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微小変化型ネフローゼ症候群

びしょうへんかがたねふろーぜしょうこうぐん

Minimal change nephrotic syndrome; MCNS

告示番 号21
疾病名微小変化型ネフローゼ症候群
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概念・定義

ネフローゼ症候群は,糸球体毛細血管係蹄壁の障害により,高度蛋白尿,低蛋白血症と全身性の浮腫を生じる病態の総称である。臨床症候分類にてネフローゼ症候群を呈し,病理組織学的に光学顕微鏡上はほとんど変化を認めない (minor glomerular abnormalities) 疾患を,微小変化型ネフローゼ症候群 (minimal change nephrotic syndrome: MCNS) としている。1年間に小児10万人に2~5人がネフローゼ症候群を発症し,小児ネフローゼ症候群の約90%は原因不明な特発性ネフローゼ症候群であり,さらにその約90%が微小変化型ネフローゼ症候群である。

病因

1974年,Shalhoubは,微小変化型ネフローゼ症候群はT細胞によって産生された糸球体毛細管透過性充進作用をもつ液性因子(lymphokine)が原因ではないかと提唱した。この仮説は,微小変化型ネフローゼ症候群が,①細胞性免疫に影響を与える麻疹の罹患によって寛解すること,②副腎皮質ホルモンやシクロホスファミド治療に反応すること,③Hodgkin病の治療に伴いネフローゼ症候群が寛解し,その再発とともにネフローゼ症候群も再発することなどに基づいている。この仮説が発表されたのち,その液性因子を同定しようとする多くの試みがなされてきた。
これまで,微小変化型ネフローゼ症候群の原因となる液成因子として,VPF (Vascularpermeabilityfactor,血液透過性充進因子),IL-13,TNF-α,ヘモペキシンなどが報告されているが,いまだに確定には至っていない。さらに,最近,ステロイド依存性のネフローゼ症候群に対して,B細胞表面抗原CD20に対するモノクローナル抗体であるリツキシマブが有効である可能性が示され,ネフローゼ症候群の発症や再発にはT細胞だけでなくB細胞も関与する可能性が高いと考えられるようになった。

症状

1. 主要徴候

初発症状は浮腫,尿量減少が多い.浮腫の形成には重力が影響するため,朝は眼瞼に強く,午後から夕方は下肢や陰部に強い。腸管浮腫や血流不全による腹痛,下痢,嘔吐,膨満感や食思不振などの腹部症状も多い.急激な発症の際は,循環血漿量が急激に低下し,低血圧,まれにはショックを引き起こすこともある。高血圧を示す際は,急性腎不全の合併や巣状分節性糸球体硬化症や慢性糸球体腎炎の可能性を考慮する。

2. 合併症

a.感染症

IgGの低下,特異的抗体産生の低下,ステロイドや免疫抑制薬の使用により感染症の頻度が増加する。上気道感染症,肺炎,胃腸炎,尿路感染症,腹膜炎などの発症に注意すべきである。細菌感染症では,IgG2低下による肺炎球菌感染が増加し,時に重症化する。ウイルス感染症としては,水痘罹患により重症化することが知られている。また,帯状庖疹が増加する。


b.血栓症

凝固系の異常のほか,血液濃縮,浮腫による運動量減少,感染などが原因となる。血栓症は2~3%という報告もあるが,潜在的な血栓症はもっと多い可能性が示唆されている。動脈より静脈血栓症が多い。深部静脈,腎静脈,脳静脈洞,肺血栓症が多い。


c.急性腎不全

脱水や急激な発症に伴う腎前性の循環血液量の減少や尿細管内に,高濃度の蛋白尿により形成された塞栓による可能性が示唆されている。急性腎静脈血栓症によっても生じる。

診断

2013年に小児ネフローゼ症候群の診療ガイドラインが改訂され,国際小児腎臓病研究班(International Study of Kidney Disease in Children:ISKDC)による診断基準を基準とした診断が行われている(1, 2)(表) ネフローゼ症候群の診断は厚生省特定疾患ネフローゼ症候群調査研究班の診断基準(3)が用いられる。成人ネフローゼ症候群の診断基準は1973年に定められ(4),2010年に改訂されている(3)。小児ネフローゼ症候群の診断基準も1973年に定められ(4),血清総タンパク・血清アルブミンなどの絶対値が,乳児,幼児,学童により異なることと,尿タンパク量が早朝起床時尿でも定義きれている点で成人と異なる。

表. 小児ネフローゼ症候群の診断基準

以下 1. または 2. にてネフローゼ症候群の診断を行う



  1. 国際小児腎臓病研究班 (International Study of Kidney Disease in Children :ISKDC) の診断基準に基づき、
    高度蛋白尿(夜間蓄尿で40 mg/時/m2 以上または早朝尿で尿蛋白クレアチニン比 2.0 g/gCr 以上)、低アルブミン血症(血清アルブミン2.5g/dL以下)によりネフローゼ症候群と診断する。
  2. 以下の厚生省特定疾患調査研究班の診断基準を用いても良い
  3. ① 蛋白尿
    1日の尿蛋白量は 3.5 g 以上ないし 0.1g/kg、または早朝起床時第 1 尿で 300 mg/100mL 以上の蛋白尿が持続する。
    ② 低蛋白血症
    1)血清総蛋白量 ⇒ 学童・幼児: 6.0 g/100mL 以下、乳児:5.5 g/100mL 以下
    2)血清アルブミン量 ⇒ 学童・幼児:3.0 g/100mL 以下、乳児:2.5 g/100mL 以下
    ③ 高脂血症
    血清総コレステロール量 ⇒ 学童:250 mg/100mL 以上、幼児:220 mg/100mL 以上、乳児: 200 mg/100mL 以上
    ④ 浮腫

蛋白尿・低蛋白血症は本症侯群診断のための必須条件。
高脂血症・浮腫は本症侯群診断のための必須条件ではないが、これを認めればその診断はより確実となる。
蛋白尿の持続とは 3 ~ 5 日以上をいう。

微小変化型の確定診断には病理組織学的検査が必須である。ただし,小児の特発性ネフローゼ症候群は組織学的には,微小変化型が70~80%を占めていることが知られており,微小変化型の90%以上はステロイドによる治療に反応するステロイド感受性であるため,一般には腎生検は行わずにステロイド療法を先行させる(5,6)。

腎生検の適応として,発症時に①持続的血尿肉眼的血尿,②高血圧,腎機能低下,③低補体血症,④1歳未満などがあげられ,このような臨床所見を認める場合には微小変化型以外の組織型の可能性が考えられ,腎生検で組織型を確定したあとに治療方針を決定する(2,7,8)。

小児の特発性ネフローゼ症候群の組織型は,80~90%が微小変化型ネフローゼ症候群,5~10%が巣状分節性糸球体硬化症であり,残りを膜性腎症,膜性増殖性糸球体腎炎などが占める。

光学顕微鏡上はほとんど変化を認めないminor glomerular abnormalitiesであり,メサンギウム細胞増殖や係蹄壁の異常は認められない。蛍光抗体法でも免疫グロブリンや補体成分の沈着は認められない。電子顕微鏡のみにて,糸球体上皮細胞の足突起の消失と癒合(foot process effacement/fusion),更には細胞膜の微繊毛の増加などの変化を認めるが,本症に特異的な変化とはいえず,大量の尿タンパクを呈する疾患で認められるものと同様である。

鑑別診断

病理組織学的な鑑別として注意すべきはFSGSとの鑑別であり,FSGS病変はごく一部の糸球体にのみ病変を認めることより,必ずしも腎生検標本内にFSGS病変を見いだすことができるわけではなく,FSGSとの鑑別が不可能な場合もあることに留意する必要がある。

治療

自然寛解はまれであり,薬物治療を行うことが原則である。初期治療としては,ステロイド(プレドニゾロン)の経口投与が用いられることが多い。まず,ステロイドに対する感受性の評価が重要である。
ステロイド感受性症例では,頻回再発化やステロイド依存性になることをいかに抑制するかという点が重要であり,次に頻回再発型やステロイド依存性例に対しては,いかに再発を抑制しステロイドからの離脱を図れるかが重要である。また,ステロイド抵抗性症例では,いかに寛解導入するかが問題となる。

薬物療法

特発性小児ネフローゼ症候群の初発時の第一選択薬は,経ロステロイド薬である。わが国では,頻回再発型およびステロイド依存性ネフローゼ症候群にはシクロスポリン,シクロホスファミド,ミゾリビンのいずれかが用いられることが多い。また,ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群に対しては,ステロイド経口投与にシクロスポリンあるいはステロイドパルス療法のいずれかの併用,あるいは両者の併用が行われる。

予後

ネフローゼ症候群は,薬剤,特に経ロステロイド薬に対する反応性によって病型分類され,治療法選択や予後推定に重要である。小児の特発性ネフローゼ症候群はステロイド投与により80~90%は完全寛解となり,ステロイド感受性ネフローゼ症候群とよばれる。一方,残りの10~20%はステロイド投与にもかかわらず蛋白尿が持続するステロイド抵抗性ネフローゼ症候群である。
ステロイド感受性ネフローゼ症候群の約30%の症例は,初回のアタックのみで,その後は再発しない。治療終了後2年間再発しない場合には,その後,再発する可能性は低いと考えられる。10~20%の症例は,初回のステロイド治療終了数か月後に再発するが,その後,ステロイド感受性ネフローゼ症候群の再発を3~4回繰り返して治癒に至ることが多い。
残りの50~60%の症例は,ステロイドの減量や中止に伴って頻回に再発を繰り返す頻回再発型ネフローゼ症候群となる。わが国の頻回再発型ネフローゼ症候群の頻度は,ステロイド感受性ネフローゼ症候群の20~30%程度である。ステロイド依存性ネフローゼ症候群は,頻回再発型ネフローゼ症候群の重症型であり,その80~85%を占めると考えられる。
ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群では,種々の免疫抑制療法に反応して寛解に至る場合には腎予後は比較的良好であるが,治療に反応せずネフローゼ状態が持続する場合には,組織学的に巣状分節性糸球体硬化症を呈し,腎不全に進行することが多い。

参考文献

  1. Abramowicz M,et al: Controlled trial of azathioprine in children with nephrotic syndrome,A report for the international study of kidney disease in children. Lancet 1(7654):959-961,1970.
  2. 日本小児腎臓病学会.小児特発性ネフローゼ症候群診療ガイドライン2013.診断と治療社:東京,2013
  3. 進行性腎障害に関する調査研究班 難治性ネフローゼ症候群分科会:ネフローゼ症候群診療指針.日腎会誌53:78-122,2011.
  4. 上田 泰:総括研究報告(厚生省特定疾患ネフローゼ症候群調査研究班),昭和48年度研究業績,p7-9,1974.
  5. The primary nephrotic syndrome in children. Identification of patients with minimal change nephrotic syndrome from initial response to prednisone. A report of the International Study of Kidney Disease in Children.J Pediatr.1981;98(4):561-4
  6. Tarshish P, Tobin JN, Bernstein J, Edelmann CM Jr. Prognostic significance of the early course of minimal change nephrotic syndrome: report of the International Study of Kidney Disease in Children. J Am Soc Nephrol. 1997 May;8(5):769-76
  7. 日本腎臓学会 編.CKD診療ガイドライン2013. 東京医学社, 東京, 2013
  8. 日本腎臓学会 編.CKD診療ガイドライン2009. 東京医学社, 東京, 2009
:バージョン1.0
更新日
:2014年10月1日
文責
:日本小児腎臓病学会
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