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急速進行性糸球体腎炎(顕微鏡的多発血管炎によるものに限る。)

きゅうそくしんこうせいしきゅうたいじんえん (けんびきょうてきたはつけっかんえんによるものにかぎる。)

rapidly progressive glomerulonephritis due to Microscopic Poly-angitis (MPA)

告示番 号31
疾病名急速進行性糸球体腎炎(顕微鏡的多発血管炎によるものに限る。)
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概念・定義

MPAは小・細動脈,毛細血管、細静脈の壊死性血管炎を認める疾患で,中動脈の炎症を伴ってもよい。侵される血管の太さが小型血管であること,大半の症例がANCA陽性を示すことから,結節性多発動脈炎(polyarteritis nodosa:PN)から分離・独立した疾患である(1)。

病因・病態

原因は不明だが,ANCAが病態形成に重要な役割を担っていると考えられている。ANCAの対応抗原は好中球細胞質のアズール顆粒に含まれる蛋白分解酵素である。臨床的に重要な対応抗原はミエロペルオキシダーゼ(MPO)とプロテアーゼ3(PR3)であり,それぞれに対する自己抗体をMPO-ANCAおよびPR3-ANCAと呼ぶ。PR3-ANCAはWegener肉芽腫症に特異度が高く,MPO-ANCAはMPAの他,アレルギー性肉芽腫性血管炎や特発性半月体形成性糸球体腎炎に検出される。いずれも小型血管炎に属する疾患であり,糸球体や血管壁に免疫グロブリンや補体の沈着を認めないpauci-immune型の腎炎(血管炎)を発症することから,これらの疾患をANCA関連腎炎もしくはANCA関連血管炎と一括する考え方が定着している。
 血管炎の病態形成におけるANCAの役割については,次のようなANCA-サイトカイン連鎖説が提唱されている(2)。①感染などを契機に産生されたサイトカインにより活性化された好中球表面上にANCAの対応抗原であるMPOやPR3が表出される,②これにANCAが結合することにより,さらに好中球が活性化される,③活性化された好中球が接着分子の関与のもとに内皮細胞や基底膜を破壊して糸球体障害や血管炎を引き起こす。しかし,すべてのMPAの症例でANCAが検出されるわけでなく,またANCAの力価と疾患活動性が必ずしも相関しない症例も散見される。病気の発症にはHLAなどの遺伝的背景や認識エピトープによるANCAの病原性の違いなども関係している可能性がある。
 腎病変は種々の程度の半月体形成を伴う巣状の壊死性糸球体腎炎の像を呈する。糸球体には免疫グロブリンや補体の沈着を認めないpauci-immune型である。ごく早期には糸球体に好中球が著明に浸潤し,一部の基底膜が破壊されて血漿成分がBowman腔へ浸み出している像が認められる。
電顕では好中球の脱穎粒や内皮細胞障害が観察される。進展すると管外増殖性変化(半月体)が認められるようになる。半月体の構成成分は当初,Bowman嚢由来の上皮細胞,好中球,マクロファージなどが主体であるが(細胞性半月体),やがて線維成分が細胞の間隙を埋めるようになり(線維細胞性半月体),最終的には細胞が消失して線維が完全に置き換わるようになる(線維性半月体)。

臨床症状

発熱,全身倦怠感,体重減少などの全身症状を伴う。典型例では急速進行性糸球体腎炎に肺胞出血や間質性肺炎を伴う肺腎症候群を示す。腎徴候は急性ないし潜行性に血尿,蛋白尿,貧血が出現し,週単位で腎機能が進行性に悪化する。高度の高血圧やネフローゼ症候群を示すことは少ない。その他,全身性の血管炎徴候として,紫斑などの皮疹,末梢神経障害(多発性単神経炎)による痺れや麻痺を伴うことがある。皮疹は下肢に出現する触知可能な紫斑palpable purpuraが特徴である。

診断

急速進行性糸球体腎炎の診断については,2002年に厚生労働省の分科会より発表された診療指針が頻用されている(表1)。この診療指針は2010年に改訂され,早期発見のための診断指針が改訂されている(表2)。顕微鏡的多発血管炎の診断指針は表3に示す。小児の急速進行性糸球体腎炎や顕微鏡的多発血管炎の診断指針はないため、現時点ではこれらの基準を用いる。

表1 急速進行性腎炎症候群確定診断指針(2)

1) 数週から数カ月の経過で急速に腎不全が進行する。
2) (病歴の聴取,過去の検診,その他の腎機能データを確認する。)
3) 血尿(多くは顕微鏡的血尿,稀に肉眼的血尿),蛋白尿,円柱尿などの腎炎性尿所見を認める。
4) 過去の検査歴などがない場合や来院時無尿状態で尿所見が得られない場合は,臨床症候や腎臓超音波検査,CT などにより,腎のサイズ,腎皮質の厚さ,皮髄境界,尿路閉塞などのチェックにより,慢性腎不全との鑑別を含めて,総合的に判断する。

表2 急速進行性腎炎症候群早期発見のための診断指針 (1, 3, 4)

1) 尿所見異常(主として血尿や蛋白尿,円柱尿)注1 2) eGFR<60mL/min/1.73m2 注2 3) CRP 高値や赤沈促進
上記の 1~3)を認める場合,「RPGNの疑い」として,腎専門病院への受診を勧める。
ただし,腎臓超音波検査を実施可能な施設では,腎皮質の萎縮がないことを確認する。
なお,急性感染症の合併,慢性腎炎に伴う緩徐な腎機能障害が疑われる場合には,1~2 週間以内に血清クレアチニンを再検し,eGFRを再計算する。
注1:近年,健診などによる無症候性検尿異常を契機に発見される症例が増加している。
最近出現した検尿異常については,腎機能が正常であっても RPGNの可能性を念頭に置く必要がある。
注2:eGFRの計算は,わが国のeGFR 式である下式を用いる。
   eGFR(mL/min/1.73m2)=194×Cre-1.094×Age-0.287(女性はこれに×0.739)
   12歳未満の小児においては下式を用いる。
eGFR(mL/min/1.73m2)=0.35×身長(cm)/Cre
12歳以上19歳未満の小児については文献(5)を参照
   ただし, 血清クレアチニンの測定は酵素法で行うこと。

表3 顕微鏡的多発血管炎の診断基準 (1)

【主要項目】
(1)主要症候
  1 急速進行性糸球体腎炎
2 肺出血,もしくは間質性肺炎
  3 腎・肺以外の臓器症状:紫斑,皮下出血,消化管出血,多発性単神経炎など
(2)主要組織所見
細動脈・毛細血管・後毛細血管細静脈の壊死,血管周囲の炎症性細胞浸潤
(3)主要検査所見
  1 MPO-ANCA 陽性
  2 CRP 陽性
  3 蛋白尿・血尿,BUN,血清クレアチニン値の上昇
  4 胸部 X 線所見:浸潤陰影(肺胞出血),間質性肺炎
(4)判定
  1 確実(definite)
  (a)主要症候の2項目以上を満たし,組織所見が陽性の例
  (b)主要症候の1および2 を含め 2 項目以上を満たし,MPO-ANCA が陽性の例
  2 疑い(probable)
  (a)主要症候の3項目を満たす例
  (b)主要症候の1項目と MPO-ANCA 陽性の例
(5)鑑別診断
  1 結節性多発動脈炎
  2 Wegener肉芽腫症
  3 アレルギー性肉芽腫性血管炎(Churg-Strauss 症候群)
  4 川崎病血管炎
  5 膠原病(全身性エリテマトーデス,関節リウマチなど)
  6 紫斑病血管炎

【参考事項】
(1)主要症候の出現する 1~2 週間前に先行感染(多くは上気道感染)を認める例が多い。
(2)主要症候1, 2は約半数例で同時に,その他の例ではいずれか一方が先行する。
(3)多くの例で MPO-ANCA の力価は疾患活動性と平行して変動する。
(4)治療を早期に中止すると,再発する例がある。
(5)除外項目の諸疾患は壊死性血管炎を呈するが,特徴的な症候と検査所見から鑑別できる。

顕微鏡的多発血管炎 (MPA) は,侵される血管の太さが小型血管であること,大半の症例がANCA陽性を示すことから,結節性多発動脈炎(polyarteritis nodosa:PN)から分離・独立した疾患である。小・細動脈,毛細血管,細静脈の壊死性血管炎を認める疾患で,中動脈の炎症を伴ってもよい。
典型例では壊死性糸球体腎炎と肺の毛細血管炎を呈する。旧厚生省特定難治性血管炎分科会のMPAの診断基準(2006年修正)を参考に診断する(表3)(1)。
 発熱などの全身症状を伴って発症する場合は早期診断が比較的容易であるが,全身症状に乏しく潜行性に進む場合には診断が遅れて臓器障害が高度に進展してしまう場合も多い。CRPや赤沈などの炎症反応の充進が認められること,貧血の程度が強いこと,腎機能障害があっても超音波で腎臓の大きさが保たれていることなどは急速進行性糸球体腎炎を示唆する所見である。高齢者の尿所見異常や腎機能障害ではMPAを常に念頭に置いて,ANCAを測定してみることが重要である。
 鑑別診断としては,PN,Wegener肉芽腫症,アレルギー性肉芽腫性血管炎などの血管炎症候群が第一にあげられる。その他,小型血管炎を呈する紫斑病性腎炎やクリオグロブリン血症なども鑑別の対象となる。両者はともに免疫複合体沈着型の腎炎を呈することでMPAから区別される。肺腎症候群を呈するGoodpasture症候群は,抗基底膜抗体(抗GBM抗体)の検出や糸球体へのIgGの線状沈着によって鑑別される。

治療・予後

成人では腎および生命予後不良の疾患であり,初期からの強力な治療がきわめて重要である。成人では臨床病型が腎限局型か,肺腎症候群型か,全身型かによって治療方針を考える。腎限局型で活動性や重症度が高ければ,メチルプレドニゾロンのパルス療法(500~1,000mgを3日間点滴静注)を行い,後療法として0.6~0.8mg/kg/日の経ロプレドニゾロンを投与する。ステロイド抵抗性を示す症例に対しては,CYの経ロ投与(0.5~2mg/kg/日)もしくはIVCYのいずれかを併用する。IVCYに抵抗性の場合はリツキシマブの使用も検討する。高齢者,活動性が低い症例,組織学的に線維性半月体が主体である症例などでは,強力な免疫抑制療法はリスクが高いことが予想され,経ロステロイドのみで初期治療を行う。一方,肺腎症候群型や全身型では当初より免疫抑制薬を併用した強力な免疫抑制療法の導入を考慮する(6, 7)。寛解維持期には少量の経ロステロイドにプリン代謝拮抗薬(アザチオプリン,ミゾリビン) やメソトレキセートの併用が推奨されている(8)。治療効果や再発のモニターは尿所見,腎機能,炎症反応,およびMPO-ANCAを参考にする。
 一方,小児において確立された治療指針はないが,疾患活動性が高ければ,ステロイドパルス療法と6クール以上のIVCY療法を併用し寛解導入を行う。寛解導入後はアザチオプリン,ミゾリビン,ミコフェノール酸モフェチル,メソトレキセートなどと少量の経口ステロイド薬で寛解維持療法を継続する。重症例や寛解導入困難な場合は血漿交換療法を併用する。また,従来の治療抵抗性であればリツキシマブも選択肢となる。高齢者では,感染症が死因の半分を占め,特に呼吸器系の感染症が予後に影響する。そのため,高齢者では過度の免疫抑制には慎重であるべきである。しかし,小児においては感染で死亡することは稀であり,感染症を恐れ積極的治療を控えることがあってはならない。

参考文献

1) 厚生労働省特定疾患「進行性腎障害」急速進行性腎炎分科会. 急速進行性腎炎症候群の診療指針 第2版. 厚生労働省特定疾患進行性腎障害に関する調査研究班報告. 日腎会 53:509-555, 2011
2) Falk RJ, Terrell RS, Charles LA, Jennette JC. Anti-neutrophil cytoplasmic autoantibodies induce neutrophils to degranulate and produce oxygen radicals in vitro. Proc Natl Acad Sci USA 87:4115-4119, 1990
3) 急速進行性糸球体腎炎診療指針作成合同委員会.急速進行性腎炎症候群の診療指針.日腎会誌 44:55-82, 2002
4) 日本腎臓学会 編. CKD診療ガイドライン2013. 東京医学社, 東京, p140-150, 2013
5) Uemura O, Nagai T, Ishikura K, Ito S, Hataya H, Gotoh Y, Fujita N, Akioka Y, Kaneko T, Honda M. Creatinine-based equation to estimate the glomerular filtration rate in Japanese children and adolescents with chronic kidney disease. Clin Exp Nephrol.in press
6) Guillevin L, Cohen P, Mahr A, et al. Treatment of polyarteritis nodosa and microscopic polyangiitis with poor prognosis factors: a prospective trial comparing glucocorticoids and six or twelve cyclophosphamide pulses in sixty-five patients. Arthritis Rheum 49:93-100, 2003
7) Ribi C, Cohen P, Pagnoux C, et al; French Vasculitis Study Group. Treatment of polyarteritis nodosa and microscopic polyangiitis without poor-prognosis factors: A prospective randomized study of one hundred twenty-four patients. Arthritis Rheum 62:1186-1197, 2010
8) Jayne D, Rasmussen N, Andrassy K, et al. European Vasculitis Study Group. A randomized trial of maintenance therapy for vasculitis associated with antineutrophil cytoplasmic autoantibodies. N Engl J Med 349:36-44, 2003
:バージョン1.0
更新日
:2014年10月1日
文責
:日本小児腎臓病学会
成長ホルモン療法の助成に関して
腎機能障害が進行し、身長が-2.5SD以下の場合でがつ成長ホルモン治療の対象基準を満たす場合は、小慢による成長ホルモン治療助成の対象となります。
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