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紫斑病性腎炎

しはんびょうせいじんえん

Henoch-Schönlein purpura nephritis; HSPN

告示番 号34
疾病名紫斑病性腎炎
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概念・定義

血管炎の国際分類(1)のHenoch-Schönlein紫斑病の定義は,触知可能な紫斑(palpable purpura)を必須項目とし,皮膚もしくは腎組織へのIgA沈着腹痛,関節炎のいずれかが存在する病態としている。
 1837年にSchönleinが紫斑と関節痛との関連を報告し,1874年にHenochが消化器症状と腎障害との関連を報告し,Henoch-Schönlein紫斑病(HSP)の概念が確立した。日本で汎用されるアレルギー紫斑病は,Oslerがこの疾患がアナフィラキシー反応によって生じると仮説を立て,提唱したアナフィラクトイド紫斑病(anaphylactoid purpura)という用語の訳であるが,疾患の本体はアナフィラキシー反応でなく免疫複合体疾患であることが明らかになり,この用語は用いられなくなってきている。現在ではHenoch-Schönlein紫斑病 (HSP)との呼び名が一般的である。
 HSPは,小児の血管炎としては川崎病に次いで多く,HSPに合併する糸球体腎炎,Henoch-Schönlein 紫斑病性腎炎 (Henoch-Schönlein purpura nephritis :HSPN) は小児の二次性糸球体腎炎のなかで最も多い。
 HSPNは,IgA腎症と同様に腎糸球体メサンギウム領域にIgA優位の沈着が認められる。IgA腎症と紫斑病性腎炎の間の唯一の違いは,紫斑病性腎炎では皮膚に点状出血斑が認められることであり,糸球体病変から両疾患を鑑別することは困難であるとされる。両疾患ともに糸球体メサンギウム領域を中心にIgAの沈着を認め,HSPの皮膚病変は後毛細血管細静脈を中心に発生する白血球破砕性血管炎であり,病変部位にIgAの沈着を認める。

疫学

HSPはあらゆる年齢層で発症するが,成人より小児で発症することが多い。男女比は1.3~2.3:1と男性に多い傾向にある。発症は秋から冬に多く,上気道感染症が先行することが多い。年間10万人あたり約20人発症し,好発年齢は3~7歳(75%は2~11歳)である(2, 3)。
 HSPNの合併はHSPの症状が発現後1か月以内に発生する。しかし腎炎所見がHSPの他の症状に先行することは非常に稀である。

病因

紫斑病性腎炎の患者ではIgA腎症と同様に血中のIgA型免疫複合体(lgAIC)が高値を示す。特に発症初期や疾患活動性の高い時期にlgAICの増加が観察される(4)。したがってHSP腎炎もIgA腎症と同じくIgAICの糸球体への沈着によって引き起こされる疾患と考えられている。IgA分子のヒンジ領域の糖鎖異常もIgA腎症と同様にO結合糖鎖のガラクトース欠乏が報告されている(5)。しかし。なぜlgA腎症は腎臓だけが傷害され,紫斑病性腎炎では皮膚やその他の血管炎も生じるのか現在でも不明である。このように,病因や組織型にIgA腎症と多くの共通点を有しているが,なぜ紫斑病性腎炎のみに出血斑が生じるかは解明されていない。

症状

HSPでは下腿を中心に対称性にやや隆起した点状出血斑が出現する。皮膚の出血斑の病理所見は白血球破砕性血管炎,すなわち傷害された血管の周囲や血管内に好中球の浸潤と核の崩壊物が観察される血管炎であり,後毛細血管細削脈に発生する。
出血斑は100%の患者に認められ,関節痛は約80%に認められる。膝関節痛や足関節痛が多く軽度の腫脹を伴うことがあるが痛みはいち一過性である。発赤,熱感,関節液貯留は伴わない。腹痛が約60%に出現し,そのうちの半数の患者で消化管出血を伴い,下血を呈する患者が10%に認められる。これらの患者では内視鏡検査で消化管に出血斑が確認できる。関節痛と腹痛は出血斑が出現する前(1日前から最大2週間前)に認められることが多い。
 糸球体腎炎はHSPの約50%の患者に合併するとされるが,小児では20~56%と報告によって大きく差がある。全身症状発現後の数日から1か月以内に尿所見異常が発現する。約15%の患者は高血圧を合併して,急性糸球体腎炎様の症候を呈する。さらにネフローゼ症候群となっている場合には低蛋白血症による浮腫を伴う。

診断

HSPの診断は,米国リウマチ学会の診断基準では,①隆起性の紫斑,②急性の腹部疝痛,③生検組織での小動静脈壁の顆粒球の存在,④年齢が20歳以下,のうち二つ以上を満たせばよいとしている(1)。HSP発症後に顕微鏡的血尿や蛋白尿など尿検査異常を認めれば,HSPNの臨床診断は可能であり、臨床診断のための腎生検は不要である。ただし,腎病理組織所見(表1)と腎予後はある程度相関しており,表2に示すような症例は腎生検を施行し,早期に治療方針を決定すべきである。

表1 国際小児腎臓病研究班(ISKDC)による紫斑病性腎炎の組織分類と予後

Grade I 微小変化
Grade II メサンギウム増殖のみ
Grade III a) 巣状,b) びまん性メサンギウム増殖,半月体形成<50%
Grade IV a) 巣状,b) びまん性メサンギウム増殖,半月体形成 50~75%
Grade V a) 巣状,b) びまん性メサンギウム増殖,半月体形成>75%
Grade VI 膜性増殖性腎炎様病変

腎の病理組織像は,光顕では糸球体のメサンギウム細胞や内皮細胞の増殖性変化で,時に半月体や分節性の硬化,癒着,血栓,あるいは壊死像を伴う.国際小児腎臓病研究班(ISKDC)は本症の腎組織所見を6型に分類しているが,腎機能予後によく相関する(表)2)。


表2 紫斑病性腎炎における腎生検の適応

・急性腎炎発症
・ネフローゼ発症
・Nephrotic nephritis (急性腎炎+ネフローゼ)
・持続性蛋白尿(1g/日/m2)が1か月以上持続
・持続性蛋白尿(0.5~1g/日/m2)が3か月以上持続

治療

HSPに対しての特別な治療はない。安静を保ち症状に応じて対症的に薬剤を投与する。溶連菌やマイコプラズマなどの先行感染が疑われる場合,感受性のある抗菌薬を投与する。食物・薬剤などの原因が明らかな場合はその原因物質を避ける。しかしHSPNが出現した時にはその重症度に応じて次の治療を行う。
(1) 血尿のみか血尿に軽度蛋白尿(尿蛋白量0.5g/m2/日未満または早朝尿の蛋白/クレアチニン(Cr)比0.5未満(mg/mg))を伴う場合:腎生検は行わず,抗血小板薬(ジピリダモール5mg/kg/日,最大400mg/日)の投与を行う。ただし軽度蛋白尿が1年以上続く場合には腎生検を行って治療方針を決める。
(2) 血尿と中等度蛋白尿(尿蛋白量0.5~1.0g/m2/日または早朝尿の蛋白/Cr比0.5~1.0)を認める場合:腎生検は行わずに抗血小板薬(ジピリダモール5mg/kg/日,最大400mg/日)の投与を行う。ただし蛋白尿が6か月以上続く場合には腎生検を行って治療方針を決める。
(3) ネフローゼ症候群,高血圧,腎機能低下を認める症例や持続的蛋白尿(①高度蛋白尿(1.0g/m2/日以上,または早朝尿の蛋白/Cr比1.0超)が3か月以上,②中等度蛋白尿(前述)が6か月以上,③軽度蛋白尿(前述)が12か月以上)を認める場合:腎生検を施行し,組織学的重症度に応じて治療方針を決める。すなわちISKDC分類でI~IIIaの場合には前述のような抗血小板剤の投与を行い,IIIb~Vの場合には多剤併用療法(カクテル療法),ステロイドパルス療法,ステロイド・ウロキナーゼパルス療法,血漿交換療法,およびシクロスポリン療法などを行う。

予後

HSP自体の短期予後は良好で,通常数週間以内に回復し,多くの例(80%超)で単相性の臨床経過を呈するが,再発型(10~20%)や持続型(5%未満)を示す例もある(6)。しかし,再燃をみてもHSPNの合併のない限り治癒する。死亡率は1%未満で,それらの死因は重度の消化管腎,肺または神経系の障害による。特に腸穿孔や大量の消化管出血は重症化しやすい。一方,長期予後はHSPNの合併とその重症度に左右される。HSPNを合併した症例の腎不全移行率について,血尿単独あるいは血尿と軽度蛋白尿のみで臨床症状を認めない場合は5%未満であるが,血尿と高度蛋白尿が持続する場合や急性腎炎症候群を呈する場合には15%,ネフローゼ症候群を呈する場合には40%とされ,さらに急性腎炎症候群症状でなおかつネフローゼ症候群を呈したものでは尿異常が持続し,50%以上が腎不全に進展する(7)。一方,組織学的にはISKDCの重症度分類でGradeIII以上の場合には約20%が末期腎不全に進行している(8)。したがって臨床的にはネフローゼ症候群,高血圧,腎機能低下を認める症例や腎組織所見がISKDCの重症度分類でGradeIIIb以上の場合には重症HSPNと考えて積極的治療が行われる。

参考文献

1) Ozen S, Ruperto N, Dillon MJ, et al. EULAR/PReS endorsed consensus criteria for the classification of childhood vasculitides. Ann Rheum Dis 65:936-41, 2006
2) Saulsbury FT. Clinical update: Henoch-Schönlein purpura. Lancet 369(9566):976-8, 2007
3) Gardner-Medwin JM, Dolezalova P, Cummins C, Southwood TR. Incidence of Henoch-Schönlein purpura, Kawasaki disease, and rare vasculitides in children of different ethnic origins. Lancet 360(9341):1197-202, 2002
4) Kauffmann RH, Herrmann WA, Meÿer CJ, et al. Circulating IgA-immune complexes in Henoch-Schönlein purpura. A longitudinal study of their relationship to disease activity and vascular deposition of IgA. Am J Med 69:859-66, 1980
5) Allen AC, Willis FR, Beattie TJ, Feehally J. Abnormal IgA glycosylation in Henoch-Schönlein purpura restricted to patients with clinical nephritis. Nephrol Dial Transplant 13:930-4, 1998
6) Szer IS. Henoch-Schönlein purpura: when and how to treat. J Rheumatol 23:1661-5, 1996
7) Coppo R, Andrulli S, Amore A, et al. Predictors of outcome in Henoch-Schönlein nephritis in children and adults. Am J Kidney Dis 47:993-1003, 2006
8) Goldstein AR, White RH, Akuse R, Chantler C. Long-term follow-up of childhood Henoch-Schönlein nephritis. Lancet 339(8788):280-2, 1992
9)Mills JA, Michel BA, Bloch DA, et al.The American College of Rheumatology 1990 criteria for the classification of Henoch-Schönlein purpura. Arthritis Rheum. 1990;33:1114-21.
:バージョン1.0
更新日
:2014年10月1日
文責
:日本小児腎臓病学会
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