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脊髄脂肪腫

せきずいしぼうしゅ

Spinal lipoma

告示番 号38
疾病名脊髄脂肪腫
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概念・定義

脊髄脂肪腫は潜在性二分脊椎を代表する先天異常(奇形)である.皮膚外胚葉と神経外胚葉の分離障害により発生し、
皮下と連続した脂肪組織が脊椎管内に侵入する.腰仙部に好発する.脂肪腫そのものによる脊髄圧迫及び神経組織牽引(脊髄係留)により、
膀胱直腸障害(排尿・排便障害)および下肢障害(運動障害・感覚障害・関節変形)等の症状が出現する。

脊髄脂肪腫は軟膜下脂肪腫、脊髄円錐部脂肪腫、脊髄終糸脂肪腫に分類される.脊髄円錐部脂肪腫は画像所見をもとにさらに分類され、
脊髄脂肪髄膜瘤も含まれる.一般に、脊髄脂肪腫としては脊髄円錐部脂肪腫及び脊髄終糸脂肪腫を指す(図1,2).

(国内で脊髄脂肪腫は通常spinal lipomaと英訳され、lipomyelomenigoceleは脂肪髄膜瘤として上述した通り、脊髄脂肪腫の亜型を指す.
しかし、海外の文献では脊髄脂肪腫としてlipomyelomeningocele, lipomeingoceleが使用されることもある.)

図1:脊髄円錐部脂肪腫

図1

図2:脊髄終糸脂肪腫

図2

病因

中枢神経系の原基となる神経管形成時の神経外胚葉と皮膚外胚葉の分離障害が原因となって各種二分脊椎症が発生するが、
分離が早期に起こり神経−皮膚外胚葉間に中胚葉系の間葉組織(脂肪細胞など)が迷入すると脊髄脂肪腫となる.
発生時期は一次神経管形成から二次神経管形成時期に相当する.脊髄髄膜瘤と異なり、葉酸による明らかな予防効果は証明さえていない.

脊髄脂肪腫では以下の要因により神経症状が発現する.一つは、神経管形成障害に伴う脊髄機能障害である.
これは脊髄脂肪腫発生過程の脊髄機能障害であり、外科的に治療はできない.2番目は脊髄脂肪腫そのものによる脊髄圧迫である.
3番目が脊髄係留(脂肪腫により、脊髄が正常より尾側に牽引された状態)であり、脊髄脂肪腫による症状発現に最も関与し、
かつ外科治療による効果が期待されるものである.

疫学

脊髄脂肪腫は、出生時に神経組織が露出される脊髄髄膜瘤に代表される開放性二分脊椎と異なり、必ずしも早期診断されるとは限らない.
従来の海外の報告では出生約4000 件に1名の発生率と推定されているが、出生1万人あたり0.3-0.6とするものもあり、
正確な発生頻度は不明である.国内における全国レベルでの統計調査は存在しない.

臨床症状

脊髄脂肪腫の95%以上は腰仙部に存在するため、多様な下肢運動感覚障害及び膀胱直腸障害を呈することが多い.
発症時期は出生直後から成人期発症例まで、部位・脂肪腫の種類・大きさなどにより、大きな幅がある.
また、同じ外胚葉系である病変部皮膚に通常は異常所見を伴う.

皮膚症状:脊髄脂肪腫では、ほとんどの症例で何らかの皮膚症状を伴っている.代表的皮膚症状は脂肪による皮下腫瘤、
血管腫、異常毛髪、皮膚洞、皮膚陥凹、皮膚の突起である.皮下脂肪種に血管腫など複数の皮膚症状を伴うことも珍しくない(図3).

下肢運動感覚(筋骨格系)障害:脊髄脂肪腫患者の1/2-1/3に認められるといわれる.足関節内反、
下肢長の左右差、足底サイズの左右差、下肢難治性潰瘍形成、側弯症.歩容の変化、下肢筋力低下、疼痛.
これらにより運動障害を生じる.

膀胱直腸障害:神経因性膀胱が原因となった繰り返す尿路感染、排尿困難、失禁、尿管の拡張、腎機能障害、
便秘を合併する.膀胱直腸障害は、一度出現すると改善の可能性が他の症状と較べ最も低い.
腎機能温存は長期的な生命予後を占う上で重要となる.

図3

図3

検査所見

脊髄腰仙部MRIにて皮下脂肪種と同じ高信号域をT1およびT2強調画像で認める.通常は皮下脂肪と連続しているが、稀に明らかな連続を認めない場合もある(図1).
腰仙部脊椎3D再構成画像では、脂肪腫の皮下脂肪層への連続部位に一致して病的二分脊椎の存在を認める.

腰仙部から尾骨端にかけた体幹背側正中あるいは傍正中部に上述したなんらかの皮膚病変を認めることが多い.

下肢変形・足関節内反、足底長・下肢長の左右差、脊椎後側弯を伴うことがある.

泌尿器科検査で神経因性膀胱に一致した所見を呈することもある.

診断の際の留意点

脊髄脂肪腫の診断には、MRIにより脊髄硬膜内に脂肪腫を認めることが確定診断に不可欠である.
脂肪腫は大半の症例で皮下脂肪層と連続するが、稀に連続しない場合も認められる.病的二分脊椎の診断も重要であるが、
年少児では生理学的二分脊椎との鑑別診断は容易でないこともあるので、二分脊椎濃霧のみで診断することはできない.
皮膚症状・下肢運動感覚障害・膀胱直腸障害のうち、下肢運動感覚障害及び膀胱直腸障害は年少児では明らかでないこともある.
膀胱直腸機能障害(神経因性膀胱)の正確な診断には泌尿器科による精査が必要である.

治療

脊髄脂肪腫の治療では、外科手術が必要となる.
手術の目的は脊髄係留の解除、及び脊髄脂肪腫による脊髄圧迫軽減(脊髄円錐部脂肪腫の場合)である.
脊髄脂肪腫の部位・病態に応じて脊髄係留解除術及び脊髄脂肪腫切除術を行う(図4).
脊髄空洞症を合併する場合は、空洞くも膜下腔短絡術が行われることもある.

排尿障害に対しては抗コリン剤投与、導尿が行われるが、進行例に対しては泌尿器科手術が必要になることもある.
排便障害に対しては内服・浣腸・洗腸など保存的治療が行われる.

下肢関節変形に対しては、装具療法の適応となるが、進行の程度によっては整形外科手術が必要になる.

図4:脊髄円錐部脂肪腫(尾側型)手術

図4:脊髄円錐部脂肪腫(尾側型)手術

合併症

下肢運動感覚障害、排尿・排便障害
鎖肛、尿道下裂に合併することも稀でない.
脂肪腫の中には、全身の奇形症候群と合併して発生するものもある(総排泄腔外反症、クラリーノ症候群、
OEIS複合症候群、VACTERL症候群など).

予後

機能的予後は脊髄脂肪腫の部位、脊髄高位、脂肪腫の大きさ及び脊髄係留の程度により決まるが、
画像所見のみで予測することは困難である.
歩行は一部の重症例を除けば、多くの症例で制限はあるものの自力で移動できる.
排尿障害は、脊髄円錐部脂肪腫では多くの場合で自己導尿が必要になる.
脊髄脂肪腫術後、脊髄の再係留により神経障害が悪化・再現する頻度は脊髄円錐部脂肪腫の20-30%、
脊髄終糸脂肪腫でも2-3%といわれている.

成人期以降の注意点

脊髄再係留による脊髄係留症候群の出現は、通常は成長期の問題であり成人期以降に発症することは稀である.
しかし、妊娠、労働などの負担、加齢により前屈姿勢が増えると、
成人期になってから脊髄係留症候群を生じることもある.

排尿障害管理は生涯にわたって必要であり、腎不全予防のため定期的泌尿器科検査を受けることが望まれる

参考文献


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  • McLone DG, Thompson DNP: Lipomas of the spine. in McLone DG (ed): Pediatric Neurosurgery:
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  • Pang D, Zovickian J, Oviedo A: Long-term outcome of total and near-total resection of spinal
    cord lipomas and radical reconstruction of the neural placode, part II: outcome analysis and
    preoperative profiling. Neurosurgery 66: 253-273, 2010
:バージョン1.0
更新日
:2017年3月17日
文責
:日本小児神経外科学会
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