrin-like and metalloproteinase with thrombospondin type l motifs, member 13)活性著減による血栓性血小板減少性紫斑病 (thrombotic thrombocytopenic purpura, TTP)以外の血栓性微小血管障害(thrombotic microangiopathy, TMA)で,微小血管症性溶血性貧血・血小板減少・急性腎障害(acute kidney injury, AKI)を三主徴とする疾患である。

病因・病態

aHUSの原因は,同種腎移植後に再発が見られることや,血漿交換療法に反応する例もあったことからなどから,以前から何らかの血漿因子が関与するものと推定されていた。実際,補体調節因子であるcomplement Factor H(CFH)蛋白量の著減する症例がいることや,この疾患が劣性遺伝を示すことが報告された (1, 2)。その後,1998年にWarwickerらが患者DNAの多点連鎖解析にてCFHの遺伝子異常と疾患関連性を証明した (3)。これ以降,補体や補体関連因子に注目が集まり,complement(C)3やCFHを含む様々な補体調節因子であるcomplement factor B(CFB)やcomplement factor I(CFI),またその関連膜糖蛋白であるmembrane cofactor protein(MCP)やthrombomodulin(THBD)がaHUSの原因となることが示された(4)。さらに最近ではdiacylglycerol kinase ε(DGKE)という血小板活性化に必須のアラキドン酸代謝経路シグナルを遮断する蛋白の遺伝子異常もaHUSの原因となることが報告されている(5)。
 補体系は,古典経路(classical pathway),レクチン経路(lectin pathway),第二経路(alternative pathway)の3つの基本的経路を介して活性化されるが,aHUS患者ではC3低下が見られるが,C4低下は見られないとの報告が古くからあり,aHUSの発症には活性化反応にC3分解を伴うが他の経路とは異なりC4分解は伴わない第二経路の活性化が特異的に関与していることが予想された(6)。第二経路では,病原微生物上にC3が結合することにより活性化される。C3が加水分解反応によりC3aとC3bに分解され反応が開始する。C3の分解によって生成したC3bはCFBと結合し,続いてcomplement factor D (CFD)により分解されることでC3bBb(C3 convertase)を形成する。C3 convertaseはC3の分解を促進させ,生じたC3bとさらに結合してC5 convertase(C3bBbC3b)を形成する。C5 convertaseはC5をC5aとC5bに分解し,生じたC5bがC6-C9と細胞膜侵襲複合体であるC5b-9(membrane attack complex, MAC)を形成,膜侵襲複合体として病原体膜に結合し,溶菌,細胞膜融解を引き起こす。
 一方,補体調節因子は補体活性化作用において,活性化と非活性化(制御)のいずれか一方の機能を持つものに大別される。活性化因子として代表的なものはCFB,CFD,properdinであり,制御因子としてはCFIとCFHがある。さらに細胞膜上の制御因子としてMCP,decay accelerating factor(DAF),THBDなどが知られている。aHUSでは,これら補体調節因子の中でも特に第二経路の補体制御因子の異常が数多く報告されている。これら補体制御因子はregulators of complement activation(RCA)proteinと呼ばれ,ヒトでは染色体1q32上にgene clusterを形成している。aHUSにおけるこれら補体制御因子の異常が,過剰な補体の活性化や補体による自身の細胞障害を引き起こすと考えられている。

診断基準 (7, 8)

Definite(確実):
三主徴がそろい,志賀毒素に関連するものでないこと。血栓性血小板減少性紫斑病でないこと。
微小血管症性溶血性貧血;Hb 10g/dl 未満
血中Hb 値のみで判断するのではなく、血清LDH の上昇、血清ハプトグロビンの著減、末梢血スメアでの破砕赤血球の存在をもとに微小血管症性溶血の有無を確認する
血小板減少;PLT 15 万/μl 未満
急性腎障害(AKI);小児例:年齢・性別による血清クレアチニン基準値の1.5 倍
(血清クレアチニンは、小児腎臓病学会の基準値を用いる。)
成人例:AKI の診断基準を用いる

Probable(疑い):
急性腎障害(AKI)、微小血管症性溶血性貧血、血小板減少の3 項目のうち2 項目を呈し、かつ志賀毒素に関連するものでも、血栓性血小板減少性紫斑病でもないこと。

付則事項

① 志賀毒素産生性大腸菌感染症の除外診断:
大腸菌の関与を確認する方法:培養検査・志賀毒素直接検出法(EIA)・抗LPS-IgM 抗体など

② 血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)の除外診断:
従来、TTP は古典的5 徴候で診断されてきた。しかしADAMTS13 の発見により、TTP 症例は人種にかかわらず、その60〜90%はADAMTS13 活性が<5%と著減している事が判明した。従ってaHUS の診断においてADAMTS13 活性著減例(<5%) はTTP と診断し、これを除外する必要がある。しかしながら、TTPの古典的5 徴候は今も臨床現場で用いられており、この中にはADAMTS13 活性が正常ないし軽度低下に留まるものもある。従って、ADAMTS13 活性5%以上を示す患者についてはその他の臨床症状も加味してaHUS であるか TTP であるかを判断する。

③ 明確な他の原因によるTMA の除外診断:
DIC、強皮症腎、悪性高血圧、抗リン脂質抗体症候群など、TMA の病態を生じることが明らかな疾患を除外する。

④ Probable に該当すれば、aHUS の可能性を念頭に置き、各種鑑別診断に必要な検査検体の採取に努める。aHUS の診療に精通した施設にコンサルトし治療方針を決定する。

⑤ HUS の病態を呈し、以下の状況にある場合には、下痢の有無にとらわれずaHUS を考慮する。
・生後6 か月未満の症例
・発症時期が明確でない症例(潜在性発症例)
・HUS の既往がある症例(再発症例)
・原因不明の貧血の既往
・腎移植後HUS の再発
・HUS の家族歴(食中毒事例は除外する)
・下痢や血便を伴わない症例

溶血性尿毒症症候群(HUS)は、溶血性貧血、血小板減少、腎障害を3徴候とする、5歳未満の小児に多く見られる疾患である。HUSの約90%は下痢を伴い、O157等の病原性大腸菌に感染することで発症する。一方で、下痢を伴わないHUSが約10%存在し、非定型(atypical) HUSと呼ばれる2-4)。
aHUSの病因分類を表2に示した。aHUSの約50%に補体制御蛋白の遺伝子変異が認められており、H因子の異常によるものが一番多い(20-30%)。ついでmembrane cofactor protein (MCP, CD46)(10-13%)、I因子(5-12%)となっている。また、最近はトロンボモジュリンの遺伝子変異も報告されている。

表1 aHUS(ADAMTS13*1 欠損によるTTP を除外)の病因分類

(1) 補体制御異常:
 (ア) 先天性
 補体蛋白の遺伝子変異:H 因子、I 因子、membrane cofactor protein(MCP, CD46)、C3、B 因子、トロンボモジュリン*2  (イ) 後天性
 抗H 因子抗体などの自己抗体産生*3 (2) コバラミン代謝異常症*4 (3) 感染症*5  (ア) 肺炎球菌
 (イ) HIV
 (ウ) 百日咳
 (エ) インフルエンザ
 (オ) 水痘
(4) 薬剤性*6  (ア) 抗悪性腫瘍薬
 (イ) 免疫抑制薬
 (ウ) 抗血小板薬
(5) 妊娠関連
 (ア) HELLP 症候群
 (イ) 子癇
(6) 自己免疫疾患・膠原病*7  (ア) SLE
 (イ) 抗リン脂質抗体症候群
(7) 骨髄移植・臓器移植関連
(8) その他

*1 ADAMTS13、フォンビルブランド因子(von Willebrand factor, VWF)の特異的切断酵素
*2 溶血試験、補体蛋白・制御因子の蛋白量定量、遺伝子解析。ただし、補体蛋白や補体制御因子の蛋白量が正常範囲内であっても、補体関連のaHUS を否定する根拠にはならない。
*3 ELISA、ウェスタンブロット法による抗H 因子抗体などの検出
*4 発症年齢で考慮:生後6か月未満、血漿アミノ酸分析で高ホモシステイン血症、低メチオニン血症
*5 病原微生物の同定、血清学的検査による確定診断
*6 原因薬剤の同定
*7 自己抗体検査、抗リン脂質抗体検査、血清学的検査による確定診断

治療

1970年代後半からaHUSに対して血漿交換や血漿輸注などの血漿療法が導入され,死亡率は50%から25%にまで低下はしたものの,依然として予後不良の疾患である。aHUSの治療ガイドラインによれば,ADAMTS13活性測定を含めた鑑別診断を行い,aHUSと診断すれば24時間以内に血漿交換を行うべきとされている(9)。
 CFHの量的異常の治療法として,血漿輸注を早期に開始することで腎機能を維持することができるとの報告がある。また,補体系機能異常症に対する,新鮮凍結血漿を用いた血漿交換の有効性は,その異常制御因子の種類により異なり,不応な場合には腎不全や不幸な転機をとる場合があり予後は不良である(10, 11)。
 近年補体系機能異常症に伴うaHUS症例に対して期待されている治療薬が補体C5に対するモノクローナル抗体,エクリズマブ(eculizumab)である(12)。エクリズマブは発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の治療薬として2007年に欧米で,本邦では2010年に承認されている。近年エクリズマブのaHUSに対する有用性が欧米の数多くの研究者により報告されるようになり,米国では大規模な臨床治験の結果を受けて2011年にaHUSの治療薬として承認された(13)。本邦においてはも2013年にaHUSへの使用が認可されている。エクリズマブの作用機序はC5に結合することによりC5aとC5bに分解されるのを阻害し,C5b-9による細胞膜侵襲作用を抑制すると考えられている。

予後

aHUSの予後は不良であり,発症後1年までの死亡率は,小児例で4.8%,成人例で0.8%と小児例で有意に高い。一方,aHUS初発例が末期腎不全へと進行する頻度は成人例で46%,小児例で16%と成人例で有意に高い。発症後3~5年で,小児例の36~48%,成人例の64~67%が死亡もしくは末期腎不全に至ると報告されている(14)。

参考文献

1) Thompson RA, Winterborn MH. Hypocomplementaemia due to a genetic deficiency of β 1H globulin. Clin Exp Immunol 46: 110-119, 1981
2) Pichette V, Querin S, Schurch W, Brun G, Lehner-Netsch G, Delâge JM. Familial hemolytic-uremic syndrome and homozygous factor H deficiency. Am J Kidney Dis 24: 936-941, 1994
3) Warwicker P, Goodship TH, Donne RL, et al. Genetic studies into inherited and sporadic hemolytic uremic syndrome. Kidney Int 53: 836-844, 1998
4) Geerdink LM, Westra D, van Wijk JA, et al. Atypical hemolytic uremic syndrome in children: complement mutations and clinical characteristics. Pediatr Nephrol 27: 1283-91, 2012
5) Lemaire M, Frémeaux-Bacchi V, Schaefer F, et al. Recessive mutations in DGKE cause atypical hemolytic-uremic syndrome. Nat Genet 45: 531-536, 2013
6) Noris M, Ruggenenti P, Perna A, et al. Hypocomplementemia discloses genetic predisposition to hemolytic uremic syndrome and thrombotic thrombocytopenic purpura: role of factor H abnormalities. Italian registry of familial and recurrent hemolytic uremic syndrome/thrombotic thrombocytopenic purpura. J Am Soc Nephrol 10: 281-293, 1999
7) 非典型溶血性尿毒症候群診断基準作成委員会.「非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)の診断基準」.日腎誌55: 91-93, 2013
8) Sawai T, Nangaku M, Ashida A, et al Diagnostic criteria for atypical hemolytic uremic syndrome proposed by the Joint Committee of the Japanese Society of Nephrology and the Japan Pediatric Society. Pediatr Int. 56: 1-5, 2014
9) Ariceta G, Besbas N, Johnson S, et al. European Paediatric Study Group for HUS. Guidline for the investigation and initial therapy of diarrhea-negative hemolytic uremic syndrome. Pediatr Nephrol 24: 687-696, 2009
10)Licht C, Weyersberg A, Heinen S, et al. Successful plasma therapy for atypical hemolytic uremic syndrome caused by factor H deficiency owing to a novel mutation in the complement cofactor protein domain 15. Am J Kidney Dis 45: 415-421, 2005
11) Waters AM, Licht C: aHUS caused by complement dysregulation: new therapies on the horizon. Pediatr Nephrol 26: 41-57, 2011
12) Legendre CM, Licht C, Muus P, et al. Terminal complement inhibitor eculizumab in atypical hemolytic-uremic syndrome. N Engl J Med 368:2169-2181, 2013
13) Kavanagh D, Goodship TH. Atypical hemolytic uremic syndrome, genetic basis, and clinical manifestations. Hematology Am Soc Hematol Educ Program 2011: 15-20, 2011
14) Salvadori M, Bertoni E. Update on hemolytic uremic syndrome: Diagnostic and therapeutic recommendations. World J Nephrol 2: 56-76, 2013
15)Noris M, Caprioli J, Bresin E, et al. Relative role of genetic complement abnormalities in sporadic and familial aHUS and their impact on clinical phenotype. Clin J Am Soc Nephrol.5: 1844-59, 2010
16)Noris M, Remuzzi G. Atypical hemolytic-uremic syndrome. N Engl J Med361: 1676-87, 2009
:バージョン1.0
更新日
:2014年10月1日
文責
:日本小児腎臓病学会
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