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ループス腎炎

るーぷすじんえん

Lupus Nephritis; LN

告示番 号40
疾病名ループス腎炎
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概念・定義

全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus: SLE)は,抗DNA抗体を含む免疫複合体(immune complex)の組織沈着により起こる多臓器病変を特徴とする全身性の炎症性自己免疫疾患である。なかでも,ループス腎炎(lupus nephritis: LN)は,SLEに合併する最も頻度の高い臓器病変であり,予後を決定する因子である。

病因・病態

SLEの原因はいまだに不明であるが,アポトーシスをきたした細胞の処理機構の異常とそれに伴う異常免疫反応が原因と考えられている(1, 2)。
アポトーシスした細胞からは,二重鎖DNA (double-stranded DNA:dsDNA)やピストン等のヌクレオソームの構成成分が小さな泡に内包された状態で細胞表面に表出する。その際に,アポトーシスの制御機構やアポトーシス産物の処理機構の異常が伴うと,これらのヌクレオソームの構成成分が抗原提示細胞(antigen-presenting cell)によりT細胞に提示され,その結果,自己反応性のT細胞が発生し,引き続きB細胞による抗dsDNA抗体や抗ピストン抗体等の自己抗体産生が起きると推定されている。
抗dsDNA/抗ピストン抗体による免疫複合体は,血流により運ばれ腎を含む諸臓器に沈着する,もしくは標的臓器の細胞内のヌクレオソームの構城成分疫複合体を貧食し活性化し,炎症性サイトカインやケモカイン,凝固系の活性化因子等を放出し,持続的に炎症反応と組織障害をもたらす。一部の自己抗体は細胞に直接の傷害性を示す。このような一連の炎症,組織障害機序が糸球体を主とする腎組織に生じることによりLNが発症すると考えられている(3)。
SLEの発症には,①トリガー相(遺伝要因,環境要因),②レギュレーション相(アポトーシスの異常T細胞受容体や制御性T細胞の異常トレランスの破綻),③エフェクター相(自己抗体による炎症反応)の三つの相に分けることができる。
トリガー相の因子としては,若年女性,人種(黒人),紫外線,薬剤(薬剤誘発性ループス: drug-induced lupus),性ホルモン,ウイルス感染補体欠損(C1q),DNAse1の異常等が知られている。また,一卵性双生児の双方での発症は30%だが二卵性双生児間では5~10%であり,遺伝的素因の関与も示唆されている。

臨床徴候

わが国の小児SLE臨床症状の頻度は,頬部紅斑80%,発熱74%,血液学的異常80%等であったが,LNは初診時に48%が,経過中に70%の合併がみられた(4)。
LNの臨床症状は,軽度の蛋白尿や血尿のみの例から,ネフローゼ症候群を呈する例,さらには腎機能障害を伴い急性糸球体腎炎様の症状を呈するものまで多岐にわたり,SLEの生命予後の重要な決定因子となっている。

診断

アメリカリウマチ協会によるSLEの診断基準を表1に示した。この診断基準では,蛋白尿0.5g/日以上あるいは随時尿3+,細胞性円柱の出現を腎障害としている。
ただし,初発時には明らかな尿所見がなく腎生検によって所見を認める症例(silent lupus nephritis)を加えると,ほぼ全例でLNを合併する(4)。腎炎の重症度の評価と治療方針決定のため,初発時の腎生検は欠かせない。
LNの組織分類は2003年に表2のようなISN/RPS(International Society of Nephrology/Renal Pathology Society)分類が発表され,巣状/びまん性,分節性/全節性が明確に定義されることによって定量化され,世界的な基準で正確に病変を評価できるようになっている(5)。

 

表1 SLEの診断基準
1. 頬部紅斑
2. ディスコイド疹
3. 光線過敏症
4. 口腔内潰瘍
5. 非びらん性関節炎
6. 漿膜炎
 a) 胸膜炎
 b) 心膜炎
7. 腎障害
 a) 0.5g/日以上,もしくは定量しなかったときは3+以上の持続性蛋白尿
  あるいは
 b) 細胞性円柱
8. 神経障害
 a)けいれん
 b)精神障害
9. 血液学的異常
 a) 溶血性貧血
 b) 白血球減少症4,000/mm3未満
 c) リンパ球減少症1,500/mm3未満
 d) 血小板減少症10×104/mm3未満
10. 免疫学的異常
 a) 抗DNA抗体
 b) 抗Sm抗体
 c) 抗リン脂質抗体陽性(抗カルジオリピン抗体異常値,ループス抗凝固因子陽性,血清梅毒反応の生物学的偽陽性のいずれか)
11. 抗核抗体
SLEの診断:同時,あるいは経過中のどの時点にでも,上記11項目中,4項目以上が存在する場合,SLEと診断する

表2 ループス腎炎の組織分類
ClassI:微小変化メサンギウムルーブス腎炎
 光顕にて正常糸球体だが,蛍光抗体法にてメサンギウムに免疫沈着物を認める。

ClassII:メサンギウム増殖性ループス腎炎
 光顕にてメサンギウムに限局したメサンギウム細胞の増生(程度を問わない)とメサンギウム基質の増加がみられ,メサンギウムに免疫沈着物陽性。蛍光抗体法や電顕にて孤立性の上皮下または 内皮下沈着物がみられても,光顕ではみられない。

ClassIII:巣状ループス腎炎
 活動性であれ非活動性であれ,全糸球体の50%未満に,分節性もしくは全節性の病変を認める巣状糸球体腎炎を指す。病変は管内性および管外性糸球体病変を含む。典型的には巣状内皮下免疫沈着物があって,メサンギウム変化はあってもなくてもよい。
 III(A):活動性病変のみ:巣状増殖性ループス腎炎
 III(A/C):活動性および慢性病変:巣状増殖性および硬化性ループス腎炎
 III(C):慢性非活動性で糸球体の癌痕をみる:巣状硬化性ループス腎炎
 ※巣状とは採取した全糸球体の50%未満に病変がみられるもの,びまん性は全糸球体の50%以上に病変があること。分節性は一つの糸球体内の病変が係蹄の半分未満であること。全節性は糸球体内の病変が係蹄の半分以上であること。

ClassIV:びまん性ループス腎炎
 活動性であれ非活動性であれ,全糸球体の50%以上に,分節性もしくは全節性の病変を認めるびまん性糸球体腎炎を指す。管内性および管外性糸球体病変を含む。典型的にはびまん性の内皮下 免疫沈着物を認め,メサンギウム変化はあってもなくてもよい。
 IV-S(A):活動性病変:びまん性分節性増殖性ループス腎炎
 IV-G(A):活動性病変:びまん性全節性増殖性ループス腎炎
 IV-S(A/C):活動性および持続性病変:びまん性分節性増殖性および硬化性ループス腎炎
 IV-G(A/C):活動性および持続性病変:びまん性全節性増殖性および硬化性ループス腎炎
 IV-S(C):瘢痕を伴う持続性非活動性病変:びまん性分節性硬化性ループス腎炎
 IV-G(C):瘢痕を伴う持続性非活動性病変:びまん性全節性硬化性ループス腎炎

Class V: 膜性ループス腎炎
 全節性または分節性に上皮下免疫複合体またはその形態的残骸が光顕,蛍光抗体法,電顕のどれかで認める。メサンギウム変化のあるなしにかかわらない。V型がIII型もしくはIV型に合併するときは両者を診断名とする。

ClassVI:進行した硬化性ループス腎炎90%以上の糸球体が全節性に硬化し,残存糸球体機能がないとき。

治療

SLEの治療は2段階に分けて考えることが重要である。すなわち,速やかに炎症反応を鎮静化するための「寛解導入療法」,さらには,自己免疫反応の再燃を抑制し,寛解を長期維持するための「寛解維持療法」である(6)。それぞれの薬剤の特性や役割を理解し,使い分けることが必要である。

1) 小児LNの寛解導入療法
a. ステロイド薬
 寛解導入療法の中心は大量のステロイド薬である。大量のステロイド薬は自己免疫反応と炎症反応を同時に抑制し,即効性を有する。ステロイド薬の使用法は,I,II型では,プレドニゾロン(PSL)1~2mg/kgのみを,III,IV型ではさらにステロイドパルス療法(methylprednisolone pulse therapy: MPT)を併用することが多い。一般的には,2~3クールのMPTで臨床症状や検査所見の著明な改善が得られる症例が多い。また,MPTは経口PSLの開始量を減らす効果ももつ。SLEは血栓症の危険が高くMPTの施行時には,ヘパリンやメシル酸ナファモスタット等を併用し血栓症の防止に努める。経ロステロイド薬の減量は,抗dsDNA抗体の低下,補体価の正常化,腎機能・血液学的異常・赤沈値の改善を目安に行う。

b. シクロフォスファミド
 III型とIV型,特にIV型には,免疫抑制薬として有効性のエビデンスのあるシクロホスファミド(cyclophosphamide: CPA)を用いる(6)。CPAには経口内服と大量静注療法(intravenous cyclophosphamide: IVCY)の二つの投与法があるが,経口より即効性の高いIVCY選択することが多い。副作用として性腺障害,悪性腫瘍があるため,総投与量を減らすことが望ましい。
IVCY以外の免疫抑制薬の選択肢のある現在では,4~6回のIVCYの投与で寛解を得,かつ十分に疾患活動性が鎮静化している場合は,以後はCPA以外の免疫抑制薬 [アザチオプリン(AZP: azathioprine),ミゾリビン(MZB: mizoribine),ミコフェノール酸モフェチル(MMF: mycophenolate mofetil),タクロリムス(TAC: tacrolimus) 等]を用いて寛解維持する方法も推奨される。

c. その他の薬剤
 近年,成人SLEの寛解導入・維持においてMMFがIVCYと遜色ない効果を有するという報告が増えている。最近のコクランレビューでは,MMFはIVCYと比較し,副作用も少なく比較的長期に使用可能という点で,IVCYより有用と結論している(7)。
しかし,小児SLEに対しては明確なエビデンスはまだ存在せず,ランダム化比較試験を含めた検討が必要である。

2)小児LNの寛解維持療法
 糸球体の硬化や癒着病変は不可逆的かつ進行性であり,再発による慢性病変の蓄積は腎機能低下につながる。一方,思春期前後の発症が多いため,再発によるステロイド薬の増量は成長障害の原因となる。そのため,寛解導入療法の大量ステロイド薬の速やかな減量と低用量のステロイド薬による寛解維持を目的に,AZP,MZB,MMF等の代謝拮抗薬,あるいはTAC,シクロスポリン(CSA: cyclosporine)等のカルシニューリン阻害薬を併用することが望ましい。

予後

かつて本症の予後は不良であったが,現在は5~10年の観察期間での比は稀となった。その背景には,免疫抑制薬の進歩とその積極的導入がある。
 1980年代初頭の小児SLEの5年生存率は,欧米では90%であったが,わが国では56%であった5)。
その後,1997年にはわが国でも5年生存率は96%に改善し,現在の10年生存率は95%以上で死亡は極めてまれである5)。小児SLEの腎予後についてはわが国のデータはないが,白人の16人のびまん性増殖性糸球体腎炎(diffuse proliferative glomerulo-nephritis)の患児の19年後の末期腎不全は2人(13%)という報告がある。今や5年や10年の生存が目標ではなく,通常の小児と同様の寿命を目指して治療を行う時代になった。成人においては,びまん性増殖性ループス腎炎の末期腎不全の危険因子は,腎生検時の血清Cr上昇,高血圧,ネフローゼ,貧血,再発である。一方,V型では増殖性病変の合併が危険因子とされている。

参考文献

1) Rahman A, Isenberg DA. Systemic lupus erythematosus. N Engl J Med 358:929-939, 2008
2) SilvermanE, et al. Systemic lupus erythematosus. In: Cassidy J (eds), Textbook of Pediatric Rheumatology.6th ed, Elsevier, Philadelphia, 315-343, 2011
3) Mortensen ES, Fenton KA, Rekvig OP. Lupus nephritis: the central role of nucleosomes revealed. Am J Pathol 172:275-283, 2008
4) Takei S, Maeno N, Shigemori M, et al. Clinical features of Japanese children and adolescents with systemic lupus erythematosus: results of 1980-1994 survey. Acta Paediatr Jpn. 1997; 39:250-256
5) Weening JJ, D'Agati VD, Schwartz MM, et al; International Society of Nephrology Working Group on the Classification of Lupus Nephritis; Renal Pathology Society Working Group on the Classification of Lupus Nephritis. The classification of glomerulonephritis in systemic lupus erythematosus revisited. Kidney Int 65:521-530, 2004
6) Flanc RS, Roberts MA, Strippoli GF, et al. Treatment for lupus nephritis. Cochrane Database Syst Rev :CD002922, 2004
7) Henderson L, Masson P, Craig JC, et al. Treatment for lupus nephritis. Cochrane Database Syst Rev :CD002922, 2012
:バージョン1.1
更新日
:2015年3月30日
文責
:日本小児腎臓病学会
成長ホルモン療法の助成に関して
腎機能障害が進行し、身長が-2.5SD以下の場合でがつ成長ホルモン治療の対象基準を満たす場合は、小慢による成長ホルモン治療助成の対象となります。
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